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言語や文字は誰のもの?

先日仕事の合間にテレビを見ていたら、絵文字を取り巻く世界について取り上げている番組だったので、つい見入ってしまった。

絵文字は元々日本発祥のものだが、以前はブラウザや携帯電話の会社によって文字化けしたり、他の絵文字に変わってしまうことがあった。

そこで文字の統一コードを管理しているユニコード・コンソーシアム(Unicode Consortium)が世界共通言語として管理するようになり、世界中の端末で絵文字を使えるようになった経緯がある。

今や絵文字を使う人は英語の話者よりも多いそうで、世界一使用する人が多い文字と言えよう。

新たに絵文字を登録するにはユニコード・コンソーシアムに申請するのだが、例えばLGBTの象徴である🏳️‍🌈は既にあったが、トランスジェンダーフラッグの絵文字は2020年に採用されるまで何度か申請が却下されてきた経緯がある。

また、絵文字のワインは赤ワインなので白ワインの絵文字を追加してほしい、という運動をしている人たちもいてロビー活動をしていた。

そこまでは「へぇ、そんな人達もいるのだなぁ」と思いながら見ていたが、識者の絵文字の問題点についての指摘に考え込んでしまった。

先にも述べたが、絵文字を管理しているのはユニコード・コンソーシアムという組織だ。マイクロソフトやアップル、グーグルといった世界的なIT企業の人達がメンバーとなり、そのような企業が協賛金を出し合って運営している。

大手IT企業に多いのは社会を動かしている人に多い白人男性たちで、彼らの価値観で絵文字の採用が決められている。そのため大企業の意向が優先的に反映されやすく、また、マイノリティからの意見が反映されづらい、といった問題点がある、という指摘だった。

つまり中立的な視点に欠けるのではないか、という話題で、いくら非営利だからと言っても、スポンサーとなっている企業の中でも最も権限を持ったFull Corporate Memberを見てみると世界中に名前が知れ渡った主要企業ばかりで、文字という知的財産権を管理しているという点では疑問を感じるとのことだった。

コンソーシアム側からはこの見解について「そんなことはない」と否定していたが、例えばApple社がiOS10以降金属製の銃の絵文字アイコンは水鉄砲になっている。その流れは他のOSなどにも反映され、MicrosoftやGoogleでも同様な動きになってきた。

アメリカでの銃乱射事件や銃規制を巡る法整備の問題などが背景にあるようだが、各企業が個々で決めたこととは言え、このような対応を決めたのがユニコードコンソーシアムのFull Corporate Member企業という状況を考えるとメンバーの立場や考え方が何となく推測できる。

また、番組では餃子(🥟)を絵文字に採用してもらった、という中国出身の女性について、採用されるまでの活動経緯が紹介されていた。

ユニコードコンソーシアムの場合、個人では決定権のあるメンバーにはなれないため、オブザーバーで会議に参加し、メンバーと関係を築き…という紆余曲折の結果採用されたそうだ。

実はこのような話題に関心を持ったのには過去に似たような話題に接した経験があるからだ。

私の夫は以前ユニコードコンソーシアムとよく似た構造のW3Cコンソーシアム(World Wide Web Consortium)でwebの縦書き表示について様々な人達と活動していた。

この辺りの話は番組と直接関係ないが、興味がある方はこちらの本やインタビュー記事を読んでみてもらえるといいだろう。

日本にいるとあまり感じないが、世界の中では日本語はマイノリティ言語だと言える。何しろ全世界の人口で考えれば1/70前後しか第一言語の人がいない。それでも1億人くらいは話者がいるからなんとか維持している。

日本ではとても幸運なことに日本語が第一言語ならほとんどの人が一定水準の教育を受けられる(もちろんいくつか条件や例外はある)。マイノリティ言語がなぜ維持が困難になるかと言えば、教育を受けようとするとその言語での教科書や教育システムがないからだ。マイノリティ言語の多くで文字が存在しないという現代社会では不都合が事情がある。

日本でもかつて教育を普及させるためにアイヌ語や沖縄のことばを方言札と差別した歴史がある。この辺りは近代国家の問題点として考えなければいけない問題だろう。BS世界のドキュメンタリーでも『星の王子さま』を希少言語で翻訳するプロジェクトとして紹介されていた。

日本語はマイノリティ言語だが、それを大半の人は問題に感じなくても過ごせる環境というのが現状だ。ただ、それだけに独自性がずっと残ってしまったという問題もある。

実はかつては漢字文化圏の国であっても今でも縦書き表示が当たり前に残っている国はとても珍しい。夫に聞くと「中国語も横書きが標準。縦書きが残っているのは日本と台湾、そして内モンゴル自治区ぐらい」とのことだった。そのため、日本語をwebで表示するための必要性や困難さについて理解されにくい面がある。

日本語ならではの縦書き・横書きが混在しているページ表記やルビ(いわゆるふりがなのこと)、禁則処理(行末の句読点やカッコの表示)のルールを標準化する必要性は日本語を使う人なら当たり前に感じられるが、そうではない人には理解されづらい。

ユニコードは世界中のあらゆる言語の文字をネットで表記できるよう配慮しているし、webや電子書籍でも縦書き表記できるようになったから、少ない部数での出版やオンデマンド印刷など今後個別のニーズに対応しやすくなった。

言語や文字の多様性をどう担保するかは文化・芸術・学術的にも大きな課題だろう。マイノリティ言語や多言語教育などについても追々自分なりに考察をまとめていきたい。

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