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オンライン教育から取り残される人々

新型コロナウイルスによる休講の長期化に伴い、議論にのぼっている「オンライン教育」。はじめこそ「ICT教育が浸透する機会」「教育現場に変革をもたらすのでは」などの声が上がっていたが、公教育での導入が本格的に検討されるにつれて、環境整備や導入の困難さが挙げられるようになった。

僕が経営する会社は学習塾の運営の中でオンライン教育も行なっている(コロナ前からも生徒の一定数はオンラインだった)。また地方自治体から委託を受け、生活困窮世帯向けの学習支援にも取り組んでいる。

これらの経験を踏まえてオンライン教育の可能性と限界について、このnoteに書こうと思う。

生活困窮世帯にはオンライン環境がない

弊社のこれまでの経験からいうと、オンライン教育が既存の教育に置き換わることはかなり難しい。

というのも、公教育の現場で導入するうえでは「生活困窮世帯へのオンライン環境の整備」と、「モチベーションが低い子どもへの教育」がセットで必要になるからだ。

まずオンライン環境の整備について。

総務省は、年齢別・世帯年収別インターネット利用率や利用端末の種類等に関するデータを公表しており、そこから以下のことが分かる。

① 6〜12歳でのインターネット利用率は67.1%であるため、約3割の小学生には特に保護者のサポートが必要。

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②世帯年収別のインターネット利用率は、年収200万未満の世帯で54.4%、200〜400万未満の世帯で70.6%(それ以上の年収になると約83〜90%)である。低所得世帯の子どもたちはインターネットを利用できる環境が整っていないことが多い。

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③インターネット利用端末の種類は、スマートフォンは59.5%、パソコンは48.2%、タブレット型端末は20.8%とスマートフォン以外の端末の利用率は低い。私がこれまで見てきた低所得世帯のほとんどは、スマートフォンを持っていても、タブレット・パソコンまである家庭はほぼいない(もちろんスマートフォンでも授業は受けられるが、画面が小さく板書などが見づらい)。

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このように、インターネット利用においては、世代間や年収間の格差がある。

仮にオンライン授業で必要な備品・環境整備のサポートを国から行えなかった場合、格差は拡大し、子どもの精神面に負の影響を与える。「相対的貧困」の本質は、格差による剥奪感やそれによる精神的影響、つまり「周囲が当たり前に享受している環境が自分だけにはない」という悲しみ・苦しみである。オンライン教育を進める場合、機材のサポートが必要なのは上記データからも明らかである。

オンラインだけでモチベーションの低い子どもを支援することは難しい

仮にオンライン環境が整ったとしても、これらはオンライン授業を受ける上での必要条件の一つを満たしたに過ぎない。思いつくだけでも、下記のような課題がある。

・オンラインで集団授業を行う場合、「普段の何気ないコミュニケーションは減りがち」であり対面に比べるとやはりコミュニケーションの「密度」が下がる。例えば内向的な子どもとの信頼構築は難しくなるだろう。

・手元のノートを見たり、細かな表情の変化を見たりすることができなくなる分、勉強が苦手・発達特性が強い子どもたちを教育・支援することは難しくなる。

また、オンライン環境を整えづらい低所得世帯の子どもたちは、さらにダメージを受ける可能性がある。

・低所得世帯の子ども達の多くは、勉強へのモチベーションが低い(これは様々な自治体の報告書等に記載されているが、どの自治体も同じ)。

・さらに低所得世帯では「仕事やパートに追われて親が勉強を見る時間がない」「親自身が勉強してこなかった」といった課題を抱えているケースも非常に多い。そうなると、親は教員の代わりをすることができず、子どものモチベーションが落ちていたとしてもサポートができない。

・また、低所得世帯のご家庭は、「子ども部屋」「勉強机」がない場合も多く、小さい兄弟姉妹がいれば、「家庭の中でオンライン授業を受けられない」時もあるだろう。

オンライン教育は本当に難しい。

フランスの事例

オンライン教育に苦戦しているのは日本だけではない。

実際に、フランスはオンライン授業の準備を入念に行なっていたのにもかかわらず、わずか3週間で中止。保育園を含め全ての学校を段階的に再開させることを発表した(2020年4月26日付 現代ビジネス)。うまくいかなかった理由についていくつか書かれているが、

・5%の子どもたちと連絡が取れない。家庭のさまざまなな事情でインターネットアクセスがない、虐待やネグレクトを受けているなどが考えられる。

・オンライン授業についてきているのは、「自力で学習できる生徒」か、「親が勉強のサポートをしてくれる生徒」だけ。それ以外の生徒は落ちこぼれになりやすい。

「オンライン授業」と「家庭訪問型の個別支援」を同時に行うということ

散々オンライン教育の課題を述べたが、オンライン教育の全てに問題があるわけではない。たとえば、クラスの中のモチベーションの高い子はオンライン教育を行い学びを進めることができる。また朝礼などのクラス運営はオンラインでだいぶ効率化できるだろう。

一方で、その効率化した時間を使い、家にネット環境がなかったり、発達障害を抱えていたり、勉強のモチベーションの低かったりする子どもへのコミュニケーションを増やして欲しい。もちろん、三密にならない環境を整え(例えば、公園などで一定距離離れて会うなど)、スティグマを生まない配慮をした上で、直接家庭訪問を行うこともよい。

先生による家庭訪問が難しければ、地域のNPO法人などや塾などと連携をしても良いだろう。近年では、多くの自治体は低所得世帯への学習支援に予算を付け、NPO法人や塾・家庭教師事業者が委託を受けて遂行している。自治体の福祉課と連携しつつ、そのような受託事業者に代わりに訪問してもらうことも良いだろう。

ちなみに弊社は全国9の自治体から生活困窮者の子ども支援の委託を受けている。
弊社が委託を受けている自治体(東京都足立区・渋谷区・八王子市、神奈川県川崎市、大阪府吹田市、大阪市住吉区・阿倍野区・淀川区・大正区)の学校関係者の方でお困りの方がいれば、是非弊社に相談をして欲しい。

今まで以上に「とりこぼされていく子ども」を生まないために

これまでの内容を踏まえ、SNS上でオンライン教育の限界を伝えると「全体の足並みを揃えるために日本の教育業界全体を衰退させるのか」といった意見を言われることもあった。

僕としてはオンライン教育の可能性を否定したいわけではない。弊社としてもオンライン教育の中で生徒がモチベーションを保てる仕組みを日々考案している。

ただ、公教育については「学力が高い層の圧倒的な成長」よりも、「少しずつでも全員が前進していくこと」を重視したいと僕は思う。一部の教育水準が上がる一方で、一部の子どもたちは日本の教育現場から取りこぼされていく、こんな状況を悪化させたくはない。

だからこそ、「できる人からオンライン教育をやる」のではなく、生活困窮世帯が出遅れないように丁寧なサポートも合わせて行ってほしい。そのために弊社が力になれることがあるならば、是非お声がけいただきたい。

・弊社、塾のウェブサイト
・弊社、コーポレートサイト

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