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だってゴールデンウィーク

 ゴールデンウィークという言葉ですべてが許されてしまう気がする。僕は接客業で、シフト制で、ゴールデンウィークなんて本来関係ない。それでもやっぱりゴールデンウィークは特別なものだ。街に人が溢れている。皆ゴールデンウィークだって顔で歩いている。人の数がいつもと全然違う。祝祭感がある。
 僕は人混みの中を歩くのが嫌いではない。大勢の人と接触したり会話をするのは全く好きではないが、人混みにおける人とは全員モブであり、鑑賞物にすぎない。彼らは単に街の風景である。動く街の風景。そこにはたくさんの情報が詰まっている。情報が多いのは楽しい。見ていて飽きない。だから僕はゴールデンウィークの街中を歩くのが嫌いではない。

 道を歩いていたらふと見覚えのある顔を見かけた。不思議だ。きょろきょろして歩いている訳ではないのに、見覚えのある顔を見ると気付いてしまう。向こうもこちらに気付いたのか知らない、目は合わなかった、でも顔が少し動いた。その動きで多分向こうも気づいたのだろう、と思った。一瞬で通り過ぎたのでよくわからない、彼女は白い服を着ていた。何かブリブリしていると思った、キャピキャピしていると思った。思っていた以上に若い。店にいるときは黒い服を着ていた。もっとフォーマルな制服みたいな服だった。彼女は友達と一緒に歩いていた。普通の若い子みたいだった。

 まだ昼間だったけれど飲みたい気分になって、よく行くクラフトビールのお店へ。よく行く店があるのは良い。落ち着く。サードプレイス。サードプレイスにする為にはある程度通わないといけない。歩いていてふと思い出した。思い出したときが行くべきとき。

シラー

 昼間からビールを飲むのは贅沢だ。ゴールデンウィークならではという気がする。休日で、人がたくさん休んでいるから、自分も許されている気がする。シフト制だから平日が休みのことも多いけれど、平日はあまり飲む気になれない。
 
 さっきすれ違ったのは、2回行ったことのあるワインと日本酒バーのソムリエの女性だった。
3つの仕事を掛け持ちしていて、休みが全然ないと愚痴をこぼしていた。
 ゴールデンウィーク休めて良かったね、と思いながらビールを飲み読書タイム。


キーマカレー

 その後、キーマカレーをつまみにバーでカクテルを2杯飲んで帰路につくと、その途中でまたさっきのソムリエの女性とすれ違った。今度は女性の方も完全に気づいてびっくりした顔をしている。でも一瞬ですれ違う。
 思い出した時が行くべきとき。
 次の休みはあの女性がいるワインバーにまた行こうかな。ゴールデンウィークが終わったら。

 

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