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プールの日向ぼっこ

大寒を目前にすでに極寒の午後、
吹きすさぶ風で髪がボサボサになり、
寒さのついでに、いっそのこと遠回りでもしてやれ、と思った。

商店街からの帰り道、
寒さと、髪が荒れるに任せていた私は、
そのうちに半ばヤケクソになって、
いつも右へ折れる地点で、左へ折れた。

見慣れていない景色を眺めながら歩くのは、
それでも少し気持ちが上がる。
漫然と慣れた道を歩くよりも、目を見開くし、
目線も自然に上げるからだろう。

物珍しさ。
新たな発見。
そういうものが、寒さばかりにかかずらっていられなくさせるのだ。


区民プールの、いつもとは反対側の門に出た所で
敷地の中へ入っていく人の後ろ姿に私はつられた。
入ってもいいのかな、、、?と半信半疑のまま中へ入ると、

水のない広々としたプールの向こう側に
普段歩いている並木道が見えていた。


カサカサに乾いたプールは、
この前の夏には水の流れに乗って
子供たちの歓声や
家族連れの笑い声で賑わっていたことが
何年も何年も昔のことだったのかと
錯覚するくらいに寂れて見えた。


あちこちで伸びて枯れた草やら
落ち葉が風で吹き溜められているやらの光景を眺め渡すうちに、

そうか、屋外プールという所は
一年のうちの10ヶ月は空き家になるんだということに思い至り、
大発見をしたようなつもりになりながら、また歩いて行った。


なあんだ、と、大きなプールサイドをまあるく取り囲む柵に沿って歩くうちに、
程なくいつもの道に繋がっている出口が見えてきて合点がいった。

いつもの側からは行き止まりになっているように見えていたのが、
実は反対側と繋がっていて、
遠回りをして気晴らしするつもりだったのが
あっけなく、もう元に戻ってきたのだった。

でも、その手前でもう一つ見つけた。
遠回りはできなかったけれど、
やさしい気晴らしになった。

こんなに寒いのにのどかに寛いでいる猫の後ろ姿だった。

私はコートにマフラーを巻いてもまだ寒いというのに。
毛皮ってすごいなあ。

逃げられないように、足音を立てないように、、、
細心の注意を払いながら、近づいて行く間も

そこだけが日向ぼっこに最適に温まっているみたいに
三毛猫はじっと寛いでいた。

うたた寝、、、


陽が傾き出したね

三毛猫と日向ぼっこの空間をしばし共有してからまた歩くと、
程なく普段の道のりへ戻っていた。

そして、陽だまりがあったことが嘘のように
私の髪はまた四方八方へと風に巻き上げられ、

信号を待つ間には
交差点の角地で枯れ葉がカサカサと木枯らしで回っているのも見えたけれど、

もう寒さでヤケクソになることなく、私は帰路についた。

三毛猫、今夜はどこで寝るのかな。

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