見出し画像

ターコイズブルーにこんがらがって

あれよあれよという間に年の瀬になった。5月以降つづけている誕生石シリーズも今月で8つめ。12月の誕生石はターコイズ(トルコ石)だ。

意識はしていなかったのだけど、わたしが最もおおく所有している宝石かもしれない。というのは、見出し画像にあるようにターコイズをあしらった腕時計を3本も持っているから。

これらの腕時計はいつもどおり一日一画の題材にしたのだけど、メーカーのEINBANDさんにもシェアしていただけた。自動巻のほうは「カッコ良すぎる♪」とも。

◆◇◆

ほかの誕生石と違って、ターコイズは不透明な宝石だ。カボションや彫刻にされるのが一般的。インディアンジュエリーにも多用される、いわゆるオーナメント・ストーン。先史時代からの使用が確認されていて、おそらく最も古くから宝飾品に使われてきた石だ。おそらく人類最古の宝石だろう。

ターコイズは、既存の鉱物が風化し、酸性の溶液に浸ることで形成される二次鉱物。材料となる銅、鉄、アルミ、リンなどは、その既存の鉱物からもたらされる。岩石の割れ目に分布することがおおく、ほかの鉱物と混じりあっていたり不純物もおおい。多孔質でもろいので樹脂などを浸透させて安定化させる含浸処理も一般的だ。

古くはイランで採れるものが高品質なものとしてよく知られていた。品質が落ちるものとしては、エジプトのシナイ半島など。トルコを経由してヨーロッパに入ったのでターコイズと呼ばれるだけで、トルコで採れるわけではないという話は有名だ。

独特のグリーンがかったブルーは銅による着色。鉄の割合が増すともっと緑色になる。中国やチベットではグリーンのものが珍重されたと聞く。

DKの大判本『JEWEL』より

インディアンジュエリーから想像がつくように、米国南西部〜メキシコ北部でも採れる。ナバホ・インディアンの伝統的な装飾が有名だ。蜘蛛の巣のような模様の入ったものがおおく、それも人気。わたしの腕時計のターコイズにも蜘蛛の巣模様が入っている。

ターコイズのジュエリーでは、”蜘蛛の巣”のない真っ青なものがダイヤモンドと組み合わさると、とても洗練された印象になる。装飾的になりすぎず、わたしは結構好きだ。

ブルガリのターコイズとダイヤモンドのジュエリー。
『BVLGARI The story, The Dream』 (C.オッタヴィアーノ編、2019年、Rizzoli刊)より。

わたしは昨年の池袋ショーのレポートでも書いたように、”蜘蛛の巣”のない米国産のターコイズを購入した。

まずは、米国アリゾナ州産のターコイズ(トルコ石)。すでに閉山したスリーピング・ビューティー鉱山の高品質なもの。

昨年12月の拙note「池袋のミネラルショーに行ってきた。」より

ターコイズの処理を看破するのには、若干の破壊検査と高度な分析装置が必要だ。いくらわたしが専門家とはいえ、手持ちの道具だけでの鑑別には限界がある。見出し画像のとおり、鑑別レポートをとってみた。一般的な含浸処理がされているだけで天然の着色ということがわかった。

1年前のnoteに書いたとおり、このターコイズのカボションは米国アリゾナ州のスリーピング・ビューティ鉱山のものとか。

もう閉山してしまったけど、米国では伝説のターコイズ産地だ。スリーピング・ビューティは、あのディズニーアニメの「眠れる森の美女」。もともとヨーロッパに伝わる民話とのことだけど、シャルル・ペローが童話集にいれ、グリム童話では『いばら姫』で知られる。

手塚ファンとしてはもちろん持っている『いばら姫』

どうしてこの名がついているのかについては、ネットで画像検索をすればよくわかる。なるほど山の稜線がいばら姫の横顔に見えるようだ。素晴らしいネーミングセンス!

Google検索結果のスクリーンショット

毎度おなじみの中世アラブのティーファーシーは、もちろんターコイズについても書いている。13世紀の地中海世界ではアメリカ大陸は知られていなかったから、当時の産地としてはイラン(ペルシャ)とエジプトのシナイ半島だった。

ところがティーファーシーはシナイ半島のターコイズには触れていない。もっぱらペルシャのみ。その品質で2種類に分類している。

同時代の追随者イブン・マンズールはもう少しこまかく7種類に分類し、エジプトのものにも触れているというから、ティーファーシーはあえて品質の劣るシナイ半島産ターコイズは取り上げなかったのだろう。

また、薬として、サソリ毒を解毒できるとか、眼病に効くとも書いている。

ターコイズとおなじく銅をふくむ二次鉱物にマラカイト(孔雀石)があるけれど、マラカイトの粉末はクレオパトラのアイシャドウで有名だ。ターコイズが眼病に効くという話と関係がありそうな気がする。ちなみに、マラカイトの産地はシナイ半島。ここのターコイズの銅はマラカイトに由来する。

注目すべきは、この時すでにターコイズのブルーが銅による色だと見抜いているところ。西洋でこのことがわかったのはずっとあとのことだ。ティーファーシーが銅を関連づけたのは、イランの産地が銅鉱山に近かったからだろうか。この地域が文明初期の銅器・青銅器の技術におおきく影響したのは、「美しいイラン」展のときに触れたとおり。

ティーファーシーは、ターコイズの生成メカニズムを、銅をふくむ蒸気が浸透するとしている。この仮説は現在知られている事実とは違うけれど、二次鉱物に通じる発想だ。こんなところからも、アラブ世界がサイエンスの最先端だったことがうかがえる。

ターコイズについて書いていて気がついた。腕時計だけでなく、じつはわたしの身近にはターコイズ色のものが多い。

そういえば10年以上も前だけど、カラーセラピーを趣味にしていた同僚からターコイズブルーを提案されたことがある。たしかパープルとセットで勧められたような記憶がある。

当時わたしは赤系統の服を好んで着ていた。カラーセラピーを意識したわけではないのだけど、最近はパープルがおおくなった。それにあわせてかターコイズブルーも増えてきたような気がする。

その後の2011〜2013年に住んだモンゴルではスカイブルーが神聖な色だった。式典などでもなにかとスカイブルーの布が使われる。モンゴルの人びとはチベット仏教に由来する色だと言っていた。おそらくユーラシア大陸の遊牧民に共通する色じゃないかとわたしは思っている。

中央アジアのテュルク系(トルコ系)民族の国ぐにや地域の旗にもスカイブルーが使われているから。スカイブルーは、ターコイズブルーに通じる。

そういえば、いまの仕事で何かと縁のあるパライバトルマリンも同系色。このネオンブルーも銅に由来する。

わたしの勤務先の米国本部で展示されているパライバトルマリンの標本

ちなみに、わたしが今年の2月にパライバトルマリンについてウェビナーをやったときのタイトルは、”Tangled up in Neon Blue(ネオンブルーにこんがらがって)”。ボブ・ディランの名曲をもじったタイトルだ。

YouTubeのGIA Official Channelより

身のまわりのターコイズブルーたちを考えると、いまのわたしは「ターコイズブルーにこんがらがって」といったところか。

さいごに、最近のわたしのまわりのターコイズブルーたちを一日一画からピックアップしておく。

沖縄でつくった吹きガラスのグラス。わたしが選んだ色は偶然にもターコイズブルーだった。

スケッチには色をつけていないけど、いま使っているスマホケースもじつはターコイズブルー。

トルコのルームライトも。

スリッパも。

最近やってきた子猫の”あずき”。彼の瞳もターコイズ。成長するにつれて薄くはなってきたけど。

そして・・・来年の手帳も、ターコイズだった。どうやら来年以降もしばらくわたしはターコイズブルーにこんがらがっていそうな気配だ。


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