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頑張ってくれてありがとう


今年の3月、私は6年続けた仕事から離れました。

25歳から始めた競輪キャスターのお仕事です。

そして先日
そのお仕事で大変お世話になった
先輩キャスターであり私の師匠であるさとうゆみさんから
『今まで頑張ってくれてありがとう』
という言葉をいただきました。


これは私の個人的な意見として
右から左に聞き流していただきたいのですが
キャスターという仕事は、地味で孤独です。
華やかなイメージをもたれているかもしれませんが
やる前からも、やっていても、
そう思ったことは1回も、1ミリもありません。
番組に出るゲストさん、タレントさんの方が
よっぽど華やかです。だって、主役だから。
キャスターは番組の司会進行役であり聞き手であり
主役の皆さんにスポットライトをあてる影の役割だからです。
番組に出ているから華やかに見られるかもしれませんが
役割としては全然そんなことはありません。

キャスターは準備が仕事です。
この言葉はゆみさんの受け売りです。笑

当日までに
選手やゲストさんなどの、主役の皆さんのことを
しっかり調べ上げます。
それだけでなくその競輪開催する土地のことや
解説者さんのこと
出演される方のこと
その開催の歴史のこと(Gレースだったら)etc.
とにかく準備and準備and準備and準備...
果てしないです。終わりはありません。

でもそんなに準備をしても
3日〜6日の開催中
調べたことのうち
ほとんどのことは使いません。


『100調べたうち1使えたら良いと思いなさい』
ゆみさんに以前言われた言葉です。


いつだったか
『寝る時間削ってそんなにたくさん調べても使わないなら意味ないじゃん』
とある方に言われたことがあります。
私は『そうですよね。あはは。』とその時は返事しましたが
そんなことない!と心の中で思っていました。

だから6年間、準備だけは絶対に手を抜かず
徹底的にやってきました。
最初は2週間くらいかかっていた準備も
最終的には容量を覚えて、2日くらいでこなせるようになったのは
個人的に小さなガッツポーズでした。笑


競輪選手であれば努力した結果が
着や賞金、自分のランク、競走得点などといった数字に
はっきりと出ますよね。

企業で働いている方なら
営業さんだったら成績とか、上司からの評価とか、お給料とか
目に見える形で頑張りの結果が出るのかなと思いますが

キャスターはどうでしょう。
はっきりとした結果が出る仕事ではありません。
また、いただく意見も様々。
ある人からはお褒めの言葉をいただいても
ある人からはけちょんけちょんに言われたり
他人からの評価に身を委ねては
混乱してしまうばかりです。
人の好みに左右されやすい職業ではあります。
使い勝手の良さとか、色々あります。
ファンの方が想像しているよりも
だいぶ複雑なのが正直なところです。

ただ私は、さとうゆみさん という
目標とする競輪キャスター像がありましたから
いつだってそうなりたくて頑張っていました。

でも全然うまくできませんでした。
自分の仕事の出来は
ゆみさんが師匠と言うことすらはばかられるような
そのくらいの自己評価でした。

どこがダメだったか
どうしたら良かったか
自分で振り返って自分で答えを見つけて
次の機会があれば実践してみる。
でも正解が分からない。
まぁ、正解なんてもともとないのですけど。

とにかく孤独でした。

私の良いところを見つけて褒めてくださる優しい方もいましたが
自分としてはいつも反省ばかりで
うまくできたと思ったことは一度もありませんでした。


だから競輪キャスターのお仕事を離れた時も

うまくできないことばかりだったけれど
しっかり準備して全力で頑張った結果として
これが自分の実力だった。
妥協しないで真剣に取り組んだのは確かだから
その点ではやりきった。悔いなし。

と、自分に対して言い聞かせ
ちょっと無理矢理、ビシッと区切りをつけました。


ファンの方からSNSでいただく言葉もすごく嬉しかったのですが
ファンの方は皆さん優しいですからね。

自分の仕事への自己評価は相当低く、正直、
へなちょこポンコツ競輪キャスターのまま
終わってしまったという感覚でいました。


で、最初の話に戻るのですが
恩師であり、私が尊敬しているゆみさんが先日

今まで頑張ってくれてありがとう。

という言葉をくださったのです。

私はキャスターに区切りをつけることを決めた時
1番に頭に浮かんだのがゆみさんのことでした。

すごく懇切丁寧に、時にはどころか常に厳しく
一から十まで教えていただきました。
だから、私が競輪の仕事を離れることで
そのゆみさんの労力と期待を台無しにしてしまう気がして

本当に本当に申し訳なかった。
でもそのゆみさんが、

ありがとう

と言ってくださったのです。
これ以上の言葉はありませんでした。
ゆみさんにそう言っていただけたことで
とても救われました。

私のやってきたことは
ありがとう、という言葉をかけていただけることだったのかなと
じんわり心が温かくなりました。

そして、そんな言葉を私に送ってくださったさとうゆみさんを
改めてめちゃくちゃ尊敬したのでした。


4月中に競輪の資料は全て廃棄したのですが
ゆみさんからキャスター研修で教えていただいた
大切なことを書いたノートが出てきました。

汚い字で書かれた最初のノート
競輪キャスターとしての注意点

6年経ってからこれを見返して、、、、

ゆみさん、私これは全部、守れました。

今そう言えて良かったです。


色々なことをたくさん教えてくださって
ありがとうございました。
ゆみさんに教えていただけたから、今の私があります。
素敵な言葉と気持ちを送ってくださって
6年間の素晴らしい時間を私にくださって
ありがとうございました。


一ノ瀬鮎夏

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