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こんなところにポツンと集落ができたワケ【都道府県シリーズ第2周:福岡県 上毛町編no.1-4】

都道府県ごとに地形・地質を見ていく「都道府県シリーズ」。
2周目の第5弾は「福岡県」です。
そして今回は福岡県の中からさらに絞り込み、上毛町(こうげまち)にスポットを当てています。

前回記事はコチラ👇

今回も山間地域のお話です。


「山の方向」が違う?

前回は上毛町の山地と谷が概ね一定の方向に向いているのを確認しました。
しかし実は、傾向が異なる地域が一部に見られます。

上毛町の地形図(国土地理院地形図):スーパー地形画像に筆者一部加筆

赤点線で囲った範囲は、尾根が放射状に伸びていたりなど、他の土地とくらべて様子が違います。

そして、さらに詳しく見てみると、少し変わった地形をしています。

上毛町南部の地形図:スーパー地形より抜粋

まずは地形だけで見ましょう。
山の頂上付近にあまり凹凸が見られず、なめらかに見えます。
これは山頂付近が比較的平坦な地形であることを示しています。

上毛町南部の地形図②:スーパー地形より抜粋

「大平山」と書いてある周辺が緩やかですよね。

上毛町南部の地形図③:スーパー地形画像に筆者一部加筆

大まかに見ると、赤点線の北西側に緩やかな斜面が多くなっています。
特に「大平山」の北東にいくつかがありますよね。
山頂部付近で周囲に何も無いので、自然にできた池だと思います。
自然に水が溜まると言うことは、凹地になっているということでしょう。

上毛町南部の地形図④:スーパー地形画像に筆者一部加筆

さらに拡大すると、赤点線で囲った中に「矢印」が見えます。
これは凹地を表す記号です。
やはり、これらの池は凹地に水がたまってできたようです。
そして池の東に着目すると、かなりえぐられた地形が目につきます。
崖マークがあり、「459」と書いてあるすぐ南は凹凸が激しい地形になっており、頻繁に崩れている斜面であろうと思われます。

池周辺の地形とは、ずいぶん大きく異なりますよね。

こんなところにポツンと?

そしてさらに北東に目を移すと・・

上毛町南部の地形図⑤:スーパー地形より抜粋

他にも、えぐられたかのような谷地形がいくつもあり、凹凸が激しい複雑な地形になっています。
そして北東ー南西方向の谷の途中には「有田」という地名があり、集落になっています。
こんなところにポツンと集落!
どういうことでしょう?

上毛町南部の地形図⑥:スーパー地形画像に筆者一部加筆

地形図から読み取る限り、この地域は上図の赤点線の範囲で過去に大崩壊があり、その土砂が黄色点線の範囲に溜まってできたと考えられます。
赤点線範囲は侵食が進んでいるので、大崩壊が起こったのはだいぶ昔だと思います。
ネットで検索した限りでは、このあたりで土砂災害があったという情報は見つかりませんでした。
おそらく何百年前かそれ以上昔か?と言ったタイムスケールだと思います。

大崩壊の後に「こんなところに耕しやすい土地があるぞ」となって有田集落ができた可能性があるので、集落の言い伝えで何か分かるかも知れません。

大崩壊のワケ

かなりローカルなので、さすがに有田集落の言い伝えは見つかりませんでした。
せめて「地形・地質条件」から、大崩壊が起こりうるか?を検証します。

さきほど見た「山頂部付近の緩やかな地形」が、他の地域と何が違うかと言いますと、まず1つは「標高」です。
ここは上毛町で最も標高が高く、概ね350~650m。

次に検証したいのは「地質」ですが、前回記事で紹介した地質図(シームレス地質図V2)では、黄色一色なので検証できません。

そこで、もう少し詳しい「20万分の1地質図」を見ると、黄色は2つに細分化されていました。

上毛町周辺地質図:20万分の1地質図幅「中津」より抜粋

大部分が茶色ですが、左下と真ん中下部が赤茶色で着色されています。
これら「茶色と赤茶色」全体が先にお見せした地質図の「黄色」です。

そして真ん中下部の赤茶色が、上の地形図で赤点線で囲った範囲とほぼ一致しています。

この赤茶色は安山岩質の溶岩(正確には安山岩ーデイサイト溶岩)です。
溶岩とはマグマが地上で流れて冷えて固まったもの。

このあたりは英彦山(ひこさん)火山岩類と呼ばれ、約500万年前に噴火した火山の地質です。
火山活動は何回か起こっており、赤茶色の溶岩は、その前の火山活動の噴出物の上を覆うようなかたちで分布しています。
論文によると、この溶岩の底面は概ね水平とのことで、地殻変動の影響をあまり受けておらず、もとの溶岩台地としての地形が残ったと考えられます。

溶岩台地の頂部は平坦なので水が溜まりやすく、長い年月の間にジワジワ浸み込んだ水は、台地縁辺部の急崖から湧水として湧出し、土砂崩れの原因になります。

地質図を見ると、この地域は英彦山(ひこさん)火山岩類の端っこです。
現在も池があることも併せて考えると、やはり大崩壊(土砂崩れ)によってできた地形だと考えて良さそうです。

上毛町の地形図を眺めているうちに偶然見つけた有田集落。
「災害の恵み」を利用した逞しい日本人の姿をイメージできますね。

お読みいただき、ありがとうございました。

参考文献

英彦山団研グループ(1984)九州北部,英彦山地域の後期新生代火山層序および地質構造.地質学論集,第24号,pp.56~79.

石塚吉浩・尾崎正紀・星住英夫・松浦浩久・宮崎一博・名和一成・実松健造・駒揮正夫(2009) 20万分の1地質図幅「中津」、産総研地質調査総合センター.

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