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分母の詐称

書こうか書くまいか迷うテーマというのは多々ある。迷う理由は様々だが、それを結果的に書く理由は2つしかない。1つは書くネタに困っているから。もう1つはなんらかのリスクを負ってでも自分の中の“モヤモヤ”を解消したいから。

今回は後者の理由で記事を書いている。私の“モヤモヤ”がどれだけうまく伝わるかについてはイマイチ自信がないが、とりあえず筆を執った。


とある人と食の話になった時のこと。その方は自称食通で、世界中の美味しいものを食べまくっているとのことだった。

話の途中、パリでちょっとだけ有名な、あるレストランの名前が挙がった。

「あそこ、めちゃくちゃ美味しいよね!パリで一番美味いと思う」

彼は私がそのレストランを知っていることでさらにテンションが上がったようだ。興奮気味にそう口にした。

確かに美味しいが、間違いなくパリで一番ではないと思う、というのが私の正直な感想だったが、それについてはあえていわずにいた。

「ヨーロッパで食べ物が美味しい街はどこでしょうね?」

私は話題を変えるべく、こう返した。

「そりゃ間違いなくパリだよ。パリには美味しいものが詰まっている」

彼は自身たっぷりにそういった。

ただ、よくよく話を聞いていると、どうやら彼はさしてヨーロッパの都市を知っているわけではなさそうだった。巡った国はせいぜい数カ国だったし、パリにしたって最後に訪れたのは数年前のことのようだった。


これだけなら私も特にいうことはない。彼は彼の知っている狭い世界の中で一番美味しかったものを、ただ単純に「一番美味しい」と表現した。誰も全てを知ることなんてできない。知っている世界の大小の差こそあれ、人はその中でしか「一番」を決めることができないのだ。彼の世界は、彼の話ぶりに比べると些か小さい印象を受けたが、そういったことはよくあるだろう。

問題は、彼がそれを多少なりとも仕事にしている、ということだった。“食通”のような肩書きで、件のレストランがパリで一番美味しいかのようにある媒体に文章を寄せていたのだ。


そのレストランを挙げたことそのものを問題視しているわけではない。ある人にとってはそのレストランが本当にパリで一番美味しいレストランになりうる。当然ながら好みは人それぞれだ。あまりにも少ない母数の中から選ばれたものなのに、さも星の数ほどあるパリのレストランの頂点に君臨しているかのように書いたことに、私は強い違和感を覚えるのだ。

ヨーロッパ中を回ったわけでもないのに、イメージだかそのレストランでの体験だかを理由にフランスをヨーロッパで一番食が美味しい国だと断定したところにもその方の“スタンス”が透けて見える。彼は“そういうタイプ”なのだ。


ただ、彼だけが責められるべきではないだろう。世の中に出回っているランキングなんてきっともっと酷い。ある百貨店のフレグランスコーナーに「人気ランキング」と称して香水が順位づけられていたが、それが「人気順」ではないことは明らかだった。「これ、絶対に人気順じゃないですよね。売りたい順ですか?」と尋ねると、店員はあっさり認めた。そうであれば「人気順」などと嘘をつかずに、「オススメ順」なとの言葉を使えばいいのに。

そういった嘘をつくことに抵抗がなくなってしまうのはどうしてなのだろう。お金を稼ぐことが“正義”だからだろうか。


それはさておき、例の彼に話を戻そう。きっと彼は、とてもイノセントに件のレストランを「パリで一番」と評価した。その点では先の百貨店のフレグランスランキングよりかは“罪”は軽いだろう。

ただ、それにしたって“分母の詐称”は看過されるべきではないように私は思う。それでお金を稼いでいるのなら尚更だ。

いずれにしても、もっと謙虚になるべきなのだろう。自分の知識の範囲を客観視することと、知らないことを知らないときちんと認識できることの重要性を、自信に満ち溢れた彼の笑顔を見ながら改めて気付かされた。

謙虚さって、大事。


私の“モヤモヤ”、うまく伝わったかな。伝わっているといいのだけれども。


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