アイカツ! 【女たちの邪魔をするな】

そうなんです。『アイカツ!』がTOKYO MXにて4月11日毎週木曜19:00~から再放送するんです。
穏やかじゃない!(by霧矢あおい)

『アイカツ!』は2012年にスタートし、現在放送中の『アイカツフレンズ!』の元祖となったシリーズ。
サンライズ制作としては20年ぶりの女児向けアニメとして、放送開始当時は冒険枠扱いだったのが、瞬く間に女児と大人オタクの心をガッチリ掴んで人気シリーズとなりました。

アイカツ!の何がそんなに凄かったのか。一足先に1stシーズンをBlu-rayBOXで復習したオタクが、再放送を観るか迷っているみなさんに、その凄さをお伝えしたいと思います。

圧倒的女の子たちの世界

主要な登場人物は、ほぼ女性。
相手役っぽく絡んでくる男の子キャラも、プロデューサーやマネージャーとして女の子たちに命令する男性キャラも存在しません。

描かれる人間関係の中心は、主人公星宮いちごを取り巻く、スターライト学園生かつアイドルの女の子たち。
唯一アイドルたちの行動を左右できる立場になりうる織姫学園長も、元アイドルの女性です。
女の子たちの熱い憧れを集めるのはトップアイドル神崎美月

女の子が女の子に憧れてその姿を追い求め、女の子同士で努力し友情を育む、圧倒的女の子たちの世界なのです。

「介入しない」男性キャラたち

しかしアイカツ!に出てくる男性キャラがまったく魅力的でないのかというと、違うのです。彼らは「女の子たちの世界に介入しない」「ストーリーを支配しない」ことによって、それ自体が魅力になっています。

数少ないレギュラー男性キャラは、3名。
1人はいちごたちの担任でダンサーのジョニー別府先生。エキセントリックなギャグキャラで、お調子者的な言動が生徒たちから呆れられることもしばしば。ストーリーに影響を与えることも少ないキャラクターです。
私はこのジョニー先生の生徒との関わり方に、とても感銘を受けるのですが、詳しくは後述することにしましょう。

2人目はいちごの弟、星宮らいち。めちゃくちゃ可愛い小学生男子であり、ハイレベルなアイドルオタクであり、推しアイドルを常に見上げ、その眩しさに賛辞を送るアイドルオタクの鑑のような小学生。

3人目は「掃除のお兄さん」こと涼川さん。若いイケメンですが、登場シーンはおそらく最も少なく、よって影も薄い。用務員的な役割で助けてくれたりもします。

アイカツ!世界の男性たちは、アイドルたちが頑張るのを遠くから見て応援し、自分は自分の世界を持っていて機嫌が良く、時々は手助けもしてくれるけれど、必要以上に手を出してコントロールしないし、執着もしない。
彼らはストーリー展開にあまり影響を与えることはないけれど、だからこそめちゃくちゃ良いキャラクターなのです。

すべては「今の自分」のために

アイドルが根性で崖を登り、友達のために斧で大木を切り倒すこの作品。
「情熱」「熱い気持ち」といったことに大きな価値基準が置かれているのはもちろんですが、それを向ける対象がちょっと他の作品とは一味違うように感じます。

彼女たちの憧れは同年代のアイドル神崎美月。彼女たちは、「将来」とか、「大人になったら」何かになりたいのではなく、ごく目の前の近い未来になりたい目標や、やりたいことを持っているのです。

またその情熱の向ける先は、世間が有意義だと認めることや、大義名分とも離れています。

アイカツ!界にはアイドルがステージで着るドレスのブランドが複数あり、それぞれのブランドにトップデザイナーがいます。
アイドルたちもそれぞれに自分の最も愛するブランドがあって、そのデザイナーと交渉し憧れのドレスを手に入れるため、さまざまな努力をします。

いちごが初めて崖を登るエピソードも、最愛のブランドAngely Sugarのプレミアムレアドレスを手に入れるためでした。
すごく好きな服のブランドがあって、それを手に入れるためにめちゃくちゃ努力する。世間一般では、まさに「バカな若い女」の象徴と言われてしまうような行動です。
アイカツ!の世界ではこれが全肯定されます。

そして、彼女たちが頑張るもう一つの理由は、「友達のため」。アイドルとしての自分に何の利益ももたらさないことでも、友達のためなら彼女たちは清々しいほどに協力を惜しみません。
それはきっと、今がすべてだから。「今やったら自分が幸せになれること」に、自分の心に正直に、まっすぐに向かっていく。
だからオーディション直前でも、友達と一緒にいられる今この時間を大切にするためにケーキを食べに走る。
それこそが、アイドル活動「アイカツ」の道なのです。

服への愛とリスペクト

ブランド服を全肯定するアイカツ!は、服をデザインするということのクリエイティビティにも最大級のリスペクトを送っています。
各ブランドのトップデザイナーは、作品内にキャラクターとして登場します。このデザイナーたちがまた良いのです。

まず最初に、トップデザイナーの男女比がほぼ同数に保たれていること。
そして、男性デザイナーであっても、マスキュリニズムを感じさせない何らかの要素が必ず加えられていること。
それによって、デザイナーたちがミューズとなるアイドルを単なるイマジネーションの道具とせず、プロデュースという支配下に置かず、互いに尊敬し合う関係性として描くことを可能にしている。
この辺の描写が実に絶妙で、倫理的なセンスを感じさせるのです。

さらに、服愛の強い作品らしく、ステージ衣装以外の普段の制服や私服、部屋着、スクールコートまでも、とにかくハイセンスでおしゃれ。
こればかりは見てもらうしか仕方がないのですが、登場するすべての服の立体的に考えられた造形と色彩センスに、服好きなら間違いなくボコボコにされます。

「人に頼るな」と言われない世界

たとえ利益をもたらさなくても、有意義と呼ばれなくても、女の子たちの「好き」な気持ちと、それに向かう努力が絶対的に肯定されるアイカツ!の世界。これは、資本主義の理念を逆走するような作品といえるのではないでしょうか。

アイカツ!を観ていてもう一つ印象的なのが、人に頼ることを否定しないということです。
崖は自分の手足で登るのに、同じオーディションに出るライバルのはずのアイドルと相談し、協力し合って特訓することはまったく否定されない。
練習場所までジョニー先生に頼んで車で送ってもらうのも、「前向きな頼み事はウェルカムだ!」

これは実際に現実世界で仕事をする上で、ものすごく大事なことですが、こういった「高みを目指して頑張る」系のアニメでこういう表現はなかなか見ないので驚きました。

現実世界では、一人で仕事を抱え込もうとする人とか、誰にも相談しないで自分だけで頑張ろうとする人って、けっこう職場で問題をもたらすじゃないですか。
それなのに漫画やアニメの世界では、「すぐ人に助けてもらおうとするなんて甘ったれるな」とか「自分で乗り越えてみせる!」とか「友達ごっこじゃ勝てない」とか未だに言うじゃないですか。

でも人に相談するのって、自分からその人のところに出向いて「相談があるんですけど」と問いかける時点で、すでに自分で大きなアクションをしているんですよね。
そういう生徒からの相談に、常に全面的に受け入れ体制でいてくれるのが、織姫学園長やジョニー先生なのです。

自分のやりたいことをどんどん人に相談できるアイドルこそが、活躍していく世界。自主性の意味が刷新されるかのようです。
もうすべての仕事をする大人に見てほしい。

根底にあるリスペクト

これらすべての素晴らしさの根底にあるのは、リスペクトだと思います。
根本的に女の子という存在を、アイドルをリスペクトしているから、女の子たちの世界に権威や支配を介入させない。
キャラクターひとりひとりへのリスペクトがあるから、主人公のすごさを強調するために他のキャラが軽んじられることもなく、互いが尊敬し合い相談し合う関係性を築いていく。

そんな素晴らしい女の子同士の関係が、常に熱く描かれるのが、アイカツ!なのです。MXが観られる地域の百合人だったら、観てくれなきゃ血を吸うわよ!(by藤堂ユリカ)

(観られない地域の方は、各種ネットサービスでも配信しているのでぜひ調べてみてください〜)
(太字の部分はすべて作品内に出てきた物事やセリフとなっています。探してみてね!)

文・宇井彩野

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