不同意わいせつ・性交等罪を 「後出しで不同意だったと言って犯罪にできる」 という理由で批判する人は刑法の条文を見ろ

令和 5 年法律第 66 号 「刑法及び刑事訴訟法の一部を改正する法律」 により刑法が改正され、従来の 「(準) 強制わいせつ」 は 「不同意わいせつ」 に、「(準) 強制性交等」 は 「不同意性交等」 にそれぞれ変更された。 また、それぞれの罪の要件も変更されている。 この改正は 2023 年 7 月 13 日に施行された。

改正後の刑法は、e-Gov 法令検索で確認できる。

この刑法改正に対する問題視

この刑法改正について、Twitter では 「女性が後から 『同意していなかった』 と言うことで、男性を犯罪者にすることができる」 などと問題視するツイートをちょくちょく見かける。

例えば以下のようなものである。

上記のツイートはネタっぽくはあるが、結構多くの人の目に触れているようだったので、以下のようにコメントしておいた。

ちなみに、(私が指摘した後で) 投稿者本人が 「この状況では不同意性交等にはあたらないはず」 とツイートしているので、投稿者としては理解したうえでわざとやっているのかもしれない。 それはそれとして、今回の刑法改正についてちゃんと理解していないと思われるコメントや引用 RT が多いと感じた。

このツイート以外にも、「不同意」 でツイート検索すると、この刑法改正に対する批判は多く見られる。 具体的には、「どうやれば 『同意』 したことになるのか決まっていない」 「後から女性が 『同意していない』 と言って犯罪にできる」 というものである。 批判の多くは、今回の刑法改正について 「同意がない性行為は犯罪になる」 という解釈をしているようである。

それらの指摘は実際の刑法の条文に照らすと妥当ではないと思うので、多くの人は刑法改正の内容を正しく理解せずに雰囲気でコメントしているのだと思われる。 この投稿では、実際の条文がどのようなものかを見ていきたい。

(刑法では、加害者が男性、被害者が女性ということが想定されているわけではないが、不同意わいせつ / 不同意性交等について言及している人の多くがそのような言説をとっているため、ここでもそのような記載を行った。)

実際の犯罪の要件

刑法改正前後の条文を確認していく。 なお、条文は 「刑法の一部改正 (令和 5 年 6 月 23 日法律第 66 号 〔第1条〕 令和 5 年 7 月 13 日から施行) (新日本法規 WEB サイト)」 の新旧対照表を参考にした。

改正前の (準) 強制わいせつと (準) 強制性交等

刑法改正前の条文は以下のようなものであった。

(強制わいせつ)
176 条 十三歳以上の者に対し、暴行又は脅迫を用いてわいせつな行為をした者は、六月以上十年以下の懲役に処する。十三歳未満の者に対し、わいせつな行為をした者も、同様とする。

(強制性交等)
177 条 十三歳以上の者に対し、暴行又は脅迫を用いて性交、肛こう門性交又は口腔くう性交(以下「性交等」という。)をした者は、強制性交等の罪とし、五年以上の有期懲役に処する。十三歳未満の者に対し、性交等をした者も、同様とする。

(準強制わいせつ及び準強制性交等)
178 条 人の心神喪失若しくは抗拒不能に乗じ、又は心神を喪失させ、若しくは抗拒不能にさせて、わいせつな行為をした者は、第百七十六条の例による。
2 : 人の心神喪失若しくは抗拒不能に乗じ、又は心神を喪失させ、若しくは抗拒不能にさせて、性交等をした者は、前条の例による。

「暴行又は脅迫を用いて」 行為を行った場合は、強制わいせつ罪や強制性交等罪になり、「人の心神喪失若しくは抗拒不能に乗じ、又は心身を喪失させ、若しくは抗拒不能にさせて」 行為を行ったものは、準強制わいせつ罪や準強制性交等罪になるわけである。

改正後の不同意わいせつと不同意性交等

(不同意わいせつ)
176 条 次に掲げる行為又は事由その他これらに類する行為又は事由により、同意しない意思を形成し、表明し若しくは全うすることが困難な状態にさせ又はその状態にあることに乗じて、わいせつな行為をした者は、婚姻関係の有無にかかわらず、六月以上十年以下の拘禁刑に処する。
<行為・事由については後述>
2 : 行為がわいせつなものではないとの誤信をさせ、若しくは行為をする者について人違いをさせ、又はそれらの誤信若しくは人違いをしていることに乗じて、わいせつな行為をした者も、前項と同様とする。
3 : 十六歳未満の者に対し、わいせつな行為をした者(当該十六歳未満の者が十三歳以上である場合については、その者が生まれた日より五年以上前の日に生まれた者に限る。)も、第一項と同様とする。

(不同意性交等)
177 条 前条第一項各号に掲げる行為又は事由その他これらに類する行為又は事由により、同意しない意思を形成し、表明し若しくは全うすることが困難な状態にさせ又はその状態にあることに乗じて、性交、肛こう門性交、口腔くう性交又は膣ちつ若しくは肛門に身体の一部(陰茎を除く。)若しくは物を挿入する行為であってわいせつなもの(以下この条及び第百七十九条第二項において「性交等」という。)をした者は、婚姻関係の有無にかかわらず、五年以上の有期拘禁刑に処する。
2 : 行為がわいせつなものではないとの誤信をさせ、若しくは行為をする者について人違いをさせ、又はそれらの誤信若しくは人違いをしていることに乗じて、性交等をした者も、前項と同様とする。
3 : 十六歳未満の者に対し、性交等をした者(当該十六歳未満の者が十三歳以上である場合については、その者が生まれた日より五年以上前の日に生まれた者に限る。)も、第一項と同様とする。

176 条 1 項に挙げられている行為・事由は、次のものである。

  1. 暴行若しくは脅迫を用いること又はそれらを受けたこと。

  2.  心身の障害を生じさせること又はそれがあること。

  3.  アルコール若しくは薬物を摂取させること又はそれらの影響があること。

  4.  睡眠その他の意識が明瞭でない状態にさせること又はその状態にあること。

  5.  同意しない意思を形成し、表明し又は全うするいとまがないこと。

  6.  予想と異なる事態に直面させて恐怖させ、若しくは驚愕がくさせること又はその事態に直面して恐怖し、若しくは驚愕していること。

  7.  虐待に起因する心理的反応を生じさせること又はそれがあること。

  8.  経済的又は社会的関係上の地位に基づく影響力によって受ける不利益を憂慮させること又はそれを憂慮していること。

刑法改正後は、上記の行為・事由により 「同意しない意思を形成し、表明し若しくは全うすることが困難な状態にさせ又はその状態にあることに乗じて」 行為を行った場合に、不同意わいせつ罪や不同意性交等罪になる。

ここで明確にしておきたいことは、「同意があったことを示せないと犯罪になるわけではない」 ということである。 そうではなく、「同意しない意思を形成し、表明し若しくは全うすることが困難な状態であった」 ことを示す必要があるわけで、改正前の準強制わいせつ・性交等における 「心神喪失若しくは抗拒不能」 という要件と大きく変わったわけではないように思う。

少なくとも、「後から 『実は同意していなかった、嫌だった』 と言うだけで相手を犯罪者にできる」 ということは全くなく、被害者は 「同意しない意思を示すことができなかった」 あるいは 「同意しない意思を示したのにそれを全うできなかった」 理由を示す必要がある法律になっている。

というわけで、刑法の内容を踏まえたうえで批判してくれ

真っ当な批判はあるべきだと思うが、それは批判対象を正しく捉えてこそできるものであって、雰囲気での批判はノイズでしかない。 今回の例でいうと、刑法改正の内容をちゃんと理解してから批判して欲しい。

全人類、頼む〜〜。

参考文献

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