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運命に抗うリプトンの青い紙パック

カラオケが嫌いなのは今に始まったことではない。

人前で歌うのは嫌いだし、人の歌を聴くのはもっと嫌い。その上閉所恐怖症とくれば、カラオケ嫌いも理解されるだろう。

大学院時代、同期飲みの二次会は必ずといっていいほどカラオケだった。カラオケ嫌いの私は、毎度一次会の後に「それじゃ」といって帰宅していた。私のカラオケ嫌いは周知のことだったし、私にしたってカラオケ好きのみんなに水をさすつもりはなかった。お互いに無駄な気の使い合いが必要なかったところも、私たちが仲良しでいられるひとつの大きな理由だと思う。


今宵はそんな大学院の同級生の集まりがあった。半年に一回ほど開催される会なのだが、卒業から12年が経った今でもその出席率は8割ほどもある。しこたま飲みながら、思い出話に止まらず、今の仕事の状況やプライベートでの悩みなんかまでを、“あの日”のように熱く語る、そんな会である。

今日の会は思いがけない人が来ていた。在学中にアクシデントがあり、身体に障害が残ってしまった同期(以下「K」)が初めて会に参加してくれたのだ。今まではうまく連絡が伝達されていなかったらしく、会の存在も知らなかったようだ。

盛り上がった一次会の後、近くのカラオケに移動するタイミングで、私は皆に別れを告げた。皆私のカラオケ嫌いを忘れてはおらず、すんなりと受け入れてくれた。

その時、Kも帰ると言い出した。私たちふたりは、カラオケに入っていく同級生たちを手を振って見送ってから駅へと向かった。

学生時代はそれなりに仲が良かったKとは、そのアクシデント以来会っていなかった。12年ぶりの再会で、最初は何を話していいかよくわからなかったが、Kの明るさが健在だったこともあり、すぐに学生の頃のトーンを取り戻すことができた。

Kは新橋から山手線に乗るとのことだった。私は日比谷まで歩いて千代田線に乗ろうかと思っていたが、少し遠回りにはなるもののせっかくだからKと一緒に山手線に乗ることにした。

新橋から新宿までの山手線の中、私たちは12年の空白を少しずつ埋める作業に取り掛かった。お互いの状況はSNSを通してなんとなく把握していたが、改めてきちんと話してみるとKに関して知らなかったことがいくつもあった。きっとそれはKにしたって同じだった。

ふたりとも新宿駅で降りた。Kは中央線に、私は小田急線に、それぞれ乗り換えることになっていた。私たちは握手をして別れた。素敵な時間だった。


小田急線の車内で発車を待っていた時、ふとKとの過去の出来事を思い出した。

大学院2年生になりたての頃だったと記憶している。夕方くらいにひとり大学の自習室にいたら、そこにKが入ってきた。

「なべちゃん、今夜暇?」

Kが私に尋ねた。特に予定はない、と答えると、

「それじゃ車でお台場の大江戸温泉に行こう。女の子連れてくるよ」

といった。

突然の提案に面食らいながらも(私はその手の“学生っぽい遊び”に疎かった)了承すると、Kはカーシェアリングサービスで車を手配して、友人の女の子に大江戸温泉に行くから友達をひとり連れてくるように連絡した。

車をピックアップして、途中女の子ふたりを拾い、私たち4人はお台場の大江戸温泉に向かった。男女別れてお風呂に入り、その後食堂で合流してダラダラとご飯を食べならがら過ごした。

帰りはまず女の子ふたりを送り届けてから、私を帰りやすい電車の駅で降ろしてくれた。

別れ際に、

「楽しかったね、またこんなのやろうよ」

とKは笑顔で口にした。


Kにアクシデントがあったのは、その数日後のことだった。


大江戸温泉に一緒に行った女の子のことは全く覚えていない。思い出されるのは、Kと露天風呂のへりに腰掛けて、どんな社会人生活が待っているかについて話したことだけだ。Kも私もその時点では、それぞれ外資系企業の内定を持っていた。私はその内定先に入社したが、Kはそのアクシデントのせいでそもそも大学院の卒業が遅れ、障害が残ったこともあり最終的に違う会社に就職した。


私たちふたりは、あの大江戸温泉の夜に語り合った“淡い社会人生活”からはかけ離れた人生を歩むことになった。ひとりになった今宵の帰り道、私はそのことに思いを馳せていた。それは「良し悪し」で判断されるようなものではなく、「運命」という得体の知れないものが私たちを翻弄することで描いた軌跡でしかない。それ以上でも、それ以下でもないのだ。


帰り際に近くのコンビニに寄った。マウントレーニアのカフェラテが飲みたかったのだが、今日に限って売り切れていた。

ふと横に目をやると、リプトンの500mlのミルクティーがあった。学生時代によく飲んでいたその青い紙パックがふと懐かしくなった。

私は運命に抗いたい気持ちに駆られ、それをひとつ手に取り、セルフレジへと向かった。


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