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第一回四畳半SFコンテスト

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第一回四畳半SFコンテストをまとめたものです。 お題「ちょっと未来の日常」 ◆最優秀賞 「サイレンが鳴った日」 はまりー ◆準優秀賞 「君の町に僕ら手を貸して、」 子鹿白介 ◆優… もっと読む
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記事一覧

「サイレンが鳴った日」 はまりー

「サイレンが鳴った日」 はまりー

「もーいい。このまま我慢してたら死んじゃう!」
 わたしは叫んだけれど、その声さえ耳を聾するこの轟音に掻き消されてしまう。
 街のあちこちに狼煙台みたいに立ったスピーカーは、今年12歳のわたしが生まれるずっと前からおとなしく沈黙していた。
 それが突然鳴り始めたのは2日前のこと。ずっとカーテンを閉め切った窓の外から恨みがましい女の断末魔みたいな甲高い叫び聞こえてきて、わたしは飛び上がった。パパは青

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「君の町に僕ら手を貸して、」 子鹿白介

「君の町に僕ら手を貸して、」 子鹿白介

 秋空の下、子供たちの列の傍らで、寸胴なロボットが黄色い旗を掲げている。背丈は低く、白いボディは蛍光グリーンの反射材ステッカーで彩られていた。
 中学一年生の瓦 蒔星(かわら まきせ)は、自室の窓から朝の交差点を眺めていた。
 あれはボランティアの交通安全ロボット。半年前に蒔星が進学した後、配置されたのだった。
 ふと、どんよりした気分になる。
 平日の朝なのに、彼女が自室にこもっている理由。蒔星

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「ちょっと未来のお店」 横山 睦(むつみ)

「ちょっと未来のお店」 横山 睦(むつみ)

 平日の午後。目的地の駅で地下鉄を降りた。知り合いに出会うことを極度に恐れた俺はニット帽をカバンから取り出すと耳が半分程度隠れるように深く被った。四十歳になって今さらファッションのことはわからないがスーツ姿にニット帽は似合っているだろうか。他人から見て俺は不審者に該当しないだろうか。午前中は会社で働き、午後は半休を取った。一度帰宅して着替えてから目的地に向かえば良かっただろうか。いや、私服は俺だと

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「雨降る20××年」  鴉丸譲之介

「雨降る20××年」 鴉丸譲之介

『とんでもない時代になった』——大人たちがそう言うのを、物心ついた頃から耳にしていた。

 電話、テレビ、インターネット——何十年かに一度、技術革新が起きるたびに、それまでSF映画か小説にしか登場しなかった空想の産物のような代物が、日々の暮らしに組み込まれて『当たり前』となってきた。そのたびに、旧き時代の営みを知る者たちは皆、感嘆か懐古からか、口を揃えて『とんでもない時代になった』と言ったものだ。

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「葦が矢となる」  柚子ハッカ

「葦が矢となる」 柚子ハッカ

 地図上にもう日本はない。
 いや実際には存在するが、もう無いものとされている。
 未知のウィルスが世界中で蔓延した。もちろん日本でも蔓延した。そしてなんの悪戯か日本で信じられない変異を遂げた。そのウィルスに罹ると子孫を残すことが出来ないという後遺症を残したのである。しかも100%の確率で。それには各国の偉い人達がすぐさま反応した。それはそうだろう、国の存亡に関わる。日本からの渡航はすぐに制限され

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「素晴らしき偽物だらけの世界」  猫隼

「素晴らしき偽物だらけの世界」 猫隼

 世界中を繋ぐインターネットシステムが一般的に認知されるようになってからもう数十年。〈ファムロンCC(Famron cybernetic company)〉が最初の開発品である〈サイクル〉を発表した時からは、たった五年。この世界では偽物(コピー)が増えすぎて、本物(オリジナル)の多くが失われてしまった。

 今や珍しい、〈ヒューオン(Hu-on)〉と呼ばれる、人間がデザイン管理の半分以上に関わって

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「警告音高らかに」 四宮ずかん

「警告音高らかに」 四宮ずかん

 砂を踏む。海面に弾かれた光に目を細めながら、私はその先に居る人の元へ走った。
 波の音と白い砂浜、やわらかく吹く風に白いワンピースがふわりと揺れる。赤いリボンの麦わら帽子を押さえ、色素の薄い髪をきらきらと風になびかせながら、その人はゆっくりと振り返る。うつくしく光に透けた瞳は私を捉え、そして大きく見開かれた。
 右手にハサミを持ち、軽くなった頭を振って、足に纏わりつく煩わしいスカートは脱ぎ、何か

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「無理せずに痩せる方法」 須藤古都離

「無理せずに痩せる方法」 須藤古都離

「本気で痩せたいなら私に聞いてよね! なんてったって、デブは誰よりもダイエットに詳しいんだから!」
 私の記憶に鮮やかに残っているのは、そうやって程よく膨れた腹をポンと叩いてみせた夏海の堂々とした態度だった。裏表がなく、よく冗談を言う夏海は男子からは人気がなかったものの、皆から好かれる子だった。
 中学二年の年末に太ってしまった私は、どうにか痩せたいと思って夏海に相談してみたのだが、夏海の言葉は説

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「乾杯」 メロウ+

「乾杯」 メロウ+

 夕方、玄関を開けると既に娘達は帰宅しており、それぞれの趣味に没頭しているようだった。
 いつの頃からかこんな光景がお決まりのようになっていて、それをどうにかしたいと毎日思う。
 昔は大喜びで飛びついて来たもんだが、これが成長というものか。
「ごはんだぞ」
 そう呼んでもなかなかやっては来ない。友達と通話しながらのゲームというものは、キリをつけるのが難しいものらしい。
「ほら、ごはん食べるから、一

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「不労所得」 谷田貝和男

「不労所得」 谷田貝和男

 金が欲しい。
 切実にそう思った。
 しかし、働くのは御免だった。矛盾しているが、おれはそういう人間なのだ。
 半年前に仕事は辞めた。それから失業保険をもらっていたが、3ヶ月前に切れてしまった。あとは貯金を食い潰すだけの生活。
 金は欲しい。しかし、働きたくない。家でゴロゴロしているだけで、お金が入ってくるような仕組みはないものか。
 いっときは投資で食おうと思った。で、株を買ってみたが、この前

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「肌色の着ぐるみ」 梶原一郎

「肌色の着ぐるみ」 梶原一郎

 正直どうかと思う商売だ。そう思いつつも、世間的には許されているのだから仕方がないと自分自身を説得する。手元のタブレットで私は受け取ったデータを改めて読み返して、会話の特徴や語尾のアクセント、時たま出る癖などを頭に叩き込む。そうして脳内でウォーミングアップして、呼吸を整える。頭と顎をスッポリと覆う様に専用の機器を装着して、目の前のパソコンのモニターを点ける。すると瞬く間にモニター上には、私とは似て

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「その目で触れて」 アオ

「その目で触れて」 アオ

「斜視ですね」
 俺の目を診察した医師は開口一番にそう言った。
 暗闇の中で光を当てられて、目玉を検査されたからまだ変な感じがする。俺はまだチカチカする目を瞬かせながら、医師の顔を見た。
「視線制御が良く使われるようになってから、増えましたよ。昔からスマホ斜視はありましたけど」
 医師は何かをサラサラと書き込んでいる。俺はそれよりも、スマホが使えるようになるかが気になって仕方がなかった。最近、スマ

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「ハナユとゆず」 横山 睦(むつみ)

「ハナユとゆず」 横山 睦(むつみ)

「……趣味?」

 目の前に座る相手から聞かれて、僕は返事に困った。

「サトシの趣味はマンガを書くことだよ」

「おいっ、それ以上は余計なことを言うなよ」

 僕の隣に座る友人タケオを止めようとしたが無駄だった。

「サトシは昔、何とかっていう賞も取ったことあるんだぜ」

「えー! サトシさん凄いですね! 何の賞ですか?」

 居酒屋で目の前に座る今日初めて出会った女の子も、それまで出会った女の

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「ラッキー・ガール」 橘省吾

「ラッキー・ガール」 橘省吾

 夕陽のさすファミレスで、乾拓郎は宇宙を見ていた。それは奥行きがなく、ブルーライトを発し、たまに照明を反射する宇宙だった。
 拓郎は親指でスマホの表面をフリックして、その二次元の宇宙の角度を変える。
 平日の夕方、ファーストフード店の店内は彼らと同じような手合いでほぼ満席だ。
「あのさ、不幸の星ってあると思う?」
 拓郎は、向かいの席でスマホのゲーム画面を必死にタップする親友・近藤宗助に聞いた。

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