「生きとし生けるもの」が好きである、ということに気づくきっかけがあった。

家から羽田空港に向かう際、私は普段山手線で浜松町まで向かいモノレールに乗るようにしている。そうすると家から空港まで大体1時間ちょっと。2度乗り換える必要があるので荷物が多い時はなかなか大変だが、タクシーに比べると格段に安いし何よりもモノレールの車窓からの風景が好きだ。

それが実は新宿のバスターミナル、通称「バスタ新宿」から空港までのリムジンバスに乗るというルートがあることを知る。新宿までは家から小田急線で一本、バスタ新宿から空港まで25分。リムジンバスは席に限りがあり念の為予約をしておいた方がよさそうなのでそれが手間であるのと、電車に比べれば若干高いというデメリットがありながらも、時間は短縮できるし乗り換えも楽になる。今回徳島に行く際に一度このルートを試してみようと思った。

時間に余裕を持ってバスタ新宿に到着した。私が予約したバスまであと25分。予約したものより前に発車するバスに乗れない不便さは否めないが、せっかくなのでほぼはじめて来るバスタ新宿をうろうろしてみる。

バスタ新宿が開業したのは2016年4月のこと。その頃私はパリで語学学校に通っていた。

6年間のフランス生活中に日本で流行ったものや起こった出来事についての印象は当然のようにすこぶる低くなる。新元号になったことや日本で開催されたラグビーワールドカップの盛り上がり、みちょぱのブレイクなんかがそれに該当する。いまだに「みちょぱ」と「ゆきぽよ」の区別がつかないのはきっとそのためだ。

そんなわけで、その期間中に開業したバスタ新宿も、御多分に洩れず“あまりよくわからないもの”のひとつに成り下がっていた。きっとそれが今までリムジンバスで空港に行くという発想が出てこなかった大きな理由だろう。

バスタ新宿の中をフラフラと歩いているとふと、バスタ新宿の模型を見つけた。バスタ新宿の建物の中にはバスのミニカーが置かれていて、前の甲州街道にはバスと車、そして歩道を歩く人々までがミニチュアで表現されていた。さらに、地下を走る電車の模型まで配置された、なかなかの“力作”だった。

私はこの模型に、幼き日の羨望を見た。友人の家にあり、私の家にはなかった、電車の模型「プラレール」のことを、ふと思い出したのだ。

そんな話を友人の女の子にした際、

「やっぱり男の子は、小さい時は車か電車か恐竜のどれかが好きなものなの？」

と尋ねられた。

私は、全部好きだった。今となってはほとんど興味のない車は、中古車のカタログを飽きることなく延々眺められる程には好きだったし、電車に関しては近くの線路まで電車を見るためだけに連れて行ってもらっていた。恐竜に至っては、自作の恐竜絵本を本屋に売り込みにいこうとする程だった。

「あ、それと、アノマロカリスも」

「アノマロカリス…？」

そう、アノマロカリス。カンブリア紀の海を跋扈した、あのアノマロカリス。

あれは幼少期に観たNHKの特集番組『生命　４０億年はるかな旅』だった。プレゼンターは宇宙飛行士の毛利衛氏。地球の歴史を紐解く素晴らしいシリーズだったが、中でもカンブリア紀にフォーカスした回が大好きで何度も繰り返し観た。カナダのバージェス頁岩から発見された化石に刻まれた歴史の記憶からは、カンブリア紀の生命の爆発が読み取られた。アノマロカリス、オパビニア、ハルキゲニア、そして、のちの脊椎動物に繋がっていくピカイア…今でもそらで名前が挙げられる。

アノマロカリスやオパビニアの復元図を見た彼女は怪訝な顔をした。彼女にはそれのどこが魅力的なのか全くわからなかったようだ。

海に行くのが好きなのは、単に潜って魚が見られるからだ。地方に行くと普段目にしない虫や花、鳥をついつい見つけようとしてしまう。子山羊の動画をよく観ているし、もちろん、犬や猫も大好きだ。

上記のものに加えて、恐竜やアノマロカリス、あるいは水の中にいる微生物まで含めて好きだ。そう、私は「生きとし生けるもの」が全般的に好きなのだ。ただなぜか、今までその自覚はなかった。なぜだろう。

人間から見たらヘンテコな形をしている生物が、根を生やしたり動き回ったり漂ったりしながらも、皆等しく生きているということに、私は感動を覚える。

そしてきっと、そんな彼ら彼女らから見れば、私もすこぶるヘンテコなのだろう。私は、ヘンテコな生きとし生けるものたちから見た、ヘンテコな私自身を愛しているのかもしれない

という、ヘンテコな話でした。おしまい。

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