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Idoleの思い出

noteに900以上も記事を書いていると、何については既に書いていて、何についてはまだ書いていないかがあやふやになってしまう。私はとっくの昔にこのことを記事にしたような気になっていたが、どうやらまだ書いていなかったらしい。


それはまだ私が日本でサラリーマンをしていて、“ただの香水好き”だったときのこと。

2014年だったと思う。翌年にパリに移住する計画を立てており、私はその視察も兼ねて、フランスに旅行に行くことにした。“ただの香水好き”であった私は、とにかく買いたい香水をリストアップし(リストには30を超える日本では購入できない香水が並んだ)、それらを現地で試した上で購入するかを判断することにした。最終的にフランスから帰るスーツケースの中には、15本程度の香水が所狭しと詰め込まれることになる。

リストの中にその香水はあった。LubinのIdoleだ。ただし、私が欲しかったのは現在も販売されているEau de parfumバージョンではなく、その時既に生産中止となっていたEau de toilette版だった。

こちらの香水だ。

https://www.fragrantica.com/perfume/Lubin/Idole-2923.html

私は今も昔も、香水の“ジャケ買い”をほとんどしてこず、香りが気にいるかどうかを購入の主な判断基準としていた。それが、どこでこの香水のボトルを知ったのかは思い出せないのだが、ひと目見た時から、このボトルに関してだけは香りはさておきとにかく欲しい!と感じたのだ。


先述の通り、当該香水を知ったときにはもう既に生産中止になっており、フランス旅行の下調べの段階では、販売している店舗を見つけることができなかった。よって、フランス旅行の際も、この香水を手に入れることは半ば諦めていた。


パリにあるJovoyというフレグランスショップで、LubinのIdoleがあるかを尋ねたときも、色よい返事を期待していたわけではなかった。ダメ元、一応、万が一…程度でしかなかったのだ。

写真を見せながら、「この香水があるか」と覚えたての拙いフランス語で尋ねると、若い女性店員さんは少し考えてなぜかバックヤードへと引っ込んでしまった。

しばらくして戻ってきた際、彼女の手には、なんと私が探し求めていたLubinのIdoleがあったのだ。販売は終了しているが、かつてJovoyで取り扱いがあったため、テスターだけは残っていたようだった。

香りを試すと、不思議と想像していた香りに程近く感じられたことを今でもよく覚えている。あぁ、もしこの香りが購入できればなぁ、もっと早くにこの香水の存在を知っていれば…と悔やまれた。


「この香水、欲しい?」と店員さんに聞かれた、ような気がした。私の乏しいフランス語力は、悲しいかなこんな大事な場面において彼女のフランス語を正確に理解することを可能としなかった。ただ私の直感はそのように尋ねていると思ったので、力強く“Oui !”と答えた。

彼女はそばにいたマネージャーだと思われる年配女性に何かを確認していた。しばらくごにょごにょ喋った後、また私の方に戻ってきた。

彼女は、何かを言っている。が、私にはよく理解できなかった。

不意に私の耳は、彼女が発する大変シンプルなフランス語のフレーズをキャッチする。

“Je le donne”

これをあげる、という意味だ。

このボトルはテスターとして使っていたものだから、販売することはできない。だから差し上げる、と彼女は言っていたのだ。

私は面食らってしまった。テスターで使用していたといっても、中の液体は新品同様に残っていた。それは私が長いこと探し求めていた香水で、しかもそれを無料でくれる、と言っているのだから無理もない。


このようにして、私はLubinのIdoleを手に入れることになる。


この話は今でも時々象徴的に思い出される。欲しいものを手に入れるために苦労をした結果、その苦労とは関係のないところで“棚ぼた”的にそれが手に入ったわけなのだ。それはそれは不思議な経験だった。


結局のところ、「そういうこともある」ということなのだと思う。世の中には我々の意志とは全く別の力学で動いているものがあり、それが時としてポジティブな作用をもたらし、また別の時にはネガティブな影響を与える。日頃の行いだの神様が見ているだの、それを理解するために人はあれやこれやの超自然的な根拠を引っ張り出してくるが、結局のところはそこに理由もへったくれもないのだろう。「そういうこともある」という言葉を超える説明はきっとあり得ないのだ。


この香水は今でもパリの家で大切に保管している。このボトルを手にするたびに、“Je le donne”というフレーズと、私の驚きが、瑞々しさを持って思い出される。この出来事が「そういうこともある」の範疇を超えることは決してないが、その「そういうこと」は私をとても明るい気持ちにしてくれた。

とても素敵な思い出の1つだ。


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