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知らないからこそ



「いい香りだね」と言われても「え、どの香り?」と何度も聞いてしまうほどには、金木犀の香りを私は27年経っても未だに知らない。北海道民には馴染みがないから、その香りに包まれて高揚感を抱く人がいる横で、私はいまだに香りを覚えられず「ふうん、そっかあ」とポカンとしている。

昨年もそうだった。今年もそんな調子だ。


知らないということは、尊い。


それは決して恥ずかしいことではない。知らないからこそもっと知りたいという欲求が生まれるし、意識的に耳をすましてみようとしたり、触れてみようとする。知らないもの、分からないもの、は、大体怖い。その怖さを超えて近づこうとすることそのものが尊いのだ。

むしろ「みんな、知ったつもりになっていること」があまりにこの世には多い気がする。自分のことも、周りのことも、社会のことも、もっともっと遠くの何かについても、知らないくせに知ったような顔して思い込んでいるものが多すぎる気もする。

そう考えると、私が知っていることなんて、小さな国の、小さな世界の、ごく一部のことでしかない。私のことを私は知らない。貴方のことも、特に知らない。


知らなくてもいいことが、世の中にはたくさんある。

知りすぎて傷ついてしまうこともある。苦しくなることもある。それでも、少しずつでも未知のものに近づいていきたい。恐れずに。痛みを伴うかもしれない。それでも一筋の光がそこに見えるかもしれない。


知らないからこそ、守られること。知らないからこそ、できること。

希望と不安が入り混じる日々だ。でもやっぱり、昨日よりも今日の方が知っていることが多くてなんぼの人生だ。

少なくとも、私にとっては。



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