2024/1 読書感想文「残像に口紅を」

今月も読書感想文をやっていきます。第二弾である今回は「残像に口紅を」。作者はSF小説の巨匠と呼ばれ、「時をかける少女」や「パプリカ」でおなじみの筒井康隆さんです。やたらSNSや本屋さんで評判なので選びました。

前回↓


完走した感想は面白かった、というよりすごかったです。本書は一文字ずつひらがなが消えていく世界で作家である主人公視点でその生活が描かれます。文字が消えるとその文字が使われている言葉とそのもの自体も世界から消えていく、という設定がかなりユニークです。

それに加えて本書はメタ的な要素がかなり盛り込まれていて、文字が消えるという操作は作中世界の外側(=つまり読んでいる自分の世界)で行われ、なおかつ主人公はそれを知覚することができます。今、登場人物や本書を読んでいる自分がどのレイヤーにいるのか、あるいはどこが現実でどこが虚構なのか分からなくなるような奇妙な感覚を多々感じました。

ここまでアトラクション感のある小説は初めてです。実験小説という銘に偽りなしですね。途中で限られた語彙で数ページにも跨って情交を描くのも攻めてますし、終盤の限られた文字でなんとか物語を進めようとするのはすごいです。筒井康隆やるな、という感じです。

ただ、めちゃくちゃ読みにくかったです。筒井康隆さんの他の小説は読んだことないですが、全体的に文体は『文豪!』という感じですし、何よりもお話が進むにつれて使える文字が減っていくので文体がどんどん変化していきます。小説でもWEB記事でも何でもそうですが、文体は統一しましょうというルール(というかマナー)があると思うんですが、本書はそのルールに真っ向から抗っています。

本書の途中では創作論みたいなものが語られるんですが、ルールとか型に囚われるのってどうなの?みたいな内容なので、ひょっとしたら一つの小説の中で文体を変えちゃおうというのも筒井康隆イズムの現れなのかもしれません。過去の創作論のインタビューでも似たようなことを言っていますしね。

物語的な世界設定や魅力的なキャラクターがないのも、読みにくい要因なのかもしれません。一般的な小説の面白さを期待して読むと大分厳しいと思います(そもそもそういう小説ではないので)。なんかこう、実験小説を読んでるぜ、という優越感みたいなものを味わう作品なのかなと思います。

まとめ

本書は言葉が消えるとそのものも消えていく世界を描いた実験的な作品でした。メタ的な要素もあり中々ユニークな作品になっていますが、かなり読みにくい作品でもありました。エンタメや娯楽を求めて読むというより、筒井康隆イズムを味わうために読む作品なんじゃないかなと思いました。興味が出たらぜひいかがでしょうか。では、また。


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