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心のつながりを求めるタイプ

「そのフレンチプレス、私が昨日貸したんだよ。忘れちゃった?」

キノシタサキは笑いながら私にそう告げる。そうか、これはキノシタサキのものだったんだ。彼女から借りた記憶は残念ながら私には欠片すら残っていなかったが、彼女にそういわれると、そんな気がしてならない。


今朝も“アイドルの卵”みたいな若い女の子(実際にその子たちはアイドルの卵なのだが)たちが我が家に出勤してくる。私はそんな若い子たちがどうにも苦手で、軽く挨拶を済ますとそそくさと自分の部屋に逃げ込む。

6畳ほどの私の部屋は、真ん中に長方形の大きなテーブルが置かれている。その上はいつも通り雑然とものが散らばっている。

お風呂に入ることにした。朝と夜の2回風呂に入るのが私の習慣となっている。徐に部屋の奥の浴室に向かう。

ふと、部屋の入り口に誰かいるのに気づく。アイドルの卵の誰かだろうか。もう少しで服を脱ぐところだった。危ない危ない…

そこにいたのはアイドルの卵にしては少し年齢のいった女性だった。30手前くらいだろうか。高すぎず低すぎず、太すぎず細すぎずの身体に、美人とは言い難い顔が乗っかっている。ただ、彼女はどこかに不思議な魅力を湛えている。彼女に好意を多少なりとも抱いている自分にはたと気づく。

私は彼女に、3年ほど前に会っていたことを思い出す。


それは今の家に引っ越したばかりのことだった。ひょんなことから知り合った、フランスのブザンソンという都市で骨董屋を営む若い日本人男性が私を訪ねてきた。

その骨董屋のオーナーの悪口をいい続ける彼の横にいたのが、今部屋の入り口にいる女性だった。彼女がどうして彼と一緒にいたのかはよく覚えていない。同僚同士でも、恋人同士でもなかった。ではなぜふたりは一緒だったのだろう。


名前は…そうだ、キノシタサキだ。


「そっか、これ君のだったか。ごめん、まだ洗ってなくて」

私はコーヒー豆が入ったままのそのフレンチプレスを手に取り、台所に洗いに行こうとする。キノシタサキはそれを遮り、私の手からその緑色のフレンチプレスを取る。刹那手が触れる。その時、キノシタサキも、私に幾分かの好意を寄せていることを知る。

昨晩フレンチプレスで淹れたコーヒーの味を思い出す。それは普段のペーパードリップで淹れたコーヒーよりも甘さを伴っている。


そんな今朝の出来事を思い出しながら私は自転車を漕ぐ。下り坂の途中で信号に引っかかる。信号を越えてすぐの今度は上り坂になっているまっすぐな道を、どのように駆け上がろうか思案する。よく晴れたあたたかい日だ。「幸せ」という概念を天気だけで表現したらきっとこうなるのだろう。

青信号。たくさんの自転車が私を追い抜いて上り坂へと向かう。が、皆途中で止まってしまう。私はそれらの立ち止まった自転車たちを避けて、坂を上り切る。


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昨晩はどういうわけか眠くて眠くてたまらなかった。ここ最近はしっかり寝れていたはずなのだが、夜9時過ぎにはもう睡魔に勝てなくなっていた。布団に潜り込んですぐ、私は深い眠りに落ちていった。

いつものように朝4時半に起きて、noteに記事をアップし、翌日投稿予定の、ほぼ書き上がっていた記事に手を加えた。昨日の残り物で簡単に朝食を済ませた後、またしても強い睡魔に襲われた。6時半から9時までの間、一度も起きることがなかった。

上記の内容はそのどこかで見た夢の後半部分だ。その夢はどこかの港町に船で到着するところから始まる。そこは大きな商業施設になっていて、私は自転車を止めていたはずの駐輪場を探す。その後はあまりちゃんと覚えていないのだが、巡り巡ってこの記事の冒頭から始まる内容になる。

ひどく鮮明な夢だった。

私の友人には「キノシタサキ」という名前の人はいない。昔付き合っていた女の子が一文字違いだが、そこに関連があるようには思えない。

一方で、この夢が現実世界から完全に切り離されたものだと認識するには、それはあまりにも生々しかった。


キノシタサキ…いったい君は誰なんだ?君は私をどこへ導くのか?そしてあのフレンチプレスはどこへいってしまったのだろうか?

現実世界となんの繋がりもないようには思えない、そんな長い長い夢だった。


私は、彼女との“心のつながり”のようなものを求めているのかもしれない。きっと私はそういう“タイプ”なのだ。


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