「BooBoo太郎。」にラーメン食べに行くだけの話 プロローグ

 半世紀も前に開業してから、これまでの常識を超越したその脂の多さ、野菜の量、啜るのも一苦労な大量の太麺、食後に口を開けばテロともとれる強烈なニンニクの匂いで数多の男たちを中毒に陥れ、その後本店で修業をした猛者たちが次々と独立、関東各地で神の一杯を受け継いだ店の誕生にファンは歓喜の涙を流したという。
 現在では、リスペクトが強すぎるあまりその味を独学で再現せんと一念発起した元中毒者現信者たちによって、これまでのラーメンに独自の解釈を取り入れて発明した「インスパイア系」というジャンルまで現れ、本山での厳しい修業の末その双肩に愛好家たちの熱烈な期待を乗せて暖簾分けした店に劣らずの支持を受けさらに業界を盛り上げ、しかし時にはオリジナリティが強すぎるゆえ客の肥えた舌にハマらないとひっそり閉店し、それと同時にどこかでまた新たな店舗がおんぎゃぁと産声を上げ進撃の勢いは落ちることなく…とまあ長々と説明を垂れたが要するに、関東を中心にえらい勢いで人気を博しているラーメン店は、今やあまりにも有名である。『ラーメン二郎』だ。

 これは一切過言ではなく、男なら誰しも一度は食したことがある、またはいつか必ず食べに行くと固く心に誓っているラーメンで、もちろん我が夫もまんまとハマったくちである。彼は大学生時代にこのラーメンに出会ってから、中毒症状が進みすぎたある段階から食べるだけでは満足できない体になってしまい、通い詰めて培った鋭い味覚を頼りに豚骨と臭み消し用の野菜を独自のブレンドで約3時間じっくりコトコト煮込んでスープを再現、チャーシューも自作して、二郎ラーメンの代名詞ともいえる山盛りのもやしとキャベツをドカッと乗せ、素人の「作ってみた」では済まされないクオリティの採算度外視インスパイア系ラーメンを作っていた。彼がひとり暮らしをしていた草加のアパートでは、しばしば大学の友人を集めて「ラーメン会」なる催しが開かれていたらしい。豚骨と男の汗のにおいが充満して想像しただけでむせ返りそうだ。

 めちゃくちゃボロクソに言うやんと思った方もおられると思うが、私もラーメン二郎は大好きだ。愛ゆえの、この駄文の垂れ流しようである。この健康志向など糞くらえ、カロリー爆弾万歳と言わんばかりの食べ物、最近では女性にも人気なのである。理由などわからない。しいて言うなら、体に悪いモノほどうまい、ただそれだけである。

 そしてこういう、食べ終わった頃には油マシマシの豚骨スープと汗まみれの顔どっちがどっちなのかわからなくなるような食べ物ほど、不思議と夏の暑い日に食べたくなるのである。

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