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不器用さのメリット

「バッティングセンターに行きたい」というフランス人の友人の希望により、渋谷のゲームセンターで結構な金額を使った私たちは新宿へと向かった。夜11時、小雨の歌舞伎町は薄着では肌寒い秋の空気の“あるべき姿”に包まれていた。

野球というのは私にとって縁遠いスポーツのひとつだ。そもそもテレビで陸上競技以外のスポーツを観ることはほぼなく、野球観戦に赴いたことも数えるほど、小学校では地元の野球クラブにも入らず、中高は野球部のない学校に通った。もちろん、バットを握ったことも、グローブをつけたことも、ベース間を駆け抜けたこともあるにはある。ただそれがいつどんな状況でのことだったかは覚えていないし、いずれにしてもお世辞にも上手な方ではなかったはずだ。

バッティングセンターには、中学生の時に友人に誘われて一度行ったきりだった。バッティングセンターのシステムがどのようになっているのか分からず、とりあえず受付にて尋ねると、空いてるボックスに入って機械にお金を投入すれば自動で球が出てくる、バットはボックス内にある、とのこと。思っていたよりシンプル。

300円で20球。私たち初心者は時速80キロの球が出るボックスにはいった。


野球なんてほぼやったことのない友人を前に、野球大国ニッポンの意地とプライドにかけて、まずは私がバッターボックスに入った。

まずは華麗に空振り。その次もまた空振り。

3球目にようやくかすったが、4球目はまた空振り。

結局、20球のうちなんとか打ち返せたのは2、3回だった。

球に対してバットが若干上を通過することは理解しているのだが、いざ球が飛んでくるとその「若干下にスイングする」という微調整ができない。「球の若干上をかすめる」というミスを量産し続けた。


空振りを続けながら、私は自分の不器用さに思いを馳せていた。

私のキャリアを見て、私がとても器用な人であるかのように勘違いする人がかなりの数いるが、実際の私はとんでもなく不器用だ。それは卑下でも謙遜でもなく、純然たる事実である。折り紙が上手に折れなかったり、手書きの文字がミミズにしか見えなかったり、ハサミがきちんと使えなかったり(ハサミってとっても難しいの、知ってた?)、と手先が不器用なのはもちろんのこと、得意科目と不得意科目の差が顕著だったり(センター試験の模擬試験の世界史で、100点満点中10点をとったことがある)、苦手な人がいるとすぐ顔に出てその場を切り上げようとしたり、もっと儲けられる方法があるのに「気が乗らない」という理由でやらなかったり、と生き方においてもその不器用さは遺憾なく発揮されている。

「もうちょっとこうしたら上手くいくのに」の「もうちょっと」がすこぶる苦手である。このnoteにしたって、3年5ヶ月も続けているのだから、器用な人であればもっと人気が出ているはずである。たいしてアクセス数も伸びないまま低空飛行を続けているのは、不器用ゆえにあれこれ微調整ができないから、というのがひとつの大きな理由だろう。


フランス人の友人もまたあまり打てていなかったが、そのレベルは私と同水準だった。ましてや彼らは全くの野球未経験者である。私がいかに「打てない人」であるかがわかる。


それは3回目のバッターボックスの、合計50球ちょっとを空ぶったりかすめたり、あるいはなんとかボテボテを前に打ち返したりした後にきた。右斜め上に、今日一番の綺麗な放物線を描けたのだ。

残りの球ではその“奇跡”の再現ができなかったことを鑑みると、それはただのまぐれだった。それでも、その一球はとても気持ちよかったし、それによって私は「またバッティングセンターに行ってもいいな」と思えた。


きっと、私は不器用ですぐにコツを掴むことが苦手だからこそ、すぐできてしまって飽きることもなく、余計なことも考えずに色々なことを黙々と続けることができる。そして、そんなことをしていると、いつの日か気づいたら思いがけず遠くまで辿り着いていたりするのだ。

そのように考えると、一見すると器用さによってなされているような経歴も、実は不器用だからこそもたらされたものなのかもしれない。不器用であることは、案外いいことなのかもな、と私は思った、最後の一球を、盛大に空振りながら。


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