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地方債のルール ~京都市の借金が減らない理由~

はじめに

京都市の財政破綻の危機が取り沙汰されて以来、「地方債は無限に発行できるという趣旨の誤解」をよく目にします。これは地方債のルールを知らないための間違いです。

また、同じような課題を抱えているはずの、京都市以外の政令指定都市が漏れなく財務状況が改善しているのに、京都市が改善できない現状を分析した結果、地方債のルールに辿り着きました。

今回は、地方債のルールについて、皆さんにも知って頂きたいと思います。


地方債はいくらでも発行できるわけではない

国が発行している国債のイメージがあるためか、地方債も上限なく発行できると勘違いしている人が多いのですが、地方債の発行は地方財政法で定められたルールの中でしか発行することができません。

大阪府作成資料抜粋

原則は、公共施設の建設事業費の財源とする場合と、地方財政法の第5条に定められています。つまり、地方建設債ということになります。(正確には、建設費以外に、公営企業に関する経費や災害復旧に関する経費等も対象となっています)

国も原則は建設国債しか発行できないのですが、1975年以降、特例法を毎年つくって赤字国債を発行し続けることができていますが、地方債には適用されません。

地方自治体は、赤字地方債の発行が原則できないのですが、例外的に地方財政法第33条に規定されているものだけが認められています。具体的には、地方税法の変更などにより減税をすることになった場合の補填が認めれています。過去には、団塊の世代が大量に定年退職を迎えた平成18年から平成28年までの10年間限定で発行できた退職手当債というものもありました。

従って、地方建設債は当然、工事代金の一部しか発行できませんし、赤字地方債は極めて限定的にしか発行ができません。つまり、福祉関係経費や職員人件費、借金返済のための公債費などでお金が足りないからと言って、地方債で補うということは制度上できない建付けなのです。

後述しますが、京都市はその中でも、あの手この手で出来る限りの地方債を発行していますが、それにもやはり限界があるのです。

※なお、地方財政法第5条の「地方債の借換のために要する経費」とありますが、これは元々の償還上限の30年の範囲内での借換しか認められていませんので、返済原資がないから借換をするというようなことはできません。

※国が返済の責任を持つ臨時財政対策債は赤字地方債ですが、これは、国が地方交付税の代わりに起債しているものなので、今回は省略しています。


地方債発行の基本 起債充当率と交付税措置率

自治体の財政当局が地方債を発行する際に、最も気にしているものが「起債充当率」と「交付税措置率」です。

「起債充当率」というのは、住宅ローンで言うところの「頭金」と「ローン」の割合です。ほとんどの自治体は、目の前の現金が不足していますので、できるだけ「起債充当率」の高い地方債を発行し、「頭金」の金額を少なくするようにしています。

「交付税措置率」というのは、「ローン」の返済の時に、国がどの程度払ってくれるかという割合です。住宅ローンの返済でいうと、毎月の親の支援というイメージでしょうか。当然、地方自治体としては、「交付税措置率」の高い地方債を発行し、「国の支援」が最も多くなるようにします。

例えば、災害復旧事業であれば、「起債充当率」が100%で、「交付税措置率」が95%と言った感じで、頭金無しのフルローンで、返済も国がほとんどしてくれるということになります。

一般的な公共工事ですと「起債充当率」が80~90%程度で、「交付税措置率」が30%程度が標準です。

災害復旧のように緊急性・重要性が高いものや、過疎対策のように国が政策課題として設定しているものに関連する地方債は「起債充当率」も「交付税措置率」も高い傾向にあります。


京都市の借金がなかなか減らない理由

京都市は財政破綻の危機が取り沙汰されているわけですが、指標にも表れていて、将来負担比率という借金の多さを示す指標が政令市で1番高い(悪い)数字となっています。

しかし、着目していただきたいのは、他都市は順調に数字が改善されていっているのに、京都市だけ高止まりしているという点です。

京都市行財政局作成資料


これには、明確な理由があります。それは、京都市は資金繰りの厳しさから、ほとんどの他都市が手を出していない、特例の赤字地方債や「交付税措置」が全くない地方債に手を出しているからなのです。あの手この手で地方債を発行しているというのはこの部分です。

京都市行財政局作成資料

つまり、例えば数字上の見た目は同じ100億円の借金だとしても、他都市はそのうちの30%場合によっては50%国が返してくれるけど、京都市は全額自分で返さないといけないという状況なのです。

京都市は、数年内での資金繰りショートによる財政破綻という緊急事態は回避できそうですが、今もこの特例的な地方債を、制度上許される範囲で満額発行し続けています。このままでは、延命した財政破綻が10年後・20年後に訪れることになります。真の意味での財政再建の道のりはまだまだ厳しいと私が指摘するのはここにあります。


まとめ

  • 地方債は原則、建設地方債であり、赤字地方債の発行は特例的なものだけ。福祉関連経費、職員人件費のためには発行できない。そのため、地方債をいくらでも発行できるは誤り。

  • 借金返済の時に、国が負担してくれる割合「交付税措置率」は極めて重要な指標。

  • 政令市の他都市の財務状況が改善しているのに京都市だけ改善していないのは、「交付税措置率」がゼロの特例的な市債に頼りすぎたため


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