智子は急に、ヨーグルトとクリームチーズで、レアチーズケーキを作ろうと思った。
失敗しない材料5つでできるチーズケーキだ。
ネットでレシピを調べてみると、材料はヨーグルトとクリームチーズ、レモン汁、砂糖、片栗粉とある。
なんて簡単！クリームチーズ以外はうちにあるし。これなら私でも失敗しないだろう。

早速、スーパーに行ったついでにクリームチーズを買ってきた。
レシピにはヨーグルトを一晩水切りするとあるけど、面倒なのでそのまま使おう。
材料をすべてボールに入れてかき混ぜたら、あとは型に入れて冷やすだけ。

しかし、数時間で固まるはずのチーズケーキが、ドロドロのままでケーキの形になっていない。
味は果てしなく美味しいレアチーズなのだが。
やっぱり水切りを端折ったことが敗因か。

クリームチーズがちょっと高かったので捨てる気になれず、なんとかケーキにならないものかとスマホで調べた。
すると、オーブンで焼くバスク風チーズケーキのレシピが出てきた。材料はほとんど一緒だった。

なんだ、焼けばいいのか。

予熱したオーブンに入れて、200度で20分。
早速試してみたものの、こんがりと焼けているがどこか違う。
冷ましてからスプーンを入れてみると、やっぱり固まっていなかった。
一口食べてみると、酸味が増した上に焦げついた苦味まで加わっている。

それでも諦めきれず、スマホで『失敗したレアチーズケーキ アレンジ』と調べた。そうしたら、砂糖を増量し小麦粉を混ぜてさらにオーブンで焼いてクッキーにするというのがあった。

これだ。

再びオーブンを予熱して、砂糖と小麦粉を加えた”チーズケーキになりそこね”を天板に平たく伸ばして焼いてみた。
結果は……プルンプルンの平べったい何かが出来た。薄い外郎のような、わらび餅のような。

思わず声を上げて一人で笑った。
何かにはなれそうなのに、結局最後まで何にもなれない中途半端なもの。
これってまるで私じゃないの。

思いつきで準備もそこそこにやって失敗して、再チャレンジでも同じことの繰り返し。そして結局ものにならない。

なんだか急に、何ものにもなれなかったその物体が愛おしくなって、最後までたいらげた。