ミートソースの話

伯母は祖母譲りの料理が得意な人で、よく私達家族のことを気にかけては何かの折に嫁ぎ先から来て面倒をみてくれた。伯母は中学校に上って以降、母(私にとっての祖母)から夕食作りの一切を任されていたという。お金を渡されて、買い物から予算管理から何からを一人で行い、二人の弟と父母と合わせて5人分の食事を毎日作っていたというのだから、料理や食材マネジメントの熟達度は並大抵のものではない。今ならヤングケアラーとされてしまうだろうけれども、当時は花嫁修業の一環としての家庭内教育でもあったのだろう。
そんな伯母は、法事などで来るたびに必ず何か一品、弟嫁である私の母や甥・姪にあたる私達3きょうだいに料理を教えてくれたのであるが、あるとき、これは絶対に作れたほうがよいから、と姉と私に直々に教えてくれたのが、スパゲッティ用のミートソースである。

手作りのミートソースは、時間がかかるが、確実に美味しい。段違いに美味しい。肉も野菜もたっぷりに作ったミートソースは市販のレトルトソースとは大違いだ。それまで家で食べるパスタといえばナポリタンのみであったが、その日から選択肢が一つ増えることになった。世界がひらけた感じがした。

今だったらスマホにメモなどするのだろうが、当時はレシピをチラシの裏に聞き書きした。冷蔵庫の扉に書いたレシピを貼っておき、時折姉と一緒に作ったものだった。時間のある土日に大鍋に作って、あとで一食分ずつ小分けにして冷凍しておくのである。レシピは今では手元にはないのだが、たしかこんなことを書いたなと覚えているのは以下のとおり。
<材料>
・牛ひき肉:大2パック(牛たっぷりがおいしい)
・セロリ:1本
・玉ねぎ:1~2個
・しめじ:1袋
・コンソメ:2個
・トマトピューレ:1瓶
・トマト缶:1缶
・水:適量
・塩コショウ:適量
・月桂樹の葉っぱ:1枚とってくる (※注:月桂樹は家に鉢植えがあって煮込み料理のたびにもいで使っていた。)
<作り方>
①野菜類をすべてみじん切りにする。
②なべに油をしいて野菜を炒める。
③ひき肉を入れて炒める。
④水とコンソメ・トマトピューレ・トマト缶を入れて煮込む。
⑤あくを取る。油もすくう。月桂樹の葉っぱを入れる。
⑥味見をして塩コショウで味を整え、半量まで煮詰まったら出来上がり。

伯母直伝のミートソースは、肉肉しくトマトの味も濃く、おかずのようなソースであり、たまに食べたくなる味だった。今でも思い出しては時々作っている。スパイスカレー餃子同様、大量に食材を刻むのも良く、アク取りをしたり煮詰めながらぼんやりと鍋を見守るのも好きだった。なんというか、自己を整えられる系統の料理なのである。
夕食に気軽に麺類を食べるようになり、いろいろなパスタソースを買ったりコンビニパスタを買ったりもするが、ミートソースだけはよほど食べたさを今すぐ解消したくて耐えられないというような緊急時でなければ、買わずに作る。(まぁ、そういう場合は買ったところで欲が解消しきれないので、結局はあとから作ることになるのだが。)
ミートソース欲が発動したら最後、材料を集めて2時間は調理時間を確保して作る。それ以外に解消の道はない。

贅沢だと思う。ミートソースは、とてつもなく贅沢な料理だ。

しかし作れば満足感も高く、ストレス解消度合いも高いので、満足料込みだと思えば、まあいいかとも思ってしまう、罪な料理だ。

今日このようなものを思い出して書いてしまったのも、ミートソース欲が突然発動してしまったからに他ならない。明日、仕事から帰ったら必ず私はミートソースを作るであろう。

※ちなみに今作るときは何段階か省略し、量も少なくしている。合い挽き中パック1、セロリ玉ねぎ半分、しめじ半分、トマトピューレまたはトマトのベースソース等として売っているトマトパック1、コンソメ1、水適量、くらいにすると、手に入りやすく作りやすい。全工程をフライパンで済ませ、水を少なくして煮詰める時間を減らしているが、それでも3~4食分くらいにはなるので十分である。


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