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忘れられない景色、街

東京から東北自動車道を利用して、東北方面に移動すること約二時間半。
栃木県北部の町、那須町がある。自然が多く、温泉やリゾート施設もあり、週末に家族や友達と過ごすには理想的な場所だと言える。
その町は私の祖父の出身地でもあり、私の父のお墓がある。また、その昔、那須岳の麓で、祖父母が保養所の管理人をしていたことがある。

私は小学生から高校生の間、学校が長い休みになると必ずその保養所に妹と弟の三人で向かい、祖父母のお世話になった。その代わりに、保養所の管理業務を手伝った。食事の支度、部屋やお風呂の掃除などなど。私たち兄弟は手伝う事は嫌いではなかったので、祖父母からいわれる事はとりあえずなんでもやった。時に彼らからいわれたことをやらず、こってり怒られたこともあったが今となってはいい思い出である。
今は状況が全て変わり、祖父母二人とも亡くなり、父が入るお墓に祖父母二人も入った。そして私は何故だか那須に行きづらくなり、瞬く間に20年以上が経過した。

先日、夫と二人で那須に車で向かった。
その目的は、三人のお墓参りと、当時滞在したあの保養所がどうなっているのかを見るためである。その日の天気は予報では、曇り時々雨という、非常に微妙な天気だった。しかし、その日の朝目覚めて、外の天気を確かめるためにカーテンを開けた。するとかろうじて雨は降っておらず、少々肌寒かった。

自宅を出発し東北自動車道をひたすら北上する。外の景色は、子供の頃みた景色とほぼ同じ、民家と田んぼが広がっていた。那須インターを降りて、町の中心地に向かって20分程車を走らせると、第一の目的である墓園に着いた。お墓は20年近く経った今でも綺麗に佇んでいた。墓石に水をかけて、夫と二人で手を合わせた。改めてお墓を概観すると、お墓の後ろ左側に小さな木があった。まるでお墓に寄り添うようにして佇んでいる。数十年前には全く気がつかなかったのに。その光景を見て何故だか私はほっとした。

墓苑を離れて、那須岳の麓目指し車を走らせた私たちは、那須温泉神社を目指した。那須街道を走る間、周りを車窓から眺めた。木々の緑がとても濃く、たくさんの紫陽花がまるで私たちを迎えてくれているように、綺麗に咲いていた。
小学生の頃、保養所から温泉神社目指して山の中、いわゆる獣道を歩いた事がある。草と木々だらけの道をひたすら歩いた。何が楽しくて歩いたのか全くさっぱり覚えていない。ただ妙にワクワクしていたことははっきり覚えている。さらにいうと直線距離にすると全く大した距離ではない。しかしあの頃の私にとっては冒険だったに違いない。今思うと結構無茶だったと思う。よく迷子にならなかったと感心した。
駐車場でついたので車を降りた。私は深呼吸をした。何度も何度も深呼吸をした。空気はとても冷たく、気持ちがよかった。

温泉神社、殺生石を訪れた後、あの保養所に向かった。温泉神社から車で10分もかからない場所にある。保養所が近づくにつれ、何を期待する訳でもないが私は少々ドキドキしていた。そしてとうとう見つけた。外壁の色は変わっていたが、あの頃と全く変わらないことに驚いた。あの頃と違うのは、周りの木々の高さと、犬がいたこと。私は軽くショックを受けた。まだ存在していたこと、変わらずにいてくれていることは嬉しいが、変わっているのは自分の状況のみということに気づいたからだと感じた。私はすぐに立ち去る事が出来ず、保養所の周囲を歩いたり、立ち止まったりし周囲を見渡した。
木々の緑は濃くて、本当に綺麗だった。

それから私達は南ヶ丘牧場に向かいアイスを食べた。濃厚であまり甘くない。自分の中ではベスト10に入るくらいのアイスである。アイスを食べながら、私はまた那須にこようと決意した。



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