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名前をつけるまでのちょっとした道のり

ブランド名を選ぶのは難しかった。

難しいと感じたのは、名前が重要だと感じたからではない。

名前はあまり重要ではないと感じたからだ。

香水ブランドに限らず、ブランドの名前を見てみると、名前とブランドコンセプトに関連があろうがなかろうが(あるいは関連性が感じられようがなかろうが)、長かろうが短かろうが、意味が理解できようができまいが、きれいだろうがヘンテコだろうが、うまくいっているところはうまくいっているし、うまくいっていないところはうまくいっていないことはすぐ見て取れる。

いくつか例をあげよう。

Comme des garçons:長いし初見だと読めない人も多いだろう。また、意味がわかっている人も少ないのではないか。一方で、多くの日本人が、このブランドの正しい読み方を知っている。Hermèsを「ヘルメス」と読まないくらいに普及している印象がある。

Byredo:"By redolence"を短縮したもの。日本上陸当初は「バレード」というカタカナ表記だったのが、いつの頃から「バイレード」となった。こちらも意味がわからない、読み方がわからないブランドの典型だと思う(個人的にはこの名前はとても好きだ)。

OAMC:Jil SanderのクリエイティブディレクターLuke Meierのブランド。何を意味するのか意味不明だし、この意味がないように見えるアルファベットの並びは、たった4文字であるにも関わらず、指から砂がこぼれるように記憶に残らない。

つまり、ブランド名がブランドの成功を左右するということはほぼないと言って良いと思う。

ということで、当初は名前についてはあまり深く考えておらず、私の名前である“Yuta Watanabe”をそのままブランド名にしようと思っていた。

その時は、ブランド名を決めるまでこれほどの時間がかかるとは、思いもしなかった…

この名前をフランスで商標登録しようとしたところ、登録できないことが発覚した。

なぜかというと、Comme des garçons Parfumという会社が、Junya Watanabe Comme des garçonsという商標を、化粧品のカテゴリですでに登録していたからだ。クリエーターの名前をブランド名として商標登録する場合、同一カテゴリで同じ苗字は使えない、というルールがある。

この理由により、残念ながら香水ブランドYuta Watanabeは幻のものとなった。

次に考えたのが、Sajiという名前だった(これは最終的に会社名になった)。

このSajiという言葉には、色々な意味合いを込めた。

中勘助の小説『銀の匙』に出てくる戸棚から見つかる古い銀の匙、パウロ・コエーリョの『アルケミスト』におけるスプーンの油の話、「些末なことを大切にしたい」という意味合いを込めての些事、砂時計からのインスピレーションで流れる時を表現する言葉としての砂時…

これは、日本での商標登録に問題が発生する可能性があった。Sajiと綴り「サジー」と読むプロダクトが、化粧品のカテゴリで商標登録中だったのだ。

ここで途方に暮れてしまった。他に思いつく名前がなかったのだ。

名前は大切ではない、とは言いつつ、何の意味もない言葉を名前にすることもできなかった。いずれにしても名前は必要だったし、名前をつけるからにはそこに意味性を求めないわけにはいかなかった。それは顧客のためというよりも、自分のためだった。

丁寧さ、普段使い、上質…こういった言葉をうまくまとめられる言葉はないか、と考えに考えたが、全く何も浮かばなかった。

最終的に、ブランド名を思いつくために、何キロ散歩をし、何杯のコーヒーが消費され、何枚の紙が破り捨てられたかわからない。

しかし、こういうものは、ふとしたきっかけで“降りてくる”のだ。

次回は、ブランド名について解説する。

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@canoma_parfum

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