8cmヒール

「夫婦でいちばん大切なことは、尊重だと思います。
尊敬ももちろん大切だけど、おたがいの違いを認め合ったり、ひとりの時間も大切にする。
いつまでもそんな夫婦でいてくださいね」

暑い暑い8月の夕べ、なかよしのハルちゃんの結婚式での主賓スピーチだ。
新郎の小学校高学年の担任で、「私、もう80近いのよ」と女子更衣室で豪快に笑っていた、サイトウ先生だ。
酒も麻雀もサイトウ先生から教わった、と新郎があいさつしたほど、卒業生たちが慕うのも、わかる気がする。
尊敬できる先生に出会えたこともうらやましいし、何十年も時を重ねることができる教師という仕事も、職業人として立派だなと思う。
違いを尊重できる夫婦に。
先生自身の経験から出たであろうことばに、まりかの二度の結婚生活に欠けていたものはこれだったのかも、と、シャンパンの泡を舌先に感じながら考えた。

すばらしいお式だった。
日ごろから行き来のある親戚とゲストだけが集い、義理でやってきた顔はない。
躁うつ仲間のナツコちゃんと私が、ハルちゃんの選び抜かれた友人に加えてもらったことが、心からうれしい。
20人ほどがひとつのテーブルを囲むアットホームな宴は、ヨーロッパ映画のようだった。


結婚式は、人を幸せにする。
新郎新婦が長い時間を費やし、つくり上げる空間の尊さよ。
十年ぶりに引っ張り出した8cmヒールは、思ったよりも足に馴染んで、まりかの心に華やぎを添えた。

次々に注がれるビールとワインが、ほどよく心の平衡感覚を奪う。
おたがいを尊重しあう関係。
さくらまりか、バツ2の50歳、結婚っていいな、と思う真夏の宵である。

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