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万葉集巻五「梅花の歌三十二首并せて序」三角定規詩訳


序(抜粋)


この
良い月
空気澄み
風はそよ風
梅は鏡の前で
装うように咲き
蘭は匂うよまるで
身に帯びた香の如く

初春の令月にして気淑く風和ぎ梅は鏡前の粉を披き蘭は珮後の香を薫らす



そう
正月が
来たらね
梅を迎えて
楽しいときを
過ごし尽くそう

正月立ち春の来らばかくしこそ梅を招きつつ楽しきを経め(大弐紀卿)


いま
咲いて
いる如く
散りすぎる
ことなくあれ
わたしの家
その庭に
ずっと
そう

梅の花今咲ける如散りすぎずわが家の園にありこせぬかも(小弐小野大夫)


ああ青柳は髪に飾る
かずらにするのに
ほどよくなって
いることだよ
梅の花咲く
この庭の
美しい
青柳

梅の花咲きたる園の青柳はかづらにすべく成りにけらずや(小弐粟田大夫)


まず
最初に
咲くこの
わが家の梅
ひとりきりで
見て一日を
すごす事
とても
でき

春さればまづ咲く庭の梅の花独り見つつや春日暮らさむ(筑前守山上大夫)


恋に
苦しむ
こと多い
世の中だよ

もう
いっそ
梅の花に
なりたいよ

世の中は恋繁しゑやかくしあらば梅の花にも成らましものを(豊後守大伴大夫)


今が
盛りよ
さあさあ
親しき人々
皆髪に挿そう
今が盛りだから

梅の花今盛りなり思ふどちかざしにしてな今盛りなり(筑後守葛井大夫)

青柳と梅の花を
折ってかざし
酒を飲んだ
あとはもう
散って
いい

青柳梅との花を折りかざし飲みての後は散りぬともよし(笠沙弥)


散る
散るよ
私の庭に
あの空から
雪がながれて
きたかのように

わが園に梅の花散るひさかたの天より雪の流れくるかも(主人)

どこに散って
いるのかな
梅の花は
まだ春
浅く

降り
続いて
いるのだ
私達のいる
城の山にはね

梅の花散らくは何処しかすがにこの城の山に雪は降りつつ(大監伴氏百代)

10


鳴く
鳴くよ
わが庭の
竹の林でね
梅の花が散る
ことを惜しんで

梅の花散らまく惜しみわが園の竹の林に鶯鳴くも(小監阿氏奥島)

11

いちにち遊んで
すごそう梅の
花咲く庭に
青い柳の
髪飾り
して

梅の花咲きたる園の青柳をかづらにしつつ遊び暮らさな(小監土氏百村)


12


春に
なびく
その姿と

わが
庭にて
咲く姿と

比べ
判別は
できない

うち靡く春の柳とわが宿の梅の花とを如何にか分けむ(大典史氏大原)

13


その
茂みに
隠れては
梅の下枝に
鳴いて移って
ゆくらしいよ鶯
春になったからね

春されば木末隠れて鶯そ鳴きて去ぬなる梅が下枝に(少典山氏岩麿)


14

みなそれぞれに
折っては髪に
挿して遊ぶ
けれども
なおも
梅の

とは
飽きる
ことなく
すばらしく
愛すべきもの
なのであるなあ

人毎に折りかざしつつ遊べどもいや愛づらしき梅の花かも(大伴事丹氏麿)

15


咲き
散れば
かならず
そのあとに

咲く
ことが
きまって
いるだろう

梅の花咲きて散りなば桜花継ぎて咲くべくなりにてあらずや(薬師張氏福子)

16

万年ののちまで
年はすぎても
絶えること
なく咲き
続けよ
梅の

万代に年は来経とも梅の花絶ゆることなく咲き渡るべし(筑前介佐氏子首)

17


だと
いって
咲き渡る
梅の花です
一方わたしは
あなたを思うと
夜眠ることさえも
できずにいるものを

春なればうべも咲きわたる梅の花君を思ふと夜眠も寝なくに(壱岐守板氏安麿)

18

みんないちにち
楽しいだろう
梅の花折り
かざして
あそぶ
人々

梅の花折りてかざせる諸人は今日の間は楽しくあるべし(神司荒氏稲式)


19


来る
ごとに
こうして
梅をかざし
楽しくお酒を
酌み交わそうよ

年ごとに春の来らばかくしこそ梅をかざして楽しく飲まめ(大令史野氏宿奈麿)

20

いろいろな
鳥の声が
恋しい
季節

来た
らしい
梅の花が
今盛りだよ

梅の花今盛りなり百鳥の声の恋しき春来たるらし(少令史田氏肥人)

21


春に
なれば
逢おうと
思っていた
この梅の花よ
今日の宴にこそ
出会うことですよ

春さらば逢はむと思ひし梅の花今日の遊びにあひ見つるかも(薬師高氏義道)

22


折り
かざし
遊んでも
あそんでも
飽きることの
ないのは今日と
いうこの日のこと

梅の花手折りかざして遊べども飽き足らぬ日は今日にしありけり(陰陽師礒氏法麿)

23

春の野に鳴くよ鶯
呼び寄せようと
わたしの家の
庭には梅の
梅の花が
咲いて
いる

春の野に鳴くや鶯懐けむとわが家の園に梅が花咲く(算師志氏大道)

24


その
辺りに
梅の花が
散り乱れて

鳴く
ことよ
ああ春に
なったなあ

梅の花散り乱ひたる岡辺には鶯鳴くも春かたまけて(大隅目榎氏鉢麿)

25


降る
さまと
人が見る
ほどに梅の
花が散るのは
一面に霧が立つ
春の野であります

春の野に霧立ち渡り降る雪と人の見るまで梅の花散る(筑前目田氏真上)

26

誰かが浮かべた
酒盃のうえに
髪飾りにと
手折った
春の柳
梅の

春柳かづらに折りし梅の花誰か浮べし酒杯の上に(壱岐目村氏彼方)

27


鳴く
こえを
聞きつつ
あるときに

庭で
咲いて
散るのが
見えている

鶯の声聞くなへに梅の花吾家の園に咲きて散る見ゆ(対馬目髙氏老)


28

わが家の梅の
下枝に遊び
鶯鳴くよ
散るを
惜し

わが宿の梅の下枝に遊びつつ鶯鳴くも散らまく惜しみ(薩摩目髙氏海人)


29


折り
かざし
遊ぶ人々
見ると都が
思い出される

梅の花折りかざしつつ諸人の遊ぶを見れば都しぞ思ふ(土師氏御道)


30

恋しいあなたの
家に雪が降る
かのように
こんなに
乱れて
散る

妹が家に雪かも降ると見るまでにここだも乱ふ梅の花かも(小野氏国堅)

31

鶯が待ちかねていた
梅の花よこのまま
ずっと散らずに
いてほしいよ
私の愛する
あの子の
ため

鶯の待ちかてにせし梅が花散らずありこそ思ふ子がため(筑前掾門氏石足)


32


立つ
ながい
春の日に
髪の飾りに
したけれども
ますます心
ひかれて
しまう
梅の

霞立つ長き春日をかざせれどいや懐かしき梅の花かも(小野氏淡理)

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