副業先の残業、社員が事前申告、厚労省、来月に新ルール、労務管理の懸念払拭、働きすぎの監視が課題に。


【副業先での働きすぎを防ぐ】
 副業をする人の残業時間について、厚生労働省は働く人が勤務先に事前申告するルールを9月から始める。働き手が本業と副業とでどう働くかを自由に検討できるようにし、副業を促す狙い。企業による就労時間の管理もやりやすくなるとみられるが、働きすぎる人が増える恐れもあり、厚労省は企業に健康チェックなどの充実を求める。

【社員の副業が認められやすくなる】
 厚労省は8月中に副業・兼業の新たな指針を公表し、働く人に本業と副業それぞれの勤務先に残業の上限時間を事前申告するよう求める。例えば、月の残業時間の規制上限が80時間の場合、本業のA社で50時間、B社で30時間などと決め、それぞれの会社に伝える。
 企業は申告された残業時間の上限を守れば、仮に社員の副業先の残業時間が規制の上限を超えても責任を問われない。副業先での労働時間が把握しづらい場合でも、社員の副業を認めやすくなる。もちろん自社で申告時間を超えて残業させた場合は罰則を受ける可能性はある。本業・副業ともに残業に割増賃金を支払うルールは従来通り変わらない。
 働く人にとっては、自分で残業時間を決めることで無理なく働ける面がある。仕事の繁閑に応じ、1カ月単位でそれぞれの企業の残業時間の設定も変えられる。
 一方で、長時間労働を助長する恐れもある。働き手が収入を増やそうとして無理に長時間働いたり、実際に働いた時間を短めに申告したりすることも想定される。厚労省は企業に対し、副業する社員の定期的な面談などで管理を徹底するよう促す。過重労働など問題事例が多く生じた場合は、ルール改正も検討する。 
【満足度を上げるためには副業が必要】
 欧州でも英独仏などは働く人が過重労働にならないよう、本業と副業の労働時間の合算が求められている。労働時間は労働者の自己申告が一般的で、日本も欧州の事例にならう。これまで厚労省は副業を推進する一方、具体的な手続きを示しておらず、経済界からルールの明確化を求める意見が出ていた。
 所得を増やしたりスキルを高めたりするため、複数の仕事に就くことを希望する人は増えている。コロナの感染拡大で就労時間が減少し、さらに関心が高まった。4~5月に会社員を対象に仕事の満足度を高める取り組みを聞いた民間調査では、副業と答えた人の割合が66%に達した。
 ただ実際に副業する人は約270万人と横ばいが続く。企業の間の慎重論が響いている。労働基準法は社員が複数の事業所で働いた場合でも、企業が労働時間を合算するよう定めており、就労時間の管理が煩雑にならざるを得ないのが大きい。
【副業を認める企業は4割弱】
 経済同友会の調査によると、副業を認める企業は2019年時点で全体の4割弱。認めていない企業の7割以上は労働時間の管理を理由にあげる。特に副業先での労働時間の把握が難しい。
 9月からは勤務中の事故などで働けなくなった場合、2つの企業の賃金を合算して労災保険の給付が受けられるようになる。現状はA社でケガした場合は、A社分の賃金をもとに給付を受ける。ケガをすればB社でも働けなくなり、A社分の給付額だけでは生活が苦しくなるとの指摘があった。今年の通常国会で労災保険法を改正した。

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