『仙藥』1号2号を読む
『仙藥』は、綾部宏子(俳句)、小島浩二(詩)、大橋弘(短歌)の三人による同人誌。薄く瀟洒な本だ。
1号は2017年3月31日発行。
夏のふりをしようよ
君の言葉を聞き取った
季節を越えて
埃の積もった言葉をはたいて
古い哀しみのことを語ろうとしたけど
涙はいつも新しい
小島浩二「夏がざわめく」より抜粋。
特別な季節への思いを新鮮な筆致で書いている。
渡部宏子「星冴ゆる」は
やはらかきうさぎの体温春めけり
コーヒーに角砂糖落ち秋来る
など十三句。やわらかな感性の言葉選びが印象的。
大橋弘「先生にお薬を処方してもらってから来てね」十三首。
タイトルは「仙藥」に因むのだろうか
生き方が壇蜜になるお薬を早くください、メロン薬局
という作品もある。
亜寒帯。みてみてここに木を植えて雨が降り出すまでとそれから
が好き。
後半はそれぞれの文章が寄せられていて、楽しい。中でも綾部宏子の随筆は少女時代から思春期への文学への思いの移り変わりが書かれていて、共感するところもあり、魅力的。
2号は、2018年3月10日発行。
綾部宏子「花菜漬」十三句より
旅先の冷し中華はじめましたの字
みな赤い羽根つけ議会出席者
などに惹かれた。
小島浩二の二編の詩「筆跡」は哀しく、「スパイス」はタイトルの通りぴりりと風刺が効いている。
警報が鳴っている
それは今朝の食事の適度なスパイス
コーヒーカップに飛び込んだミサイルは
スプーンでかき混ぜ
その姿を見えなくしてしまおう
「スパイス」より抜粋。
大橋弘の十七首「パイナップル話法」より。
おもねりのたまたまうまくいったときはねをたたんでいるのがわたし
きゃー見てよ。それだけ言ってくだらないこの世の中に火をたてまつる
軽い語調の中に相当な鬱屈がたたみこまれているという印象。
随筆は小島浩二の「玄趣亭読書日記 その2」と大橋弘の「当職は、古書店でこんな歌集を買いました! その2」。詩人と歌人の読み、買う本に興味津々。
編集発行人 大橋弘
表紙 綾部宏子
発行人連絡先 ツイッターアカウント @senyaku2017
定価 三百円
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