地方都市、ドラッグ店閉鎖相次ぐ―訪日客激減で戦略修正も


【訪日外国人がこず、需要減 ドラッグストア】
 札幌や福岡、名古屋といった地方都市の中心部でドラッグストアの店舗閉鎖が相次いでいる。有力チェーン各社は昨年まで、訪日外国人客の需要を目当てに都市部の出店を強化してきたが、新型コロナウイルスによる訪日客の激減で戦略の修正を迫られている。

【ツルハホールディングス 10店舗を一気に閉鎖】
 業界大手のツルハホールディングス(HD)は5月、名古屋、福岡、京都、大阪などの繁華街で営業していた10店舗近くを一気に閉鎖した。小売りチェーンは営業成績に基づいて店舗を常に統廃合するが、今回のように都市の繁華街にある店を一度に閉めた例は同社では過去にないという。
 一斉閉鎖の理由は、コロナの影響で国際航空便の運休や欠航が相次ぎ、各都市で訪日客が事実上ゼロとなっているのが大きい。「来ない客のために家賃を払い続けるわけにはいかない」(鶴羽順社長)との判断だ。大手各社では今春以降、コスモス薬品が福岡市・天神などで試験的に展開していた都市型店舗を一部閉鎖。スギ薬局を展開するスギホールディングスも、都心店の営業成績が悪化している。
 「前より人は戻ってきたけど、外国人は全然見かけませんね」。福岡市の繁華街・中洲で働く飲食店関係者は話す。中洲は日本人と同様に外国人客も多く、中国や韓国からの旅行客の買い物を当て込んだドラッグストア各社が出店していた。ところがコロナ禍で訪日客がほぼゼロとなり、高水準の家賃に見合う売り上げを確保できなくなっている。中洲では4月以降、コスモス薬品やツルハドラッグの店舗が閉鎖された。
【閉店 札幌の繁華街でも。】
 全国で最も早く2月に独自の緊急事態を宣言した北海道は外出自粛期間もその分長びいた。札幌の繁華街すすきのの周辺にあるサツドラホールディングスの店舗は現在も短縮営業や休業が続く。ダイコク(大阪市)は4月、豊水すすきの駅前店を閉店した。
 ドラッグストア各社は近年の訪日客急増に伴い、都市中心部への集中出店を進めてきた。しかし、JPモルガン証券の村田大郎シニアアナリストは「コロナの長期化に伴う訪日客の減少や在宅勤務の普及で、都市中心部の人口が回復することは考えづらい」と指摘する。
 コスモス薬品は都市中心部では苦戦しているが、店舗網の主力は九州や西日本の郊外に展開する大型店だ。コロナ禍で都心店を閉める一方、郊外では多くの新店舗を出している。
 ドラッグストア業界は再編の動きが活発だが、コロナがそれに拍車をかける可能性もある。JR九州は5月末、都市部を中心に店舗展開する子会社のJR九州ドラッグイレブン(福岡県大野城市)の株式の大半をツルハホールディングスに売却した。
 地方都市の商業関係者の間では、都心のドラッグストア閉鎖について「コロナが収束するまで耐えしのげば、店もにぎわいも戻ってくる」(札幌狸小路商店街振興組合の島口義弘理事長)との見方もある。だが、訪日客減少の影響は観光産業や小売業だけでなく、地域全体に及びつつある。札幌・すすきので複数のビルを所有する貸しビル会社の幹部は「うちを含めて、ビルの空室情報が次々と更新されている」と明かす。
 札幌市のまちづくり担当者は「撤退する店が出てくることで、地域に根を張って営業してきた店への悪影響が出るのではないか」と懸念を深めている。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?