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互いの立場を理解する

お母さんがいなくったって大丈夫
私だってちゃんとできるんだから
お父さんの好物もメイの好き嫌いも知ってるし
けど,お母さん毎日これやってたんだ すごいなあ
#ジブリで学ぶ自治体財政

2ヶ月ぶりのジブリシリーズ,3連投になってしまいました(笑)
財政運営がうまくいかないのは,お金がないからではなく,その使い道を話し合って合意形成に導くためのコミュニケーション不足。
財政課の皆さん、市民や現場,首長が自分のことを理解してくれないと嘆く前に,なぜ相手は自分のことをわかってくれないのか,そこにどのようなコミュニケーションが欠落しているのか,自分たちがどうふるまうべきなのか考えてみてください,と前回書きました。

その具体的なやり方がわからないから教えてくれと言っているんだ,という叫びが聞こえてきます(笑)。
私自身は自分が福岡市の財政課で実践してきたことを踏まえ,枠配分予算という仕組みであれば予算編成における意思形成において現場や市民との対話的な関係性を構築することができると考えていますが,なぜそうなるのかを昨日の記事では触れることができませんでしたので,今日はその辺を語ります。

拙著『「対話」で変える公務員の仕事~自治体職員の「対話力」が未来を拓く』にも書きましたが,「対話」は、自分自身の立場の鎧を脱ぎ、心を開いて自分の思いを「語る」ことと、先入観を持たず否定も断定もしないで相手の思いを「聴く」ことから成り立っています。
「語る」は「開く」、「聴く」は「許す」ともとらえられます。
「開く」は自分の持っている情報や内心を開示すること。
「許す」は相手の立場、見解をありのまま受け入れること。

財政課において「開く」とは,自治体の財政構造や状況,将来の見通しを示すとともに,なぜお金がないか,どうして行財政改革を進めお金を生み出さなければいけないか,を明らかにすることです。
多くの自治体では,ちゃんと財政課が説明会を開いて現場には「財政が厳しい」ことを伝えている,という答えが返ってきそうですが,それは情報として耳に入っているだけで,対話のもう一つの要素である「許す」,つまり現場が財政課の立場や見解をありのままに受け入れてはいないはず。
「お金がないのはわかっているがこの事業は見直せない」という具合で、現場はいくらお金がないと言われても置かれている立場から離れることができないのです。
枠配分予算では,予め配分する財源の範囲内で,部局単位での予算原案を作成する権限と責任を与えられますから,各部局では使えるお金が限られているという財政課の立場をジブンゴトとして理解せざるを得ません。
また,どうして行財政改革を進めなければいけないか,についても,お金がないのは各部局で新たに政策を推進するための新規事業を企画するから,あるいは既存事業の効果を維持するために必要額を確保するためであって,自分たちが必要とするお金のために自分たちで身を削るのだということが自明の理となります。
枠予算制度によって各部局に権限と責任を委譲することで,各部局の長は自分で自治体財政運営の一部分を全面的に任された格好になります。
その責任を果たすためには財政課が説明する財政構造・状況,将来の見通しなどの情報も自分が判断するうえで必要になり,財政課の立場がよくわかるということになるわけです。
当然のことながら,財政課は各部局に配分した財源の範囲内での予算編成権限を委ねているわけですから,その原案に対して査定を入れたりしないで「許す」ことが必要になることは言うまでもないことです。

枠予算制度による対話的関係の構築はもう一つ。
各事業担当の現場が,自分の現場のことだけを考えるのではなく,同じ枠を分かち合う他の現場のことを知り,その重要性や緊急性を理解し,配分された財源を分かち合うために互いに「許す」ことができるようになるのです。
これは,福岡市役所でいえば600ある課の課長がそれぞれ理解しあい,互いに分かち合うことは難しくても,各部局単位で与えられた枠について,それを局長,のもとで5,6人の部長が分かち合い,あるいは各部4,5人の課長が互いの立場を理解しあい分かち合うことであれば可能なのではないか,という考えに立脚しています。
違うフロアで働き,予算編成の時にしか顔を合わせない財政課の職員から事業の必要性や効果,経費の積算について詰問されるよりは,普段から同じフロアで仕事をし,互いに同じ政策の実現を分担連携して取り組んでいる同じ部,同じ局の仲間であれば,普段から情報共有も立場を超えた意思疎通も可能ですし,複数の課長を部長が束ね,複数の部長を局長が束ねるという組織マネジメントの中で,適正な資源配分について組織として十分に議論し,目指すべき方向性についての互いのベクトルを同じ向きにそろえていくことが可能になるはずなのです。

では,枠予算制度において,市民はどのように「対話」の当事者性を持つのでしょうか。
私は,市民に直接接する現場の職員が予算編成の中で「対話」の当事者として意思決定の過程に関わり,どのような議論がなされどのような相互理解のもとで合意が図られたのかを体感することに尽きると思います。
その前提として,現場職員はその現場が受け持つサービス客体としての市民の立場や意見を代弁できるだけの情報と感覚を持ち合わせていないといけません。
政策の決定や変更が市民にどのような影響をもたらし,どのような感情を生むか。
現場職員はこの市民からの視点,市民の立場や感覚を踏まえつつ,財政課から移譲された予算編成権限を行使します。
そこでどのような議論をし,どのように結論を導けば納得感を持って市民に伝達することができるか,現場職員が真剣に考え,間違っても「財政課から査定されました」などという他律的な言い訳をしないで真摯に市民に向き合い,理解を求めていくことは財政課の職員ではできません。
この役割を担うためには,現場職員は普段から市民と接し,市民と「対話」する中でこの感覚を研ぎ澄ますことが必要ですし,財政課をはじめとする官房部門は彼らが市民の立場を代弁するだけでなく自治体の全体最適を希求する官房部門の立場も現場職員が理解し,それを市民に共有できるように常日頃からサポートしなければいけません。

これらすべてがうまくいくために必要なのは,職員が「対話」の本質を理解し,困難な合意形成には議論の前に対話が不可欠であること,また予算編成において「対話」の本質を引き出すために制度として設計されたのが枠配分予算制度であるということの正しい理解です。
また,対話的関係を築くために必要な「対話力」も各職員に求められますし,実際に各部局において対話的な関係性のなかで意見を交わし情報を共有する場,機会や環境を作ることも推奨していかなければいけません。
場合によってはその場を安全に運営するファシリテーションのスキルが必要になることも考えられえます。
そういった能力を組織として職員に身に着けさせることは,財政課が一件ずつ査定することよりも難しいことかもしれません。
しかし,財政課が査定して言い渡すというやり方に限界を感じているのであれば,各部局に裁量と権限,そして責任を与え,各部局の長が自らの組織におけるモチベーションとマネジメントを発揮し,それぞれの部局での財政危機を乗り越えていただくことが得策だと私は考えています。

以上,財政課が困っている「事業の廃止縮小が進まない」という課題を解決する一つの方策として,ご提案させていただきましたがいかがでしょうか。
枠配分予算についてはこれまでもたくさんいろんなことを書いていますので,必要があれば過去記事もご参照くださいませ。

★2021年6月『「対話」で変える公務員の仕事~自治体職員の「対話力」が未来を拓く』という本を書きました。
https://www.koshokuken.co.jp/publication/practical/20210330-567/
★2018年12月『自治体の“台所”事情“財政が厳しい”ってどういうこと?』という本を書きました。
https://shop.gyosei.jp/products/detail/9885
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