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かばさんの習字教室②


習字教室と聞くと


学校の授業のように
一見、どこか
かしこまったような

姿勢から教わり、
しっかりと先生の話を聞いてから
黙々とひたすら書く、


そんな真面目なイメージがあった。



フリースタイル



かばさんの教室のスタイルは

とっても自由。



教室が開放している時間は


土曜日のお昼過ぎから
夜は大人や高校生も来ていたので
夜8時ころまでだろうか。

(子どもだったので終わりの時間はわからず…)

その時間内なら、


好きな時間に行って、
好きなだけ書いて
好きな時に帰る。
好きなだけお喋りもOK


なんなら
習字教室に

行く、行かない、の選択も自由。
欠席の連絡も特にいらなかった。


必要な道具はすべて
かばさんの教室で準備されていて
半紙も使い放題。


手ぶらで行くだけで良い。


かばさんが各学年ごとのお題を
ひとりひとりに
名前入りで準備してくれているので


そのお手本を見ながら
その日1番よく書けたものを
1枚だけ提出するのが
教室のミッション。



早い子は来て5分も経たずに帰る。


じっくり取り組みたい子は
かばさんのアドバイスをもらいながら
数時間もかけて渾身の1枚を提出する。


早く遊びに行きたい、ずる賢い子は

そのお手本を写し書きして
提出しようとするが


かばさんにはもちろん、お見通し。





プレハブの中の世界


アルミサッシの洗礼を受け

あたたかく中へ迎え入れてくれた
かばさん。


プレハブの中へ入ると

墨汁の香りが部屋中に
ふわりと漂う。


広さは6畳ほどだろうか。

ふたり掛けの長方形の
会議用テーブルが

全部で6本、
2列に向かい合わせに
くっつけてある。


フェルト絨毯の上に
ぺたんこの座布団が置かれた

シンプルな空間だ。


席は決まっておらず
空いている好きな席で書く。



相棒探し



入ってすぐ右側に
習字の古半紙や資料が
壁を沿うように
山積みにされていて

そこはかばさんにしか
どこに何があるかわからない、

ちょっと雑然としたスペース。


そこの一画にかばさんが用意してくれた
今週のお手本が箱の中に入っている。


上から順番に半紙をめくりながら
自分の名前を探す。


お手本を見つけたら、


次はその日の作品の出来を左右する相棒、
”筆探し”をする。

毛の種類、硬さ、質、
持ち手の太さが異なる数十本の筆が

タオルの上にずらりと並ぶ。


お題を書くための大筆、
学年と名前を書くための小筆、

2本選抜しなければならない。


ここで相性の悪いものを選んでしまうと
あとが大変。


書いている途中に毛がどんどん抜けてくる筆、
毛先が割れて墨がかすんでしまう筆、


そうなると
集中力も切れるし
また筆を選び直すはめになる。

わたしはじっくりと取り組みたい
タイプの子どもだったので


その日のベストを出すために
道具選びは吟味していた。

この筆選びも経験年数が経ってくると
一目で”これかな?”と
すぐに良い筆を見極められるが


小学1年生のおんなの子には
そんな目利きはない。


迷っているとかばさんが一緒に
上質な筆を選んでくれる。


どの筆もすっかり
くたびれていて、イマイチ…


そんなツイている日は
かばさんが離れにある倉庫から
新しい筆を出してくれる。


まだ誰も使っていない、
新品の真っ白な筆に

まっくろい墨汁がじんわりと
すこしづつ筆に染みていく様子は

子どもながらに優越感に浸った。





小さな手に
かばさんに選んでもらった2本の筆と
お題の半紙を持って席に着いたら、


あとはとにかく自由に書く。


途中で飽きたら
筆でお絵描き、

お題に飽きたら
かばさんが別のお題を
その場で書いてくれる。

かばさんと学校での出来事を話したり

皆それぞれに習字の時間を楽しむ。


お題を何枚か書いたら、
かばさんのところへ持っていき

添削してもらう。


ここで

かばさんの習字教室の
真骨頂が炸裂するのだ。




君は天才!!


かばさんしか使えない、
朱色の墨がたっぷりと含んだ筆を片手に

書いた作品を1枚、1枚
めくって見ていくかばさん。


わたしはドキドキしながら
その様子を見守る。


かばさんは作品を一目見て

開口一番、

「ゆみちゃん!天才ッ!!!』


と同時に

かばさんの
ドラえもんのように丸い
ふっくらとした手が大きく動く。


朱色の墨で
豪快に大きく花丸をくれた。


それはその1枚に限らず、

”ここなんて最高!!”
”力強くていいね!”
”すごいねぇー!”
”この線がかけるなんて天才!”

と、何度も褒めてくれる。
それもかなり、大げさに。



両親や身近な大人に
ここまで大きなリアクションで
褒めてもらったことがなかったわたしは


かばさんのあまりの褒めっぷりに


(本当にそう思ってるの?)と
心の中で困惑した衝撃は

今でも覚えている。



その後も教室に通うにつれて
わかってきた


かばさんの褒め褒めスタイルは
かなり度肝を抜くものだった。





つづく…♪













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