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帰省

昨春 九州・福岡の大学に進学した次男が
この年末年始 初めて帰省した。

体育会の部活に所属しているため
夏休みは 練習一色で ほとんど休みがない。
唯一 オフになる年末年始だけが
帰ってくることができる。

帰ってきた次男は また一回り大きくなっていた。
2月に部で行われる感謝の集いとやらで
スーツが必要な為 帰ってきた翌日は
まず スーツを作りに出かけた。

入学式に買ったスーツ  全くはいらない
これは アメフトあるあるだそうで
親御さん方は 口を揃えて
今年はスーツ買い替えなくて良いだろうかと苦笑いしていた。
とりあえず 来年秋シーズンに向けて
まだ10kg増量を目指すらしく
一回り大きめにオーダーしてきたけれど…
どうか 毎年 買い替えだけは避けて欲しい。


次男が使っていたダブルベッド
次男が家を出て 主人が使っていたが
帰ってきたら また次男に明け渡し
主人はリビングのソファー(ソファーベッドになる)へ追いやられた
というか 強制的に追いやった。

久々のベッドの寝心地は最高だそうで
「むっちゃ よー寝れる  それに家事をせんでもいいって幸せやわ」と
やはり実家は居心地がいいと 嬉しいことを言ってくれた。
帰ってきたは良いが  今の自分の部屋の方が落ち着くって言われれば
ちょっぴり寂しい気持ちになるじゃない。


今回の帰省  教授の計らいで
年明け初っ端の授業が休講になったので
なんと 実質12日間の長い帰省となった。

さすがに12日も居れば  
半分は友達に会ったり 恩師を訪ねたりして
忙しく過ごしたものの
毎日の習慣だった 筋トレが満足に出来ない事
家の大掃除もせずに出てきた事
それまで 当たり前のようにやっていた家事を
全くしない生活に だんだんと焦りのようなものを感じだしたようだった。

ある日 小学校でお世話になった先生に会いにいく
車中で
『福岡が恋しくなってきた。
大阪は星が全然見えへんし 自然の匂いがせん。』
ポツリと呟いた。

小さい時の色んな経験から 
大学は絶対に心が豊かであれる
自然溢れる地方に行きたいと言い続けていた。
その願いが叶って 土地も人も懐の深い
九州で生活することとなった今
こうして 恋しいと思うくらい
今の置かれた環境に馴染んでいることを
嬉しく思うと同時に
故郷の大阪に あまりいいイメージが無いことは
親としては寂しい限りである。
『ここは僕の居場所では無い』
そう ハッキリと言われたように感じるのである。


三賀日が過ぎて カレンダーに打たれた赤い丸印が近づくにつれて
帰るまでに 好きなものを食べさせて帰ろうと
毎日の献立が 書き加えられていく。

最後の晩餐は 次男からリクエストされた
✽  大根と手羽元のカレースープ
✽  マカロニサラダ
✽  茶碗蒸し
✽  牛ごぼうのそぼろ丼

帰省した期間  外食は大好きなうどん屋さんに連れて行ったのと
元旦に私の実家で食べた夕食だけ。
とにかく 手料理を食べさせたくて
朝昼晩 キッチンに立ち続けた。
その結果 元々腰は強い方であるが
最終日は足腰に 湿布を貼りまくった。

料理は好きだけど 毎日 そんなに張り切って
キッチンに立つ方でもないので
子どもを思う母の思いというもの
我ながら凄いなと思った。

翌朝は 朝一の新幹線で帰ってしまう。
帰省前に受け付けた“食べたいものリスト”から
最後のメニュー『天むす』を持たせることにした。
昨年 受験期に起きていた4時台に起床して
圧力鍋でご飯を炊き エビ天を揚げる
塩をまぶして冷ましたご飯に
エビ天を入れて握った『天むす』


4つ持ち帰り 3つは起きて直ぐに食べていた。
今回のミッション これにて終了。


駅で見送るには あまりにも辛すぎるので
玄関で じゃあ元気でねと見送るつもりが
お弁当要らんから見送りに行っといでと言う兄さんと
一緒に見送りに行こうやと言う主人に説得され
新大阪まで同行。
結局 ホームまで見送ったのだが
「着いたら連絡して  元気でね」
当たり前の言葉がけが精一杯だった。

乗り込んだ次男は こちらを見ず
ひたすらスマホを触っている。
ホームでは 出発のベルが鳴り響く
チラリとこちらを見た次男
ウンと頷き まっすぐ前を見ている
もうこれだけで 胸がいっぱいになり
様子を書き起こしている今でさえ
涙が溢れてくる。

若かりし頃 JR東海のCMだったか
シンデレラエクスプレス
最終の新幹線で別れを惜しむ恋人が話題になったが
遠距離恋愛なんてした事の無い私は
ふ~ん そんなものなのかって
どこか冷めた目で観ていた。
今は片思いであるが
あのCMの恋人が別れを惜しむその気持ちを理解出来る。
それまで感じていた温もりが
あのホームに鳴り響く 数秒のベルで
シャットアウトされる。
非情な時間が流れる瞬間である。

ユーミンのシンデレラエクスプレスが頭の中でリフレイン
息子は恋人だもの
息子の前では 母は乙女になる。
『子離れ出来てなくてキモイ 』って言われるかもしれないけど
きっと 息子を持つ母親の大半が
この思いを共有出来るのではないかと思う。

暫く 寒いを言い訳に 鼻をすする。
涙腺が緩んでいたことをひた隠しにして帰途に着いた。
1つだけ残った天むすを口にしては
今頃 食べているかなと新幹線の中の次男を思う。
次男の使った寝具を洗濯。
ひっぺがした枕カバーから フッと香る次男の香り
(まだ おっさん臭はしない)
残された衣類を畳む時
使っていたお茶碗を奥の方にしまう時
ことごとく 次男を感じ
既に 次の帰省が待ち遠しく感じる。

帰省の度に こんな思いをするのか
慣れるものなのと SNS繋がりのお友達達に聞いてみた
「何年経っても 同じ思いを繰り返すよ」
そうか……  シンデレラエクスプレスの乙女心は
幾つになっても焦ないようだ。

一方通行の恋心 感じている間は
若々しく居られるだろう。
ある意味 これが私の推し活なのかもしれない。

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