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二ヶ月弱で作った『むこうのくに』の話と、ノーミーツのこれから

初めましての方は初めまして、梅田ゆりかと言います。劇団ノーミーツではプロデューサー・舞台監督をやっています。
『むこうのくに』では、7000人を超える方々にご観劇いただき、あたたかい言葉・嬉しい言葉をたくさんいただいて、本当にありがとうございました。

今回は、『むこうのくに』の裏側を、舞台監督として全体を見つめていた自分の視点からお伝えしたら、読んだ方の明日のエネルギーにちょっとても繋がるかな、と思い書いてみてます。相当大変だったけれど、頑張って良かったと思える公演でした。

劇団ノーミーツに加わって、『むこうのくに』までのジェットコースター

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まず、ここまでの自分の経歴を簡単に説明させて下さい。去年の春に大学を卒業し、「出会った面白い大人の方々と一緒に仕事がしたい!」と思い就職せずに新卒フリーランスとなるも、能力や体力が追いつかず、秋に営業職社員として就職しました。どの選択も後悔していませんし、今自分がノーミーツに関わる上で、大事な経験でした。

そして今年の春、「ちょっと進行のお手伝いを」程度で関わり始めたノーミーツに、今はフルコミットしています。人生何が起こるか分からない。ノーミーツは会社に所属しながら関わるメンバーも多いですが、自分が職種的にも、能力的にも両立が難しく、ワクワク生きるための決意も込めて、フルコミットすることにしました。
そのことを決めたのは、確か『門外不出モラトリアム』の本公演を終えて、再演を控えていたときでした。

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『門外不出モラトリアム』の制作期間はかなり特殊で、本業がままならない状況のメンバーが多く、本当の本当にみんな時間があり、思う存分の全力をかけて走り抜けて、「旗揚げ公演」という言葉にも助けられて、いつの間にか最高の公演になっていました。

けれど、『むこうのくに』はそうはいきませんでした。みんなそれぞれに仕事で忙しくなり、第二回公演というハードルが誕生し、お家に居続けるままでは社会も経済も回っていかない、という世間の流れになりました。しかしその、状況的にも時間的にも追い込まれたノーミーツは、『むこうのくに』で、大きく飛躍しました。『門外不出モラトリアム』から、二段も三段も大きな規模で、速いスピードで、挑戦しました。

結果として、「フルリモート演劇」というジャンルを確立した、と言えるほどに新たな可能性を示唆し、実現できたんじゃないかなと思います。「ここまでいけるのか」といろんな人に思ってもらえたんじゃないかなと思います。

もちろん裏側はめちゃくちゃ大変でした。たくさん失敗してたくさん迷惑をかけてたくさん議論を重ねて制作しました。本当に大変でしたが、それでも全てが終演した今、「頑張って良かった」と思えます。それじゃあ、どうやって作られていたのか?お話させてください。

『むこうのくに』の制作体制

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「これって、演劇作りながら映画作りながらアニメ作ってるみたいな感じですよね」

これは、制作途中で加入してくださったスーパー制作プロデューサーのなかなさんが、加入してしばらくした時に仰った言葉です。
今考えると、さらにロボットとWebサービスも作っていた気がします。
最終的な部署形態の一覧がこちらです。

・全体進行(スケジュール管理/リソース管理)
・脚本/企画
・ビジュアル制作
・衣装
・美術小道具
・照明
・音響、SE
・映像制作(予告編映像/劇中映像)
・ヘルベチカ製作室(劇中背景素材/劇中フレーム素材/劇中バーチャル背景)
・配信(OBS関連)
・技術(ロボットアーム、スライダー、及びそれぞれの操作システム開発)
・Webページ制作(LP制作/配信サイトシステム開発/UI/UXデザイン)
・広報宣伝(メディア露出/生配信/140秒動画/キャストインタビュー動画/キャスト対談記事制作/物販制作/パンフレット制作)
・協賛、外部協力
・お客様対応

たくさんありますね。劇団ノーミーツが『むこうのくに』を動き出すタイミングで大きく認識を間違えていたのが「自分たちは何を作っているか」です。『門外不出モラトリアム』は正直演劇の延長線上で制作されていましたが、今回は違いました。

実は、7月5日に前述のスーパー制作プロデューサーなかなさんが入るまで、『むこうのくに』の進行にあたっていたのは私だけでした。
演劇も映画もアニメもロボットもWebサービスも、それぞれ作り方も進め方も違います。
チームごとにどれだけ違うかというと、例えば…

キービジュアル撮影
短期間で15人分のリモート撮影は、同じ撮影場所で会わずに撮影する方法が効果的でした。毎朝同じ公園に、撮影に必要なスマホ三脚と風で吹っ飛ばないようにする重しを詰めて、誰かに持っていかれないように端っこに置いておきました。出演者の皆様には待機場所と撮影場所の二箇所を設定してノーミーツを完全徹底。そのリュックの中身を使用してもらって撮影してもらうのです。超絶びっくりされました。もちろん毎日撮影終了後にまた公園に回収しにいきます。出演者さんが公園を出た連絡をもらってから。
実際の撮影の詳細はパンフレットにて。

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予告編撮影
特定の一日に、出演者さんからそれぞれ別の時間に30分ずつもらって撮影しました。白壁とスマホ三脚のご用意は出演者さんにご依頼。スマホ三脚をお持ちでない方はこちらからお送りしましたが、ほとんどの皆様が持っていて驚きました…時代だ…。
PCをzoomに繋ぎつつ、スマホを撮影用にご自身でセッティング。スマホ画面がご自身のPCカメラから見えるように置いていただいて画角をこちらで確認。出演者さんにカメラを回してもらって、ディレクターの松永さんが何秒間何をして欲しいかを指示します。

データの送信はPCにAirdropからのギガファイル便も多かったですが、Send Anywhereも大活躍しました。スマホから遠方へAirdropできるようなサービスです。すごい。

画角検討と美術小道具のドッキング
本番が行われるのも基本的に出演者さんのお部屋です。それぞれ時間をとってもらい、撮影監督のネストさんとお部屋をどの角度で使わせてもらうかを確定。昼公演と夜公演で明かりに差がでないよう、雨戸や遮光カーテンなどについても確認し、必要であれば普通のお部屋の電気なども注文して出演者さんのお家にお送りしました。
(画像は水落さん作の照明、美術資料です)

美術コンセプト

そして今度は、確定した画角のスクリーンショットを美術小道具担当の水落さんたちに共有。そのスクリーンショットから何をどこに配置すると良さそうかを検討して、一気にamazonで購入し、各出演者さんにお送りしました。

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こんな感じでした。オンライン演劇の特徴は、稽古以外に各出演者さんにご協力いただくことが、本当に多いことです…。頭が上がりません。

これらの制作を通して、私が「作り方も進め方も違う部署を同時進行して一つの作品を作る」ために重要だと感じたことは、下記の4つです。

1. 残タスクやプロジェクトの全体像は、進行担当だけでなくみんなに見えてこそ意味がある
2. ミーティングは耳だけでもいいからできる限り全部参加する

3. 進行に当たるメンバーが一人でも増えて連携できると、スピードが100倍くらいになる
4. トライアンドエラーを始めてからが本番

それぞれについて詳しく記載させてください。

1. 残タスクやプロジェクトの全体像は、進行担当だけでなくみんなに見えてこそ意味がある

フルリモート演劇は、同じ現場を共にするワケではありません。毎日の稽古場zoomURLや、脚本の改稿情報はもちろん、他の部署がどんな風に動いてるか、目下危機的状況なのはどこかも、共有しなければ何も伝わりません。
はじめ、それらを一つ一つ共有していて、途方もない作業でした。それぞれの部署がそれぞれに動いて、その調整に追われていました。

ただし、仕組みで大きく変わることもありました。
例えば、slack上で、『むこうのくに』に関わる全員が雑談できる場所、全員で『むこうのくに』に誰を招待させてもらいたいかを考える場所(これは広報小野寺さんの発明)を作ったり、他部署だけれどちょっと関係するメンバーをそのチャンネルに招待したり。

さらには香盤表に、そのシーンに必要な映像素材、どの役の窓が見えているか、音響が入るか、どんなバーチャル背景が必要か、照明はどうなるか、カメラワークはどうするか、配信サイトの背景はどの状態か、それぞれの部署のアウトプットが、最終的にどのようにアウトプットされるかをまとめたシートを作ったり(これは水落さんの発明です)もしました。

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そうして部署の境界が溶けていったとき、メンバーそれぞれが作品の全体像や、一緒に頑張っているスタッフの存在を理解して、相互にワクワクして、今までにないスピード感で自走していくようになりました。

私のやることも、整理と共有がメインと非常にシンプルになりました。『むこうのくに』がどうやったらもっと、トラブルなく、動きやすくなっていくか、に気を遣えるようになりました。

2. ミーティングは耳だけでもいいからできる限り全部参加する

これだけの短期間で、今までにない挑戦をたくさん行う作品を制作する、となると、立ち会っている稽古中にミーティングが入ることもあるし、自分が参加することを想定されておらず時間の被ってしまうミーティングも発生してきます。

私はとにかくできる限り全部知っておきたかったので、しっかり発言する方のミーティングにはPCで参加してスピーカーで音を流し、耳だけでも参加する方のミーティングにはiPadで参加してイヤフォンで聞いていました。

発言できる状況でなくとも、全ては拾えなくとも、ミーティングがどんな感じで行われているか、サクサク進んでいるのか難航しているのか、理想を大きく広げていっているのか現実も見ているのか、議事録ではわからないことたちを、リアルタイムで受け取れるようにしていました。

自分にとっても、本当に気になったことはその場で確認する(齟齬のある状態で進行しない)ことができたり、周りの人にとっても、「わからなかったらとりあえず梅田に質問してみる」ような存在になれたんじゃないかなと思います。

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3. 進行に当たるメンバーが一人でも増えて連携できると、スピードが100倍くらいになる

ノーミーツは本当にクリエイティブメンバーが能力的にも勢い的にも凄くて、今回、『門外不出モラトリアム』より人数も増え挑戦のレベル感も上がったとき、当たり前ですが進行が一人では回らなくなりました。

そこで助けにきていただいたのがスーパー制作プロデューサーなかなさん。どちらがどの部署の進行にあたるかを整理して分担しました。
もちろん、なかなさんの整理能力と進行能力に各所でめちゃくちゃ助けられました。ありがとうございました。

ただ、なかなさんがきたことにより格段に良くなったのはそれだけではなくて「とにかく着地するように進めていく人」が増えたので、互いが進行を担当している部署に対して自身は進行を気にする必要がある程度なくなり、新たにできることが増えました。

例えば
「今日撮影しなければ間に合わない素材のために、協力してくれる人とバーチャル背景とフィルターを探しどうにかする」
といった「細々としたことをとにかくどうにかしていく人」としてサポートに徹することもできるようになりました。
(画像は裏での作戦会議の様子です)

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進行にあたるメンバーが一人増えると、その連携で「とにかく着地させる」ためのエネルギーとスピードが何倍にも増大しました。
これからも座組みを考える上で重要な考え方になりそうです。

4. トライアンドエラーを始めてからが本番

実はこの公演、本番前夜に初めて「これなら明日、なんとか幕を上げれそうだ…!」という状況になりました。
逆にいうと、本番前日の昼のゲネプロでは「このままでは明日お客様にお見せできない」状況でした。

これは実は、『門外不出モラトリアム』でも同様の反省点が発生しているのですが、脚本も役者も衣装も美術小道具も音響もロボットアームも配信サイトも配信システムも、本番同様の状況を作ってトライして初めて、いかに間に合ってないかがわかります。今のやり方ではお客様にお見せできる状態ではない、実際にやってみるわかる問題が多分に発生するのです。

システムの準備に時間がかかり、通しの開始時間が予定より二時間遅れる、PCでは正しく表示されるけどスマホでは表示されない、美術として用意した物品が全然見えない、用意した映像のままだと前後のシーンと辻褄が合わない、ラグが大きくて出演者さんがどのタイミングから演技をしていいかわからない、などなど、まだまだありました。

これらの問題が一気に解ったのは、本番まで1週間を切った頃。それでも、なんとかできる限りのスピードで進めて、通せる状況になったのがそのタイミングでした。
(画像は前日のゲネプロ中の様子です)

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どうにか間に合わせるために、たくさんの、想像以上の労力といろんな人のあらゆる時間を費やしました。ちょっとした奇跡にも助けられてなんとか幕を上げることができました。
とはいえ、今後もこのやり方でいくのは現実的ではありません。

次回以降は、本番へ向けた準備と同時進行で、そのとき出来る部分のみで行う、小さなトライアンドエラーを、スケジュールを引くタイミングで置いていく必要があるなと感じています。

気づいたノーミーツの新たな魅力と、これからのこと。

長くなりましたが、まだまだ『むこうのくに』への反省はつきません。あのときもっとこうしていれば…!という思いが頭をよぎります。

それでも、全然上手に進行することができなかった今回でも、多くの、「すごいスキルを持った同世代」が目を輝かせて全力でトライしてくれました。
「なんでこんなに頑張ってくれるんだろう…?ありがたすぎる…」
と思いました。

けれど、今回関わってくださった方々の反応を見ていると、
「ここまでの全力を、このスピードでやれる環境」って意外と他にないのかもしれません。

私たちは今、明らかに新しいエンタメを作っていて、何をやったって新鮮で、「やりたい!」と言ったら「やろう!」とすぐ返ってくる、そんなチームになっています。

もし既に会っていたら、ここまでのことにはならなかったんじゃないかなと思います。会わないという制約が、PCの前にいるのは自分一人という状況が、参加しているあらゆるメンバーがそれぞれフラットに、「とにかくやっていくしかない」という状況に自然とさせている気がします。

これは本当にすごいことで、可能性が無限大で、ワクワクが止まりません。
『むこうのくに』が終わった今も、slackはワクワクで溢れています。
改めて私は、

「ここまでの全力を、このスピードでやれる環境」って意外と他にない

ということに驚きました。これだけ努力して、能力のある人たちでも、社会では思い切りやれないことの方が多いんだな…!と。

だから私はもっと、ノーミーツで発生したワクワクをどんどん活かして、みんな思い切りフルスイング出来る、そんな状況を作っていきたいなと思っています。それがきっと、今の社会やエンタメの、新しいワクワクに繋がっていく気がするからです。

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もちろん私も、ワクワクを携えながら。

ノーミーツは、またすぐ新たな挑戦をします。お楽しみにお待ちください。
ここまで読んでいただき、ありがとうございました。

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