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ロシアのジェノサイド・ハンドブック

イェール大学のティモシー・シュナイダー教授が4/8/2022に発表した論評の翻訳です。
写真:The New Voice of Ukraine紙より、3月20日、ハンブルクで行われたウクライナ支援の集会で、ウラジーミル・プーチン、アドルフ・ヒトラー、ジョセフ・スターリンの肖像が描かれたポスターを手にする男性(Photo:REUTERS/Fabian Bimmer)

残虐行為と意図の証拠が山積み

ロシアは、ウクライナに対する戦争のための大量虐殺ハンドブックを発行したばかりだ。 ロシアの公式報道機関「RIAノーボスチ」は先週の日曜日に、ウクライナという国家を完全に抹殺するための明確なプログラムを発表した。(リンク)これは現在も閲覧可能であり、何度も英語に翻訳されている。

戦争が始まって以来、私が言い続けてきたように、ロシアの公式な用法における「非ナチ化」とは、ウクライナの国家と民族の破壊を意味するに過ぎないのである。 大量虐殺マニュアルが説明する「ナチス」とは、単にウクライナ人を自認する人間のことである。 ハンドブックによれば、30年前のウクライナ国家の樹立は "ウクライナのナチ化 "である。 確かに「そのような国家を建設しようとする試み」は「ナチス」行為とならざるを得ない。 ウクライナ人が「ナチス」なのは、「国民がロシアを支持する必然性」を受け入れないからだ。 ウクライナ人は、自分達が別の民族として存在することを信じて苦しむべきだ。それだけが、"罪の償い "につながるのだ。

プーチン政権は極右である

プーチンのロシアがウクライナや他のどこかの極右勢力に反対しているとまだ信じている人にとって、この大量虐殺計画は考え直すチャンスである。 プーチン・ロシア政権が「ナチス」について語るのは、極右に反対しているからではなく、間違いなくそうではないのだが、いわれのない戦争と大量虐殺政策を正当化するための修辞技法としてである。

それは、ファシズムの世界の中心である。世界中のファシストや極右の権威主義者を支援している。 「ナチ」のような言葉の意味を捏造することで、プーチンとそのプロパガンディスト達は、ロシアやその他の地域のファシストのために、より多くの修辞的・政治的空間を作り出しているのである。

ジェノサイド・ハンドブックは、ロシアの「非ナチ化」政策は、この言葉が通常使われる意味でのナチスに向けられたものではない、と説明している。 ハンドブックは、一般に理解されているようなナチズムがウクライナで重要であるという証拠はないと、何のためらいもなく認めているのである。

ナチスとは、ロシア人であることを認めないウクライナ人のことである」というロシアの特別な定義のもとで活動している。 問題の「ナチズム」は「不定形で両義的」であり、例えば、外見の世界の下にあるウクライナ文化や欧州連合への親和性を「ナチズム」として読み解くことができなければならないのである。

実際のナチスの歴史と1930年代と1940年代の実際の犯罪は、このように全く無関係であり、完全に脇に追いやられているのである。 これは、ウクライナにおけるロシアの戦争遂行と完全に一致している。

ロシアがホロコーストの生存者を殺害したり、ホロコースト記念碑を破壊したりしても、クレムリンでは涙を流さない。ユダヤ人とホロコーストは、ロシアの「ナチ」の定義とは何の関係もないからだ。

民主的に選ばれた大統領であり、家族が赤軍で戦い、ホロコーストで死んだユダヤ人でありながら、ヴォロディミル・ゼレンスキーがナチと呼ばれうる理由も、これで説明できるだろう。 ゼレンスキーはウクライナ人であり、「ナチス」の意味はそれだけである。

ナチスはウクライナ人でなければならず、ウクライナ人はナチスでなければならないというこの無茶苦茶な定義では、ロシア人が何をしようが、ロシアはファシストではありえないのだ。 これは非常に都合がいい。 もし「ナチ」が「ロシア人になることを拒否したウクライナ人」という意味を持つなら、ロシア人はナチにはなれないということになる。 クレムリンにとってナチであることは、ファシスト思想、かぎ十字のようなシンボル、大嘘、集会、浄化のレトリック、侵略戦争、エリートの拉致、大量追放、民間人の大量殺戮とは何の関係もないので、ロシア人は自分達が歴史の帳尻合わせをしているかどうかを問われることなくこれら全てのことをすることができる。 そして、ロシア人は "非ナチ化 "の名の下にファシスト政策を実行しているのである。

ロシアのハンドブックは、私がこれまで見た中で最も公然と大量虐殺を行う文書の一つだ。 ウクライナの国家を清算し、ウクライナと関係のあるあらゆる組織を廃止するよう求めている。 ウクライナの「人口の大多数」が「ナチス」、つまりウクライナ人であると仮定している。

(これは明らかにウクライナ人の抵抗に対する反応である。戦争開始当初は、ウクライナ人は数人しかおらず、簡単に排除されるだろうという前提であった。 これは RIA ノーボスチが発表した別の文章、2 月 26 日の勝利宣言を見れば明らかである)。

そのような人々、つまり「人口の大多数」、つまり2000万人以上が、ロシアを愛していなかったという罪悪感を吐き出すために、殺されるか「労働キャンプ」での労働に送られることになっている。 生き残った者は "再教育 "の対象となる。 子供達はロシア人になるように育てられる。 ウクライナ」という名称は消滅する。

イルピンから避難中の少女が振り返る。 そのキーウ郊外に残った多くの民間人が、ロシアの軍人によって殺害された。 地方当局者によると、彼らの遺体は戦車で押しつぶされていたと言う。

この大量虐殺ハンドブックが、もっと別の時期に、もっと無名の出版社に掲載されていたら、気付かれなかったかもしれない。 しかし、それは、ロシアの国家元首が隣国は存在しないと主張することによって明らかに正当化されたロシアの破壊戦争の最中に、ロシアのメディア情景のど真ん中で出版されたのである。 ロシア人によるウクライナ人の大量虐殺が世界に知れ渡った日に出版されたのである。

ロシアのジェノサイド・ハンドブックが出版されたのは、ウクライナに駐在するロシア軍人がブチャで数百人を殺害したということが初めて明らかになった2日後で、ちょうどその話が主要紙に載った頃である。 ブチャの虐殺は、ロシア軍がキーウ地方から撤退する際に発生した、いくつかの大量殺戮事件の一つである。 つまり、大量殺戮の物的証拠が明らかになりつつあったにも関わらず、大量殺戮プログラムが故意に発表されたのである。 作家と編集者は、ウクライナという国家を抹殺するためのプログラムを公表するために、この特別な瞬間を選んだのである。

大量殺戮の歴史家として、国家が自らの行動が公になった瞬間に、その大量殺戮的性格を明確に宣伝する例はあまり思い浮かばない。

法的には、このような文章が存在することで、(同様の発言やプーチンがウクライナの存在を繰り返し否定しているという大きな文脈の中で)大量虐殺の罪ははるかに容易に成立するのである。 法的には、大量虐殺とは、ある集団の全体または一部を破壊する行為と、そうしようとする何らかの意図の両方を意味する。 ロシアはその行為を行い、その意図を自白している。

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