アリとキリギリス

「夏に散々バイオリンを弾いていたんだから
冬になったら踊っていればいいじゃないか」

アリはそう言って家の扉を閉めました

キリギリスは
アリの家の扉を
しばらく見つめていました

北風が
キリギリスの背中の後ろを
通り過ぎていきます

キリギリスは
高い空を見上げます

そこにはもう
あの入道雲の姿はありません

キリギリスは
その場に崩れ落ちました

キリギリスの目には
もう空は
見ることができませんでした

すると
アリの家の扉が開いて
アリが五、六匹出てきました

「冬の食糧が
向こうからやってくるなんて
ありがたいね」


「まったくだ
これで何匹分の命が生きながらえるか」

「今年で
何匹目かね」

そう言いながら
アリはキリギリスの死体を
家の中に運び入れました



一匹のキリギリスが
寒い北風の中歩いています

楽しい夏は過ぎ
冬の入り口が
もうすぐそこまで迫っています

食べる物はもう
どこにもありません

キリギリスは
アリの家の前まで来ました

扉を
トントンと叩いて
こう言いました

「アリさんすみませんキリギリスです
どうか食糧をわけてください」

アリが扉を開けて
出てきました

「おやキリギリスさん
どうしました?」

キリギリスは
冬になって
食糧がなくなってしまったことを説明し
夏に散々
アリのことを馬鹿にしたことを
詫びました

アリは
キリギリスの話を
じっと聞いていました
そして
その話が終わると
こう言いました

「夏に散々バイオリンを弾いていたんだから
冬になったら踊っていればいいじゃないか」

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