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「つば九郎コロナ濃厚接触疑いで自粛」にみる、頑張りすぎの皮肉

さきほどスマホを見ていたらこんなニュースが

なんと。
身も蓋もないことを言えば「中の人」が濃厚接触者になってしまった、ということなんでしょうけど、そこは誰も触れないところがなんとも粋というか、みんなよくわかってる。

私は、野球も好き、ゆるキャラも好き。なので、当然つば九郎の存在は気になります。(プロ野球のキャラは、ゆるキャラというより“マスコットキャラクター“ですね)

そもそも、これまた身も蓋もないことを言えば「着ぐるみ」なのに、なぜ代えがきかないんだ?というのが、この辺りの事情を知らない人は思うでしょう。しかしそれはできないんです。その辺りの事情と、そこから立ち上がってくる皮肉な状況を、ぜひこの機会に知ってもらえたら嬉しいです。(興味があればで大丈夫です笑)

なぜつば九郎に代わりはいないのか

つば九郎をよく知ってる人からすれば、彼に代わりなどいないことはよく知ってるはずです。ニュースのコメントにもあるように、つば九郎の魅力は、すべてひらがなで交わされる“筆談“。それが、愚痴やブラックジョーク、時にはスワローズの選手への深い深い愛情が涙を誘い、長年ヤクルトスワローズの人気を支えてきました。そのあたりは彼のブログなどを読んでいただければわかると思います。

このユーモアのセンスは、独特な能力を持ち合わせた特別な人でなければできないものです。おそらく長年見ているファンは、その筆致と歩き方だけで、もし他の人が入ろうものなら即「違う!」と気づくでしょうね。

これは、他のマスコットキャラクターにも言えることで、中日ドラゴンズの“ドアラ“の独特の動きやパフォーマンス、西武ラインオンズの“レオ“の連続バク転など、特別な個性やスキルがあるからこそ人気を博しているキャラクターはたくさんいます。

唯一無二だからこそ起きた皮肉な問題

ただ、見ているほうは楽しいんですが、運営する側は、ちょっと困りはじめているんじゃないかな、というのが私の見立てです。

と言うのは、まさに今回起きたことのように、「代えがきかない」という問題。実際に、中日ドラゴンズのドアラは長らく腰を痛めていて、人気パフォーマンスだった試合途中のバク転コーナーを今年から廃止にしました。西武ライオンズのレオも27回連続バク転なんて荒技をやっているので、いつなにが起きるか…。特にプロ野球のマスコットキャラクターともなると、毎日球場で見ているファンもいるし(中には選手よりキャラクターを追いかけるファンもたくさんいます)自身のSNSがあったりと、露出も多いので、わずかな変化も見逃してはくれないのです。今回のつば九郎は数日のお休みで済みそうですが、長期休みを余儀なくされるような病気や怪我、加齢による体力の低下…などは、実は運営サイドをヤキモキさせている問題なのではないか…と他人事ながら思っています。

このようなマスコットキャラクターの個性は、けしてもともと計算されていたことではないと思います。かつては、ただぼんやり立っているだけのキャラクターも多かったし、せいぜい「バク転できる」「ダンスが踊れる」程度の条件で、それほど特異な存在ではなかったはずです。ところが、試合を重ねるごとにファンの声援に応え、自分なりのパフォーマンスを積み重ね、さらにはファンがそれを写真や動画に撮ってシェアする…といったことの繰り返しで、気づけば唯一無二の存在に上り詰めていったのだと思います。それと同時に誰も代わりができない状態になってしまった。いわばマスコットキャラクターとしてのプロ魂が起こした皮肉な事態。

おそらくこのままいくと、多くのチームでは、中の人が引退するときには、キャラクター自体をリニューアルせざるを得ないだろうと思います。実際、日ハムファイターズは、数年前にキャラクターそのものを1年かけて入れ替えました。元のキャラクターは、今は北海道のPRを担う立場だそうで、姿を見ることはできるのですが、場合によっては2度とお目にかかれなくなってしまうかもしれません。

同じことはご当地ゆるキャラにも起きている

同じ問題は、ご当地のいわゆる“ゆるキャラ“にも起きています。基本的には、ご当地キャラは、喋らず、動かず、ただぼんやりと立っていることが多く、県のホームページには「着ぐるみの貸し出しについて」なんて書いてることもあるくらい、中の人は誰でもいい、といういい加減な扱いですが、中には気合が漲って個性が炸裂しているキャラクターもいます。

有名なところでは、青森県の“にゃんごスター“は、着ぐるみを着たままYOSHIKI顔負けのドラムを叩きます。宮崎県の“みやざき犬“は、EXILEレベルのダンスを完璧に踊ります。しかも3人(犬?)組。しゃべるキャラクターも珍しくありません。ただし、その結果として、活動の量は限られ、必然的に露出量も限られていくのは、果たしてPRキャラクターとして正しい選択なのか?はやや疑問に感じます。

野球界のマスコットと違い、自然発生的に個性が立ってきたというよりも、なんとか他のキャラクターより目立とう!と知恵を絞り、たまたまそこにいた「ドラムが叩ける」「喋りが面白い」人(行政職員かもしれない)を使って頑張ろう!とした結果ではあるので、まぁ覚悟の上での決定だったのだろうと思いますが。

(ちなみにこういう話題の時必ず「ふなっしーは?」と聞かれますが、ふなっしーは代えがきくもなにも、最初から個人(梨)であることを隠していませんし、キャラクターというよりも、1人のタレントさんととらえるのが正しいと思います。)

理想系をひた走るゆるキャラ界の王者くまモン

一方で、ひたすら王道を突き進むのは、あの“くまモン“です。くまモンは、どのステージでも元気に走り回り、キレキレのダンスを披露し、筆談もしますが、全く代わりがきかないレベルのことはしません。スケジュール表を見ても、明らかに熊本の他に東京、大阪などに複数体が存在していますが、そのどれを見ても違いを感じないコピーぶりです。おそらく担当する方々の努力もあると思いますが、これははじめから、そのようなプラットフォームではじまっているからでもあります。

くまモンをデザインした“産みの親“水野学さんは、くまモンを生み出した理由として、「熊本の魅力をPRするためには、司会者のような立場で伝えてくれる存在が必要だと思った」と話しています。そのきっかけになったのは、当時宮崎県知事だった東国原さん。彼がメディアに出てあちこちで宮崎の魅力を語るのを、「なるほど!こういう存在の人がいるとわかりやすい!」と思ったそうですが、知名度のある知事や人気タレントさんが必ずいるとは限らないし、不祥事を起こしたり、人気が出てブッキングできなくなってしまう恐れもある。ならば、キャラクターならいいんじゃないか!と考えたのが発想のきっかけだったそう。

なので、くまモンはその誕生の時点で、タレントさんや知事にはできないこと、つまり「コピーが可能」で「代わりがきく」が条件だったわけです。手法としては、ミッ○ー○ウスと同じです。だからこそ、くまモンは呼ばれたらいろんなところに駆けつけるし、TV、雑誌、SNS、イベント、学校にも登場し、その圧倒的な露出量も相まって多くの人に愛されるようになりました。

現実的には、くまモンほどの成功を収められるキャラクターはごくわずか。多くのご当地キャラは、稼働するのは土日祝日のイベント程度なので、中の人は1人いれば十分という考えだったのかもしれません。活動量が減るリスクをとっても、個性を出して話題を呼ぶほうを優先したのだと思います。ただ、スケジュールがある程度固定できる野球界のキャラクターと違い、ご当地キャラはご当地のPRを目的とした存在なわけですから、1人じゃ回らなくなるくらい予定がびっしり入ってる状態を目指してほしいところ。話題性をとるか、継続性・拡大性をとるか…難しい判断だとは思いますが、今後もしご当地キャラを作ろうなどと考えている自治体があったら、ぜひ参考にしてください。

くまモンの成功の秘密は以前全16回に渡って書いているのでこちらもぜひ。

最後に、つば九郎の早期復帰をお祈りします!

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