マッチングアプリで出会い、LINEでキレたハイスペックな殿方

「まりかでも、***でも呼んでくださいね」
「え…。こないだ会ったとき、***さんと言いましたか?」
「いえ、言っていません」
「そうですよね」

LINEに移って、本名を名乗ったとたん、それまでおだやかでおっとりしていたやんちゃな瞳のトモヒロさんは、怒り出した。
いや、キレた、と表現する方が正確だ。

「そうですよね。***さんなんて言っていないですよね。
私は最初に本名を言いました。
普通、会ったら本名を名乗りますよね?
まりかさんという名前だと思っていましたが、違ったんですね」

字面だけ見れば、とくにどうということもないやりとりだが、LINEの吹き出しはいまにも飛び出してきそうなほど、文字ひとつひとつに感情がこもっていた。

オレをバカにするな。

そんな心の叫びが聞こえてきそうだ。
あんなにのんびりで、返事は早くて半日後で、何を言っても「そうなんですね^-^」としか返ってこなかった人が、こんなに饒舌に話していることに面食らった。
彼はどうしたのだろう。
次から次へと、たたみかけるように吹き出しが送られてきた。
しかも、そのひとつひとつが、私の取った行動を非難している。
窒息しそうだ。


先の記事に書いたとおり、私はできれば会うまでLINEは交換したくない。
どこだれだか知らない人のアイコンが、親しくやりとりする人の間に紛れ込んでいるのは、何とも落ち着かない。
早くても、お会いする約束がおぼろげながら見えてきてからにしている。
それに、LINEのIDには私の本名の一部も含まれているから、どうしても慎重になる。
LINEを交換するのは、私の中でファーストネームだけだが本名を明かしてもよい、まりかを脱いでもよい、と思うタイミングだ。

今回の場合、私の意識の深いところで、トモヒロさんはお会いしても本名を明かすほど心を開けなかったということだろう。
あとから思えば、だけど。

彼の自慢のタワマン最寄駅に呼び出されたとき、彼は席につくやいなや、一方的に、私に「お見合い面接」をした。
仕事に拘束される時間、趣味は何か、どのくらいの頻度で会いたいか、結婚するなら同居して面倒を見ている父親をどうしようと思っているのか。
まるで、自分の部屋にぶら下げるカーテンの品定めをするかのように。

けれども、不思議と私の仕事の内容を聞こうとはしなかったし、それどころか私から彼についてたずねる隙すら与えられなかった。
おそらく、彼が知りたかったのは、いまの彼の暮らしや生き方を変えずに、私がはまるかどうか、だったのだろう。
異なる価値観を知ろうとか、私が日ごろ何を思っているかを知ろうとか、歩み寄ろうとかいう気配は、微塵も感じなかった。
だから、私は二度目はないと思ったし、だからLINEも交換しようとしなかった。
思えばこのとき、自分の直感を信じれば良かったのかもしれない。
ま、そのまま流されたから、こうしていま記事を書けているのだけれども。


人は、相手の行為にキレるのではない。
相手の行為によって、自分のプライドが損なわれたと感じたときにキレるのだ。
自分のプライドが損なわれるのは、自分にとっての「ふつう」を相手が破ったときだ。

きっと、器の大きい人とは「ふつう」の輪郭がほわっとしていたり、人の価値観に左右されない誇りを持った人なのだろう。
異なる価値観を受け入れるとは、違うものはただ違うということで、間違っているということではない。
自分の価値観を揺すぶられたときに、あなたはあなた、私は私、でも人として敬意を持ち合うことができず、否定されたと感じるからキレるのだと思う。


それにしても、LINEというのは便利だけど、ときには鋭い凶器になる。
メールと違って、タイトルも署名も必要なく、まるで会って会話するように、やりとりが吹き出しに収まる。
一文ごとに送信するから、読み返すこともなく、いま自分の中にある感情をそのまま投げつけることになる。
ことばにすればするほど、負の感情は熱を帯びて、ますます重く早く相手に届く。
LINEの手軽さが、浅はかな感情の垂れ流しを招いてしまう。
だから私は、LINEに慎重になる。
今回のように、しなくてよい不快な思いをしてしまうリスクがあるから。


もう二度と、こうやってLINEでキレる殿方には、めぐり合いたくない。


*2023年5月19日の活動状況
・もらった足あと:2人
・もらったいいね:0人
・やりとりした人:1人
だれかが私のアカウントを遮断しているのではないかと思うほど、アプリの反応がない日だった。
少しだけ凹む。

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