JUDY AND MARYの名曲「散歩道」がメンバー愛に溢れた名曲なので私見を書き連ねる

表題のとおりです。

JUDY AND MARYというバンドはもう語るべくもないほどの、一大ムーヴメントとなったバンドですよね。活動していた当時からほんの10年くらい前まで、女性ヴォーカルの学生バンドは必ずジュディマリか東京事変か椎名林檎をコピーしていたものです。「散歩道」はそんなジュディマリが、日本の音楽市場が最も大きかった1998年にリリースしたシングルです。

最近、ジュディマリのメンバーのYouTubeをちらちらと視聴していたところ、こんな動画がおすすめに上がってきました。

メタル大好きダイノジのYouTubeに、これまたジャパメタ、ハードロックバンドで活躍してこられたジュディマリのドラマー、五十嵐公太さんがゲストで出演された動画です。
五十嵐さんが、ジュディマリのクリエイティブでビジネスライクで、過酷な活動を客観的に振り返るお話はとてもドラマーって感じで、思わず全編聞いてしまいました。

その中でダイノジのお二人が「これからジュディマリを聴く人におすすめする3曲は何ですか?」という質問をされ、その3曲目に挙げられたのが「散歩道」です。

これはドラマー五十嵐さん作曲の楽曲で、ジュディマリのシングルでも唯一の五十嵐さん作曲によるものです。「そばかす」「Over Drive」「Hello! Orange Sunshine」などと並んでジュディマリでも代表曲の部類に入るでしょう。

で、ちょうどこの動画で、五十嵐さん自身ががこの曲を作った時のエピソードを語っており、それがこの曲の良さを再認識させてくれたので、ちょっと語ってみたくなった次第です。

どんなことを話していたのかというと、ジュディマリのフロントマン、YUKIさんの作詞における天才性を語っていました。

ちょうどこの曲を作った当時の五十嵐さんは娘さんが生まれて人生観の大きく変わった時期であり、そのような時に感じた思いが曲に込められていたそうです。作曲ってそういうものですよね。知らんけど。

そのような事をYUKIさんには一言も話していないのにも関わらず、その曲に込められた想いに沿った素晴らしい歌詞が出来上がったところを目の当たりにして、「すごいなぁ〜」と思ったそうです。

そんな目線で、何十年ぶりに歌詞を読み返してみると、あ、これまさにライフステージ変わる時の歌だ、って思ったんです。

1番Aメロ

そんなふうに求めてばっかりじゃ
タマシイも枯れちゃうわ
難しい言葉ばっかりじゃ
あの娘とも仲良くなれないの

この出だしが出色だなーと思いました。
人は親になったり、親とならずとも人生を重ねていくにつれて、自らの幸せを求めるよりも、後進の成長、コミュニティへの貢献、他者への献身、に幸せを感じていくようになる、という傾向にあるそうです。
自己顕示欲や承認欲ばかりでは、いつか自分の心は満たされなくなり、いずれ幸せとはどんなものなのか見失ってしまうんじゃない?と言われているかのようです。「タマシイが枯れる」ってほんと的確な表現。
小難しい理屈や知識を並べ立てているようでは、あの娘、つまり生まれた自分の娘と仲良くなるなんてできないよね。というフレーズ。

向かい風にぶつかってドッカーンって泣いて
朝になって全部忘れた “あぁ”
フワフワ浮いてる あの雲に乗れるくらい頭やわらかくしよう

歳を重ねてこの歌詞を読むと、子育ての苦労を歌っているような気がしてきますね。
毎日子供に振り回されて怒涛のように過ぎ去り、子供は実際にドッカーンと泣くし、親もしばしば泣きたいような気持ちになります。自分がやりたいことなんて何一つできない向かい風ばかりの毎日。
そんな日々、心からポジティブになるためには子供の可笑しくて愛らしい成長を受け止めるあたまやわらかな心持ちであろう!ということを歌っています。

1番と2番のBメロはセットで

春の散歩道には黄色い花かんむりが
夏の散歩道にはセミの行進が道をふさぐの

秋の散歩道では 濡れたベンチを横目に
冬の散歩道では 氷の月が水に映るの

ここのパートはどちらも、子供が見ている景色、そして子供の目を通して世界の楽しさを再確認することができた大人の見た景色を描いているのだと思います。
子供と一緒に日常を過ごしていると、子供たちが世界に驚き、感動するのを目の当たりにして、僕たち大人もそれまで見過ごしてきたなにげない日常に、こんなにも美しい風景があったという事を再認識させられるんですよね。それがすでに大人が忘れてしまったもの、というやつ。となりのトトロ的なアレです。

何よりも 大切なこと 手をつなごう
やわらかい風が吹く
少しだけ 優しくなって
夕暮れにも早く気づく

そんなふうに世界の美しさをまた知ることになった僕たちのことを「優しくなった」と表されるのがとってもいいです。確かにそうかもね。春になって虫が出始めてきたり、セミがうるさいな、仕事にかまけて、休みの日も家事に追われて寝て過ごしていたら、気づいたら夜だわ。としか思っていなかった世界。子供達がそんな世界を楽しんでいるんですから。

2番Aメロ

幸せの形はかわってく 気づかずにのんびりと
あなたが思うよりもずっと 私の空は広がってるんだわ

そんな僕たち大人の変化は、ゆっくりであるなということが語られています。

大きな男女差はあれど、今まで仕事や趣味に明け暮れていた青年期の男女が、自身のゆっくりとした変化に気づいて、自分がいつしか親になっていたことを自覚するのを「私の空は広がってるんだわ」と歌うのってすごくないですか?
わたしに、僕に、そんな一面があったんだ。誰かから言われて気づいたものでもなく、教えられたものでもなく、初めから自分の中にあったものなんだ、という感覚。素晴らしすぎます。

2番サビと最後のサビ

このような調子で、ライフステージの変化を子どもができたことに焦点を当てて語っているのが全編にわたって感じられますね。

最後のサビでこんなふうに歌っています。

つくられた地図はいらない 私達の道は続く

  

僕が個人的に歳を重ねて最も楽になったと思うことが、「誰に何と言われようと自分の人生を歩もう」と思えるようになったことです。
そう思えるのは、歳を重ねて最も大事なものが何だかわかったからだと思います。

愛しい子どもの成長のために、守るべき人、守るものがある自分の人生のために、誰かのお仕着せの地図なんて不要なんだと感じるわけです。
自分の内側にあった広大な美しい空を眺めながら、大切な人と手を取り合い、散歩するように続く道を歩いていこうという。可愛らしいメロディと軽快なナンバーに込められた不惑の思いと決意の込められた歌だなと思いました。

「よかったね!大変だろうけど。でも人生がもっと楽しいものになるんだよ!おめでとう!!」という、Yukiさんらしい最高の祝福に溢れた歌でした。


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