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春の勝利

ここ1週間ほど、朝4時半に起床して夜11時前には就寝という生活をしている。直近3年半は完全に夜行性になっていたので、私はこの早寝早起き生活を今とても新鮮な気持ちとともに送っている。

起床後はnoteの執筆、朝ごはん、ランニングののちに新聞を読む。なんだかんだでnoteに時間を取られるので、新聞を一通り読み終わる頃には8時、9時になっている。そこからぼちぼち仕事に取り掛かり、なるべく早めに仕事を切り上げ、寝るまでの時間は料理をしたり勉強をしたり、とのんびり過ごしている。

2月は比較的忙しくないこともあり、今のところ特に問題なくこのペースでの生活を送れている。忙しくなってもこの早寝早起き生活を継続したいところだが、果たしてうまく行くのだろうか。


まだこの生活を始めて日は浅いが、早起きはいいものだと感じている。朝にしか出会えないものが、この世にはたくさんあるのだ。


それは水曜日の朝のこと。

7時ごろにランニングに出た。2日前に降った雪はすでに道路の脇に追いやられて、心配されていた路面の凍結はほとんどなかった。よく晴れた気持ちのいい朝で、散歩中の犬たちも飼い主と共に楽しそうな白い息を吐いていた。

路地裏を抜けて代々木公園に向かう途中、張り詰めた冬の空気の中で椿の香りが鼻をくすぐる。それはほんの刹那の出来事で、見つけたと思った矢先に煙のように消えてしまう。その姿をまた見たいという願いは、ついに叶うことはない。

同様に、代々木公園に入った瞬間、獣の匂いがする。これも香ったと同時に立ち消えるのだが、あれは近くにあるドッグランからくるのか、あるいはもう少し離れたポニー公園からはるばる漂ってくるのだろうか。


階段を登ってサイクリングコースを横切る。いつもの周回コースに入るとき、私の目にその光景が飛び込んできた。

数日前に降った雪が残る、朝霧立ち込める広場に、鋭角の光が燦々と突き刺さる。上に逃げるものと下に急ぐものが交錯するその中で、歪な形の大小様々な雪だるまが、枝でできた細い腕を上に向けて、天を仰ぐような姿勢でその光を受け止めている。私の側からは雪だるまの顔は見えないが、きっと歓喜に満ち溢れていることだろう。それによって溶けてなくなってしまうことを知っているにも関わらず。

吸い込まれるように私もその広場へと向かう。ひとところに固まった5組ほどの犬とその飼い主の黒いシルエットが見える。広場の中央に聳える大きな木はその足元が霞んで見えないために宙に浮いているようだ。

そこは何か特別なもので満ち溢れている。

広場を囲んでいる木々の間を抜けた時、その「特別なもの」はすでになくなっていた。そこにはただの綺麗な景色があるだけだった。


ランニングをしながら、あの「特別なもの」はいったい何だったのか考えてみた。きっと絶妙な入射角からの光が朝霧の水滴と共に織りなすものだったのだろう。虹が太陽光に対して42度の方向にできるように、その瞬間の光の角度が作る何らかの特別な瞬間だったのかもしれない。

もしそこに“暗示的な意味”を見出すのであれば、あれはきっと「春の勝利」のようなものだと思った。この時期、冬と春はせめぎ合っていて、ギリギリの鍔迫り合いをする。冬は最後の悪あがきに、と雪を降らせるが、春はその光でそれを跳ね除ける。そして冬に「トドメ」を刺すのだ。

ボッティチェリの『プリマヴェーラ』の中で、ゼフュロスに捕まったクロリスの口から思いがけず溢れ出る花を思い出した。あの瞬間がなければ、もしかしたらこの世界は冬に支配され続けてしまうのかもしれない。


翌日、また同じ場所に同じ時刻に赴いた。曇天の下、そこは普通の広場に戻っていた。雪だるまたちはまるで消えゆく焚き火のように小さく燻っていた。私はそこに冬の姿を見た。

不思議なことに、中央に大きく聳えていたように感じられた1本の木はさして大きくも太くもなく、さらに1本ですらなかった。なんの変哲もない木が数本、不規則にはえているだけだった。


どうやら、春は勝利したようだ。今年もまた、春がもうすぐ訪れるだろう。


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