見出し画像

上野駅の知られざる展示スポットでセレンディピティを。

オトナの美術研究会の月イチお題企画、今月は「#美術館周辺のおすすめスポット」。めずらしく美術自体からはなれた息抜きのような内容だ。

美術館や博物館に行くときって、仕事でなければだいたい寄り道くらいはするものだ。遠くなら観光旅行の一部になるかもしれない。「#旅と美術館」で書いた大原美術館なんかは、美観地区のなかにあるので地元民でなければ否応なしに観光とセットになる。

わたしは美術館にはひとりで行くことが多い。近隣に雰囲気の良い落ち着いたところがあれば、観てきたものを振り返りつつ散策できていいかななんて思う。何人かで連れだって行くのなら感想を語りあうのにもってこいの喫茶店とか、きっといろいろあるだろう。

あなどるなかれ、美術館めぐりの愛好家には案外必要なトピックなんじゃないかと思うけどどうだろう。

もしかしたらこのお題を提案したのはわたしだったかもしれない。お題のアイディアが匿名アンケートで募られたとき、思いつくままにいくつか書き込んだ。そのうちのひとつだった気がする。ありがちなテーマなので、ほかにも同じ提案をされたかたはいたかもしれない。

提案したときは、単純にみなさんのおすすめが聞けたら嬉しいなぐらいに思っていた。どんなおすすめスポットが紹介されるのだろうと楽しみにしていた。自分がそこを訪れることがあれば、きっと行ってみたくなることだろう。あわよくば自分の寄り道リストに加えておこうというシタゴコロもあった。

かといって、自分が書けそうなおすすめスポットがすぐに思いつくわけではなかった。ふりかえれば、案外自分は誰でも知っていそうな定番スポットにしか行っていないのでは・・・なんて思えてくる。

もしかして美術館めぐりをされるみなさんも意外と穴場スポットを知っているわけではないのだろうか。今回のお題は意外と難しいようで、いつになく出足が鈍い。

そんななか、先手をきって投稿されていたのが陸さんによるnote。上野駅から御徒町方面にのびる地下道「上野中央通り地下歩道」にある展示スペースについて。

わたしの職場は御徒町にあるので、上野はじゅうぶん行動範囲だ。ランチタイムに散歩をかねて上野駅まで行くこともある。地上は有名なアメ横商店街でいつもごった返しているから、空いている地下道を歩くと効率が良い(いつも信じられないくらいほんとうに空いている)。

毎年入れ替わるここの展示は、陸さんが書かれているように台東区長奨励賞を受賞した東京藝術大学の卒業・修了制作の作品の数々だ。コンテンポラリーアートに疎いわたしには、次代を担うかもしれない作家の作品に触れられる貴重な展示になっている。

そんな身近に知っているところが紹介されていたのは、ちょっと嬉しい。そして関連して思い出したところがある。

おなじく上野駅にある展示スペース、「上野駅正面玄関口ガレリア」だ。

上野にはおおきな美術館・博物館が集まっている。朝から展覧会のハシゴをしたって一日ですべてまわるのは無理だろう。

関西からのお客さんを科博の特別展に案内した際、東京にはこれだけの規模で美術館や博物館が集まった場所があるなんて羨ましいと言われた。わたしも名古屋に住んでいたときにはそう思っていたっけ。その近くで働けているなんて美術館好きにとってはなんと好運なことか。

さて、その展示スペースだけど、JR上野駅のコンコースにある。

中央改札口の前のグランドコンコースでは、季節によってはクリスマスツリーなどの巨大展示があったり、物産展なんかの催しがされていることが多い。

先日ランチを兼ねて様子を見に行ったら、ちょうど今は上野駅開業140周年記念のイベントの開催中だった(140年って結構スゴイな)。

グランドコンコースで開催中の開業140周年記念イベント。鉄道グッズ販売コーナーがある。

そのコンコースから正面玄関口のほう、ハードロックカフェのとなりにも展示スペースがあって、ここを含めたコンコース一帯はガレリアと呼ばれている。

有孔パネルが立てられて古い写真が展示されている。荒川好夫という写真家の作品がならんでいる。これもコンコースでやっている開業140年記念イベントの一部らしい。

上野駅を振り返る写真展。

手づくり感のある有孔パネルの展示も良いな。ちょっと懐かしさがある。

白の有孔パネルはモノクロ作品がよく映える。パネル同士の物理的なレイアウトまで含めてひとつの作品かのような統一感。

荒川好夫という写真家は知らなかったのだけど、人の一瞬の動きをとらえた写真が良かった。

左上のなんてアンリ・カルティエ・ブレッソンみたいだ。

しかしガレリアはこれで終わりではない。上階にもあるのだ。むしろ今回紹介したいのはそちら。

すぐ横のエスカレーターで2階に上がると吹き抜けの両側にレストランが並んでいる。その吹き抜けを挟んだ反対側が、わたしがおすすめしたい知られざる展示スペース。

下からだとその存在すら確認できない。フェンスの向こう側の通路部分が展示スペース。

わたしも滅多に行かないのだけど、それは目的がないとわざわざ足を運びそうにない立地だからだ。

地下道はまだ通り道だから、通りすがりに観ることができる。しかしガレリアの2階は上の写真のように下から見あげても存在がわからない。上階にあがるのはレストランに行く人たちだけ。しかも両翼に広がるレストラン街にはそれぞれ別のところからもアクセスできる。展示スペースになっているのは回廊部分なのだけど、エスカレーターは吹き抜けを挟んだ向かい側だから、レストランに行く人びとは対岸にある展示には気づきもしないようだ。

今回の見出し画像につかったのは、エスカレーターからレストラン街への入口を横目に進んだところで撮影した写真。このとおり無人。平日昼間の東京都内、しかもハブ駅なのに無人。

平日昼間の東京都内のハブ駅なのに、まったく人影がない。

ここには比較的大きめの展示スペースが等間隔に並んでいる。等間隔なのは、柱と柱のあいだのくぼみを活用した空間だから。奥行きはそれほど大きくはないのだけど、電源が整備されているのでモニターを置いたインスタレーションなどの展示に向いている。

わたしが行ったときに展示されていたのは東京藝術大学のプロジェクトのものだった。「大学の世界展開力強化事業学生作品展」、9月21日まで。

右はプロジェクトのポスター。左は《風はどこからくるのか》と題された作品。

このプロジェクトは英豪印の大学との協働プログラムということで、7名の参加学生の作品が展示されている。それぞれの作品が独立して、それぞれの主題への問いを表現している。わたしの眼には問題提起を目的としたコンセプトアートのように映った。

ポスターの反対側の端には挨拶文を兼ねた紹介文。

この展覧会の会期は約3ヶ月ある。おそらく展覧会によってはもっと会期の短いものもあるだろう。忘れたころにふらりと訪ねると、意外な作品に出会えるかもしれない。一期一会だ。

アクセスは駅の中央改札からすぐ近くという好条件。しかもほとんど他の人がいないので、作品に一対一で向き合える。上野での美術館めぐりの気分転換、あるいはレストランでの食事のついでなんかに気楽に立ち寄ることができる。

仮にお目当ての美術館が臨時休館だったとか、混雑しすぎていて断念したなんて残念な展開になった日でも、ここで忘れられない展示にであえるかもしれない。そんなささやかなセレンディピティ(※)・ポイントとして機能してくれそうな場所だと思う。


※セレンディピティについて、もしよければこちらもドウゾ。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?