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市民がアホやから

こんなに金がないってのに見直しには大反対
役所が配る金には臆面もなく群がりやがる
市民は何もわかっちゃいない
その顔色しか見てない現場も首長も
#ジブリで学ぶ自治体財政

お待たせしました。ほぼ2ヶ月ぶりのジブリシリーズ復活です(笑)
先日,自治体の財政課職員を対象としたオンライン講演をやったのですが,その事前アンケートで「予算編成における課題」をお聞きしたところ,ぶっちぎりでトップだったのが「事業の廃止縮小」でした。
事業の廃止縮小が難しく,思うように進まないというのは私も財政課時代に経験がありますのでその悩みはよくわかりますが,これって問題の本質はどこにあるのでしょうか。

自治体の予算編成を司る財政課に9年勤務した経験から言えば,予算編成で最も手ごわい難関は「収支均衡」です。
この「自治体財政よもやま話」では何度も書いている「会計年度独立の原則」。
地方自治法第208条第2項には「各会計年度における歳出は、その年度の歳入をもつてこれに充てなければならない。」とあり,原則としてある年度に必要な支出の財源は,同じ年度内の収入で賄うことになっています。


ところが使える収入が限られているにも関わらず,やりたいこと,やるべきことが山積し,そのために必要な支出額が収入を上回ってしまうため,収入の範囲内に収めるために各事業の必要経費を精査し,削減していく。
これが予算編成で行っている「査定」の大半の作業で,私も経験があるのでその困難性はお察しいたしますが,少し立ち止まって考えてみましょう。

事業の廃止縮小が難しいというのは,事業をやめること,縮小することそのものができないというわけではありません。
自治体が法令上一定の義務を負って行う事務事業の経費については,税収や国から補助や負担で賄えないものは地方交付税の仕組みで補填され,必要最低限のことは行える仕組みになっています。
あくまでもお金が足りないのは自治体が裁量で行っている事務事業であり,縮小する,やめると判断しさえすれば事業を廃止縮小することは可能です。
しかし事業の廃止縮小は必ずその事業を所管する現場からの抵抗があります。
現場はその事業の恩恵を受けている市民にサービスの廃止縮小を説明し,理解納得を得なければならないからです。
市民からの反発を恐れ,現場からではなく上層部や首長からストップがかかり,改革が骨抜きになることだってあります。
いくら自治体全体で収支の均衡を図るため,すなわち全体の利益や秩序を優先するために導き出された案だといっても,その案を現場が受け入れ,そのサービスを受けている市民に説明し,理解や納得を得ることが難しいので,そのような廃止縮小の判断を下すことが難しいということなのです。
では,なぜ,市民は自治体財政の全体構造を理解し,個々の事業の廃止縮小の必要性,妥当性を理解することができないのでしょうか。

自治体の財政運営の基本的な考え方として,行政サービスにこれだけの原価がかかるからそれに見合う税を徴収し,予算措置するのが当然ということではなく,税収がこれだけしかないからその範囲内で優先順位をつけて行政サービスを制御するという構造を理解しなければいけないという話を以前書きました。
このことを現場も市民も理解すれば,事業の必要性があれば前年度と同じ予算が措置されるということは決してなく,収入が限られている場合にその範囲内に支出を抑えるためにはその事業の必要性に変化がなくても何らかの事業見直しを行うことが必然であることが理解できるはずです。

しかし,個々の行政サービスを受ける市民の感覚としては,国や自治体の財布の中に入っているお金が「他人のお金」だと思っていて,他人のお金が自分の財布に入ってくるのは大歓迎だけど,税金として自分の金が他人にとられるのはイヤという感覚があり,自分の受けているサービスを減らされることには抵抗感を抱きます。

そんなご都合主義の市民感覚に阿り,事業の廃止縮小を躊躇していていいのでしょうか。
我々自治体職員は自治体の経営者ではありません。
自治体職員に経営者としての主たる意思はなく、市民の意思を総体として代弁する首長や議会の意思決定を補佐する補助機関にすぎないのです。
言い方は乱暴ですが、自治体財政が収支均衡を至上命題としていることへの理解不足も、自治体特有の支出抑制の難しさ、特に施策事業の見直しの難しさも、自治体の経営者である市民がその経営責任を果たさないから、ということになりはしないでしょうか。

こんな言い方をすると,予算編成が困難なのは収支均衡に必要な事業の廃止縮小を阻む市民の無理解,無自覚,無責任が原因だということになります。
「ベンチがアホやから野球がでけへん」と言ってマウンドを去ったプロ野球選手がいましたが「市民がアホやから査定がでけへん」ということになるのでしょうか。
財政課の皆さんにお尋ねです。
なぜ,市民は自治体財政の全体構造を理解し,個々の事業の廃止縮小の必要性,妥当性を理解することができないのでしょうか。
なぜそういう状態なのでしょうか
どうすればその状態は解消できるのでしょうか。
また,誰がこの状態解消の責務を担うのでしょうか。
長くなりましたので,続きは次稿にて。

★2021年6月『「対話」で変える公務員の仕事~自治体職員の「対話力」が未来を拓く』という本を書きました。
https://www.koshokuken.co.jp/publication/practical/20210330-567/
★2018年12月『自治体の“台所”事情“財政が厳しい”ってどういうこと?』という本を書きました。
https://shop.gyosei.jp/products/detail/9885
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