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クリエーションフィーに関する真面目な話

ニッチフレグランスマーケットが大きくなるにつれて、独立した調香師がだんだんと力を持つようになってきた。香料メーカーに所属する調香師に調香依頼をすると、香料発注時のミニマムロットが大きくなってしまうのに対し、独立した調香師に依頼すれば、小ロットで注文することができるという大きなメリットがあるのだ。

ロットが小さい代わりに、大手の香料メーカーでは払う必要のないクリエーションフィーを求められるのが一般的だ。香料販売時のマージンだけではクリエーションにかかる労力を回収できないこと、プロジェクトが成就しなかった場合にタダ働きになってしまうのを避けることあたりがその理由である。

ただ、昨今のニッチフレグランスブランドは、どうやらクリエーションフィーを取らない調香師と働くことが増えてきているらしい。そして調香師の側も、クリエーションフィーなしでのクリエーションを受け入れるところがちらほらと出てきているようだ。


クリエーションフィーを払わずに香りが制作されるケースは主に2つある。1つは大量の発注が見込めるケース。もう1つはクリエーションに労力を払わなくていいケースだ。

前者に関しては特に難しいことはないだろう。元々の香水ビジネスは、大手ブランドが一度に大量に発注するのが基本だった。ひとつの案件を獲得できたら香料メーカーに大きな利益がもたらされる可能性があるので、調香師の側がコンペティションにさらされることになる。案件が獲得できればクリエーションフィーでセコセコ稼ぐ必要などそもそもないのだ。

問題は後者である。先述の通り、ニッチフレグランスの台頭により、この手の案件がどうやら少しずつだが増えているようだ。このように見るとニッチブランド側にとってはメリットしかないように感じられるかもしれないが、大きく売れる見込みもなく、かつクリエーションフィーを払わない場合、何が起こるだろうか。

答えはとてもシンプルで、クリエーションがおざなりになる。具体的には調香師と共同で香りを作るという作業はなくなり、予め調香師の側で用意のある香りから選ぶだけになる。あるいは1、2回の修正はしてくれるかもしれないが、それ以上ではないだろう。調香師の側も、価値のある香りを作るという気概はなく、適度に売れそうな香りを提供し、あとはブランドのマーケティングやブランディングの力で売れたら御の字、程度の考えになってしまう。

昨今のニッチブランドの新作が、どれもこれも似通ってしまっている背景はここにあるように思料する。気軽にフレグランスブランドが立ち上げられるようになったことで、香水に対する愛も解像度も低い人がこのマーケットに参入してくるようになった。調香師にどのようにリクエストを出せばいいかもわからないから、結局調香師の言いなりになってしまう。それならいっそのことクリエーションフィーなんて払わずに、向こうが差し出すものにそのままブランドのラベルを貼って販売しよう…というのが、残念ながら今の新興のニッチブランドの現状なのだ。


もちろん、高いクリエーションフィーを払えばいい、ということではない。力のある調香師がそれに見合った報酬を、クリエーションフィーなのか香料の販売なのかで得ることができ、さらにブランド側もその力量を理解した上で協業していく、というのが本来のあるべき姿であろう。そのバランスが今のようにどこかで崩れると、マーケットは悪化の一途を辿っていくことになるのでは、というのが私の大きな懸念である。


来週はミラノで行われるニッチフレグランスの展示会に視察に行く。マーケットのトレンドを把握するためだが、毎年この展示会は面白くなくなっている印象を受けている。その背景は色々あるだろうが、私が上に書いたこともその要因のひとつであるのではないかと思う。

さて、今年の展示会はどうなっているだろうか。楽しみなような、怖いような、そんな複雑な気持ちである。


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