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なぜならどの始まりにも魔力がついていて…

創作物には必ず「出発点」がある。香水も同じ。

私の場合、その出発点は私の個人的な感動である。個人的なものであるが故に、私はその出発点、つまりインスピレーションソースについて、正直にいうとあまり語りたくない。私の内側を曝け出すようで、少々気恥ずかしく感じるのだ。だから、インスピレーションソースについて言及するのは、そうすることを求められていたり、その必要があるときに限っている。

また、作品の鑑賞において、必ずしも出発点は重要ではないと私は考えている。特に香水はその側面が強いもので、その香水の良し悪しは、鼻腔から得られる嗅覚情報のみで判断されるべきであり、ブランドの知名度やボトルデザインと同様、インスピレーションソースもまた香りの出来の判定においては雑音でしかないと思うのだ。

さらに、香りを作る際に、その香りが良い香りになるのであれば、出発点に固執する必要はない、というのが私のクリエーションにおけるスタンスだ。例えば、çanomaの香水「4-10 乙女」は、インスピレーションソースの中では百合の花が出てくるが、香水のフローラルノートの中心は、イランイランとティアレである。


このように書くと、私は出発点に重きを置いていないように感じられるだろう。ある意味ではそうなのかもしれない。フレグランスの世界においては、インスピレーションソースにやたらとアクセントを置いた発信が目立つが、私はそういったものを好まないし、だからçanomaではインスピレーションソースに触れる前に、まず香りを試してもらうことを重要視している。


ところで。

昨晩読んでいたヘルマン・ヘッセ『ガラス玉遊戯』のある一節をここに引用する。

名人は、当局が彼の請願を却下する決定を伝えた書簡を読み終えると、かすかな身震いを覚えた。それはひんやりとした、醒めた朝の感じで、時は来た、もはやためらってとどまるべきではない、と彼に告げていた。「目覚め」と彼が呼ぶこの独自な感じは、彼の生活の決定的な瞬間以来彼になじみのものであった。それは活気づけると同時に、苦痛を伴う感じであり、別離と出発とが入り混じって、春の嵐のように無意識の底深くを揺さぶった。彼は時計を見た。一時間後に授業をしなくてはならなかった。彼はこの一時間を内省にささげようと決心した。そして静かなマギスター庭園へ行った。その途中、突然ある詩の一行を思いつき、それはずっと彼の念頭を去らなかった。

なぜならどの始まりにも魔力がついていて……

これを彼はひとり口ずさんだ。どの詩人の作品で読んだのか分からなかったが、その詩句は彼の心に訴え、彼の気に入り、今の体験にぴったりであるように思えた。

(中略)

しかし夕方になってやっと、講義がとっくに済み、さまざまの一日の仕事が終わったとき、その詩の出所を見つけた。それは誰か古い詩人の作品などにあるのではなかった。それは、彼がかつて生徒や学生であった頃に書いた自作の詩の一つの中にあった。そしてその詩は次の行で終わっていた。

それならよし、心よ、別れを告げよ、
そしてすこやかなれ!

ヘルマン・ヘッセ『ガラス玉遊戯』

この一節にハッとさせられた。

そう、始まりには必ず「魔力」がついているのだ。


先述の通り私は「インスピレーションソースは重要でない」というスタンスをとっている。しかし、そんな私でも、出発点が重要となる瞬間が確かにある。

それは、「出発するとき」だ。

出発点がないと出発できない、というのは当たり前のことだろう。モノを作る際に、インスピレーションソースなしにスタートすることはほぼ不可能であるはずだ。

ただし、どんな出発点からも出発できるわけではない。「魔力」のある始まりからでないと、私はスタートできない。魔力とはつまり、私の心をとらえて離さない何かしらの強い力のことを指す。

その魔力に気づくのは、必ずしもそのインスピレーションソースに出会った瞬間ではない。後になってそこに魔力が潜んでいたことを悟るケースもある。

魔力を感じられるものはそう多くない。だからçanomaの新作はゆっくりとしか出せない。それでも、一度その魔力に気がつくと、私はそれに絡め取られて、身動きが取れなくなる。そしてそれはやがて新しい香りとなるのだ。


私はçanomaに様々な思いを込めている。特に、昨今のフレグランスマーケットに対する私個人の不満をどう解消するか、というのが大きな関心事項の1つである。様々な不満があるのだが、「始まりに魔力があったと感じられるものが少ない」ということも、あるいはその1つなのかもしれない。


なぜならどの始まりにも魔力がついていて……

私は今、「魔力を持つ始まり」にうまく出会えていないと感じている。それはいつ私に訪れるのだろう。それとも、私はすでに出会っていて、ただその魔力に気づけていないだけなのかもしれない。


それならよし、心よ、別れを告げよ、
そしてすこやかなれ!


私に向かって書かれている言葉であるように感じられた。


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