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街で見かけたくどうれいん

 
 今日は映画でも観ようと思っていたのだが、スタバで文章を書こうとしたり本を読もうとしてもどうにも調子があがらない。朝早く起きすぎてしまったせいで、頭の調子が悪かった。睡眠は大事。でも一回起きた後また布団の中でグズグズ寝たはずなんだけどな。
 外が暑いせいもある。4月の後半だというのに季節外れの暑さが続いている。途端に暑くなったりすると身体がついていけない。寒暖差にはとにかく弱いのである。
 せっかく天気が良いので、街をぶらつくことにした。頭の調子が悪いときは変に頭を使おうとしないで、身体を動かせばいい。
 盛岡では今、紺スタというのをやっている。紺屋町かいわいスタンプラリーの略。昔ながらの風情が残る紺屋町かいわいのお店を巡ってそのお店のスタンプを集めるというイベントだ。そんなことでもないと入らないようなお店に入ってみる。
「こんにちは~」
 ヨーロッパ雑貨みたいなのを扱うお店。スタンプは店の外にあるけれど、無言でスタンプを押して帰るのは何か悪い気がして、中に入り気のない挨拶をする。
 せっかくだから何か買って帰りたいところだけど、ヨーロッパ雑貨はみんなそこそこの値段がするし、部屋には何も置かない主義なので特に買いたいものもない。
 けれど店に入った以上、何か買いたい。雑貨に混じって謎のスナック菓子を見つけた。カルディとかに置いてそうなやつ。でもカルディにも置いてないような珍しいやつ。
 何か辛そうなそのスナックを買うことにした。300円位だった。そんな風にしてスタンプを集めて回る途中、くどうれいんを見かけた気がした。女子二人で赤レンガ館の近くを歩いていた。
 盛岡といえばくどうれいん、くどうれいんといえば盛岡である。
 くどうれいんとすれ違ったとしても何もおかしくない。ただ、確証はなかった。何となくそんな気がしただけだ。生くどうれいんを見たのは去年9月位のよ市以来。くどうれいんに似た感じの人はたくさんいそうだ。
 すぐにそのことは忘れ、スタンプ集めを続けた。
 スタンプを6個くらい集めた頃、何だか疲れて座りたくなった。映画まで1時間位。
 暑さのせいもあって、飲みたくなった。飲むとはこの場合アルコールのことを指す。世間はゴールデンウィークである。早い時間から飲んだっていいじゃないか。映画の前だっていいじゃないか。という訳でスタンプラリー参加店舗のひとつアッカトーネに入る。

 14時からやっているワインのお店で、ワインの角打ちができる。


ソーヴィニヨンブラン

 カジュアルな白ワインをグラスで。飲みながら千葉雅也の『センスの哲学』を読む。リズムがどうのこうの。
 映画の時間が迫ってきたので、ワインを飲み干しチェイサーの水も飲み干す。
 さあ立ち上がろうとした所で、客が現れた。間が悪いなぁ、と思って3人組の客を眺めたら、その内の1人がくどうれいんだった。
 いや、くどうれいん風に見えただけかも。
 つい最近くどうれいんの新作エッセイ読んで、それがあまりにも良かったからくどうれいんのことをつい考えてしまうのである。だから小柄で丸めがねの女性はみんなくどうれいんに見えてしまうだけかも。


コーヒーにミルクを入れるような愛


「れいんさんは何にします?」
 3人組の内の1人の女性がそう言った。
 れいんなんて名前がそうそうあるわけがない。やっぱりくどうれいんだ!

 アッカトーネはそんなに広くないお店で、3人組が座れる席はそう多くない。
 くどうれいんさんは僕に背を向ける形で、手が届くような位置に座っていた。
 僕は店員を呼び止めた。
「赤ワインお願いします」
 赤ワインを飲んだら映画には間に合わない。でも、こんなチャンスは2度となかった。映画を観るのはいつでもできるけれど、くどうれいんの会話を盗み聞きできるチャンスは2度とない。

 ということで、それからは本を読むふりをしながらくどうれいん含む3人の会話を盗み聞きした。
 この前読んだエッセイの話も出てきた。くどうさんは淀みなく話した。それはそうだろう。すでにエッセイに書いている話なのだから。

 くどうさんら三人組は、30分も話さないで次なる目的地に向かった。
 その間、僕の耳はずっとダンボのようだった。

 盛岡は広いようで、中心部は割りと狭い。休みの日に歩いていると見知った顔に出くわすことも多くなった。
 くどうれいんも同じ街に暮らし、同じ街で書いているんだな。
 改めて思った。
 またひとつこの街が好きになった。
 いつかはくどうさんと挨拶を交わせるようになったらいいな。
 そんなことを考えながら、僕の盛岡暮らしは続く。

 

 

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