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不正調査のレポートを出しました

税金の調書だけは関わりたくないので避けていたのにとうとう白羽の矢が立ち調書を作るハメになりました。最悪の気分です。
ちーがです。

さて、そんなこんなで修了考査まで半年を切り、レポートの提出やら、課題やら、授業単位の滑り込みやらをしていますが、不正調査のレポートを先日提出しました。
第三者委員会報告書を読んでその内容をまとめるものだったんですが、レポートで使う報告書を探すためにいろんな報告書を読むとすごく面白いものばかり。最近の趣味は電車の中で第三者委員会報告書を読むことになりそうです(勉強にもなるし一石二鳥)。
本当は今関わっている会社の第三者委員会報告書を使いたかった(より詳細に知ってるから)けど、それはさすがに許されてませんでした。ぐぬぬ…

ということで僕が選んだのは東海リースの第三者委員会報告書です。
決め手はやっぱりゴルフ場を作っていた、に限ります。面白すぎる。
よかったら読んでみてください(1番下にリンクあります)。

さて、そんなレポートの点数が今日出ました。
62点でした(及第点が60点なので及第点をちゃんともらえた、良くも悪くもないレポートということですね…)。

来年のJ3の方の参考にもなるのと、普通に面白いから他の人にも読んでみてほしいなぁと思うのでレポートの全文を公開します。
全部で6,917文字なので相当長いですが読んでみてください。
2日くらいでドバッ!と書き上げたのでかなり率直な書き方になってるのでレポートかと言われると微妙…()なので本当に参考にするだけで。



第1章   選定した第三者委員会の調査報告書

2021年1月以降に公表された上場企業における会計不正事例に関する第三者委員会による調査報告の中から当該研究に使用する調査報告書を選定した。

第1節 概要

①調査対象会社:
東海リース株式会社(以下「東海リース」という)
東海ハウス株式会社(東海リースの連結子会社。以下「東海ハウス」という)
②上場区分:東証スタンダード
③会計監査人:トーマツ
④調査報告書日:2022年11月11日
⑤報告発行体:東海リース株式会社外部調査委員会
⑥調査対象:
東海リースの前常務取締役であり、かつ、東海ハウスの元代表取締役社長であった、A氏及びその関係者が、A氏が東海ハウスの取締役に就任した2013年11 月以降において、東海ハウスにおいて行った不正行為の事実関係(社内調査委員会において判明した不正行為以外の不正行為の有無に関する調査も含む)
⑦会社概要:
東海リースの主たる事業は、学校、事務所、店舗、交番等の仮設建物施設や、自然災害時の応急仮設住宅等のリース業である。
東海ハウスの主たる事業は、東海リースが施工に用いる仮設建物施設等の部材一式を製作・出荷する事業である。
⑧調査により判明した事実・不正行為
i.東海ハウスの鉄骨部材に係る外注取引にエコ・プラントを介在させた不正行為
東海ハウスの鉄骨部材に係る外注取引に、A氏ら(役員、従業員計4名のA氏、B氏、C氏、D氏(以下4名を併せて「A氏ら」))が支配・経営するエコ・プラントを介在させた不正行為。当該不正行為はA氏、B氏及びC氏については会社法に定められる利益相反取引に該当し、法律違反行為といえる。
また、D氏については、利益相反取引に加担したものとして、民法上の雇用契約上の付随義務違反(債務不履行)又は不法行為にあたるとして、同じく法律違反行為といえる。
ii.ゴルフ練習場の造成・維持管理
A氏は、専ら、自らの趣味であるゴルフを満足させるためにゴルフ練習場を造成し、その後も、高額な費用をかけて維持管理させていた。ゴルフ場造成については直ちに会社法・民法上の善管注意義務違反とは言えないまでも、維持管理を継続したことについては違反しているといえる。また、A氏は任務懈怠によって生じた損害(ゴルフ練習場の維持管理費用)を負担する責任を負い、上記と同様に会社法の法律違反行為を行っていたといえる。
iii.スクラップ代金の別口座への入金
A氏らは、東海ハウスのスクラップ売却代金の一部を、裏金として「東海ハウス株式会社親睦会代表D(以下「親睦会」)」名義の口座に入金し、その中からⅱ記載のゴルフ練習場の維持管理費を支出していた。
当該入金行為についてはA氏及びC氏について善管注意義務違反が認められ、会社法の法律違反行為といえる。
B氏は当該入金行為に積極的に関与はしていないものの、東海ハウスの取締役副社長又は代表取締役社長(期間を経て役職が変更されている)として、役員であるA氏、従業員であったC氏の業務執行を監督する義務を負っていたところ、当該入金行為を認識していたにもかかわらず、止めるための行動を全くとっていないため、会社法上の任務懈怠に該当し、A氏と同様に損害賠償責任を負うと考えられ、法律違反行為であるといえる。C氏及びD氏は当該入金行為に加担したものとして雇用契約上の付随義務違反(債務不履行)又は不法行為として損害を賠償する責任を負うため、同様に法律違反行為といえる。

第2節 選定した理由

(公開できない内容なので中略)東海リースでも過去不正事案が発生しており、現在監査中の企業の監査に役立つ見解が得られるのではないかと考え、当該報告書を選定した。

第3節 監査基準報告書240における不正の特徴

当該不正事案の内容を論じる上で重要な点である監査基準報告書(以下「監基報」)240における不正の特徴をまとめる。
組織において発生する不正を研究した米国の学者ドナルド・R・クレッシーによると、下記の3要素が結合したときに人は不正行為を働くとされている(不正のトライアングル)。
①不正を行うことができる『動機』
②不正を行うための『動機・プレッシャー』
③本人が不正を『正当化』できる
上記の点を踏まえ、監基報240では下記の3つの要素を掲げている(上記との対応を考え順番を入れ替えている)。
①不正を実行する『機会』
②不正を実行する『動機・プレッシャー』
③不正行為に対する『姿勢・正当化』(監基報240 A1)
よって、当該研究においては当該報告書にて報告されている不正を上記の3つの観点から論述する。

第4節 会計不正が生じた要因(問⑴)

第3節で述べたように、①~③の要素に沿って記述する。
①不正を実行する『機会』
監基報240のA1項には機会に該当するものとして下記の2点が掲げられている。
l  収入を超えた生活をしている者などは、資産を流用する動機をもつ場合がある。
l  例えば責任のある立場にいるため、または特定の内部統制の不備を知っているために、内部統制を無効かできると考えるものは、不正を実行する機会を有している。
以上の点、当該不正事案のⅰ~ⅲの全てが当てはまるといえる。
「東海ハウスは、東海リースから在籍出向する従業員や取締役を受け入れていた。(中略)
A 氏は、2013 年 11 月、東海リースの取締役として東海ハウスの副社長となり、 2014 年 6 月から東海ハウスの社長に就任し、2019 年 5 月まで約 5 年間その地位にあった。
このように、A 氏は、(中略)いわゆるワンマン経営を徹底し、(中略)当初、東海ハウスの役職員の中には、A 氏の専横行為に反論する者もいたが、これらの者の中には、左遷、降格、退職勧奨など人事・待遇面で不利益を受ける者もあり、A 氏による人事権の濫用をおそれ、東海ハウスの役職員がA 氏に逆らうことは極めて困難な職場環境が醸成されていった。(中略)」(当該調査報告書13頁)
以上のように、A氏は東海リースの取締役として、そして子会社の東海ハウスの社長として多額の報酬を得、また経営者として内部統制に関わるため責任ある立場として内部統制を無効化することができた。
また、B氏、C氏、D氏はA氏と密接な関わりを持っていたとされている。
「B 氏は、東海ハウスの経理・財務を担当しており、(中略)A 氏の意向に反対することはなく、追随することも多かった。(中略)
C 氏は、東海リースからの在籍出向者であったが、東海ハウスに出向後は、A 氏に最も近い部下となってA 氏と連携し、その指示・了解を受けながら仕事をするようになった。なお、C 氏が課長から部長に昇格したのは社長であったA 氏の意向であった。C 氏は、A 氏の意向を汲んで、それを具現化し、実行する役割を担っていた。
D 氏は、A 氏の意向のもと、他と比較して高額な役付手当を受け取っており、D氏はA 氏の指示については、無批判に異論をはさまず従っていた。」(当該調査報告書13-14頁)
以上のことから、B氏、C氏、D氏についても同様に内部統制を無効化できる立場にあり、D氏に至っては他の従業員に比して高額な手当を受け取っていたため、不正を行う機会が十分にあったと考えられる。
内部統制を無効化する要因は他にもある。
「東海ハウスの制作・加工部門は、A 氏が統括し、C 氏が実務を取り仕切っていた。他方、東海ハウスの経理・財務は、B 氏が統括し、D 氏が実務を取り仕切っていた。しかも、本件不正行為が行われていた期間の社長はA 氏とB 氏であった。(中略)東海ハウスの内部統制は無効化されていた。」(当該調査報告書14頁)
以上のことから、ハウスの制作、加工の実際の作業、そしてその作業から生じる費用等の管理までもがA氏らによって掌握されており、内部統制が無効化され、さらには外部からの監督が行き届かないような体制となっていたことがうかがえる。
②不正を実行する『動機・プレッシャー』
監基報240のA1項には動機・プレッシャーに該当例示が示されているが、当該不正には直接は該当しない。A氏やB氏、C氏などの役員は経営者として高額な報酬を受け取っており、その高額な報酬を維持するためには企業の財務報告を不正により過大に見せることが考えられ、不正を実行する動機は十分にあると考えられる。また、ⅱの不正のように専ら自分の趣味を満足させるために企業の資金を流用しており、資金の流用が容易く行うことができるような風土を醸成させていたA氏は大いに不正を行う動機があったと考えられる。
③不正行為に対する『姿勢・正当化』
監基報240のA1項には動機・プレッシャーに該当するものとして下記の点が掲げられている。
l  不正行為を働くことを正当化する者がいる。不誠実な行為と知りながら又は意図的に、そのような行為に関与することを許容してしまうような姿勢、人格又は価値観を有している者もいる。
以上の点は当該不正事案に該当していると考えられる。
A氏は役員に就任してからの5年をかけて不正を容易に行うことができるような仕組み、人間関係を構築している。また、B氏、C氏、D氏もA氏の不正行為に賛同している。これはA氏らが不誠実な行為と知りながらも意図的に不正を許容してしまう人格、価値観を有していたと容易に考えられる。
以上の3つの要素が結合し、当該調査報告書にて報告されている不正は生じたと考えられる。

第2章 会計監査人は会計不正を”全て”発見しなければいけないのか?

第1節 会計不正発覚の経緯

当該不正の発覚の経緯は報告されていない。参考に日本公認会計士協会(以下「JICPA」)によって講評されている「上場会社等における会計不正の動向(2022年版)」によると、発覚経路は上位から下記の通りである(かっこ内は会計不正の発覚事実を公表した上場会社等164社のうち該当発覚経路の占める割合)。
①内部統制等:44社(約27%)
②当局(JICPA)の調査等:25件(約15%)
③内部通報:22件(約13%)
④記載なし:20件(約12%)
⑤公認会計士監査:18件(約11%)
⑥取引先からの照会等:17件(約10%)
⑦内部監査:6件(約4%)
⑧不明:12件(約7%) (JICPA「上場会社等における会計不正の動向(2022年版)」8頁)
以上の結果から、会計監査によって不正が判明しているのは僅か11%と1割程度であるとわかる。その点、会計監査の範囲の拡大を求める声が例年叫ばれているが、会計監査人は会計不正を全て発見しなければいけないのだろうか。その点、会計監査人の責任を踏まえ論述する。

第2節 会計監査人の責任・会計監査の限界

監査基準において監査の目的には下記の通り記載されている。
「財務諸表の監査の目的は、経営者の作成した財務諸表が、一般に公正妥当と認められる企業会計の基準に準拠して、企業の財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況を全ての重要な点において適正に表示しているかどうかについて、監査人が自ら入手した監査証拠に基づいて判断した結果を意見として表明することにある。
財務諸表の表示が適正である旨の監査人の意見は、財務諸表には、全体として重要な虚偽の表示がないということについて、合理的な保証を得たとの監査人の判断を含んでいる。」
つまり、財務諸表の全ての“重要な”点において適正に表示しているかどうかについて意見表明することが求められており、全ての点において、ではない。

第3節 なぜ会計不正を発見できなかったのか?(問⑵)

第2節で述べた通り、会計監査は財務諸表の適正性について意見表明することが目的であり、第一義的に不正を発見することが目的ではない。当然財務諸表の適正性の判断において会計不正による虚偽表示は大きく影響するため発見することが望まれるが、全ての不正を発見することが目的ではない。また、現時点の我が国では内部統制報告についてはダイレクトレポーティングを採用しておらず、あくまで経営者により内部統制の評価を行い、その評価について意見を表明している。この点、当該研究で挙げた不正は経営者により内部統制が無効化されており、内部統制による不正の発覚が困難であり、またダイレクトレポーティングを行わない会計監査人にも限界があると考えられる。
以前より会計監査に強制捜査権を与えることで被監査会社の内部統制が無効化されていても改竄や隠蔽を直接的に捜査でき、不正を発見する可能性が高いとされ、強制捜査権の付与等の議論が社会では行われてきた。しかし会計監査人があくまで会計について責任を負い、また多くが民間団体であることを鑑みれば強制捜査権が与えられることはないであろう。
会計監査人による不正発見には外部の権力ではなく、職業的専門家としての専門知識の蓄積、及び職業的懐疑心の発揮が多分に求められることとなっている。
この点、現在の不正発覚経路の統計を鑑みるに、会計監査人の職業的懐疑心が十分に発揮されているのは約1割程度と言わざるを得ない。
当然十分に発揮されていたとしても“全て”の不正を発見することは不可能であり、これは被監査会社の内部統制、内部監査、監査役、監査役会等の監査組織の協力をもって不正を発見することが必要であるといえる。

第3章   会計不正を発見する監査手続とは(問⑶⑷)

第2章では会計不正を“全て”発見することが不可能であることを述べたが、しかし会計不正が発覚した時点で会計監査人が会計不正を発見することができなかった場合はその要因を分析することで今後の会計監査がより有効的なものになる。第3章ではこの点当該不正事例を用い、不正を発見するための監査手続を立案する。更にその際に当該不正事案を認定するにあたって会計監査人がとるべき行動を述べる。
①監査計画時
まず、企業及び企業環境の理解を行う。当該不正事案ではこの後に行うべきである経営者、監査役等に対する不正リスクに対するヒアリングがとても大きな意味を持つと考えられる。経営者であるA氏に対し直接監査人が話を聞く機会に、A氏の保有する情報をできる限り引き出し、A氏の回答内容に不合理な点がなかったか、監査役と共有できていない機密事項はないか等を引き出すべきである。これは十分に被監査会社の知識を有する監査人にしか行うことができないため、監査チームで十分に経験を積んでいる者を同席させるべきである。
そしてこのヒアリングの結果や企業、企業環境の理解の総合的な結果を勘案して不正リスク要因の検討及び不正リスクを識別し、監査計画を立案し、次に監査手続の計画を立案する。
②監査手続(内部統制の整備・運用状況の評価)
監査手続の計画の立案後、評価されたリスクに対応する実際の監査手続として内部統制の整備・運用状況の評価を行うが、この際に過去から同一のものが長期間にわたって同種取引について承認を行っていないか、また、特定の人物のみで稟議承認決裁が行われていないかに留意すべきである。当該不正事案では長期間にわたりA氏らによって取引が独占的に行われていたためである。
この際、監査チーム内では長く監査チームに携わり十分に知識を有するもののと密に連携を取るべきであり、また被監査会社のA氏ら、特にD氏と頻繁に交流することで内部統制の実情を解明すべきである。
③監査手続(実証手続)
内部統制の整備・運用状況を把握した結果、内部統制に依拠し実証手続を行うことができるか評価すべきであるが、この際の判断も監査人の職業的懐疑心を発揮し慎重に行うべきである。
この際は被監査会社に対してA氏らが想像できないような監査手続を行うことが考えられる(支店の往査や関連当事者取引の証憑依頼等)が、A氏らは理由をつけ手続を行わなくてもよいように誘導すると考えられる。しかし会計監査人として行わなければいけない旨を説明し、尚行うことに同意を得られない場合は監査役等の協力を得ることにより監査手続きを行うことが考えられる。
以上の過程においていずれかの時点で不正の兆候を認識し、不正による虚偽表示の疑義を持ち、実際に予想される不正に対応する監査手続をその時点で更に講じるべきであり、監査計画を修正する必要があると考えられる。

第4章 最後に

第1節 まとめ

A氏らによって行われた不正は会社に著しい損害をもたらし、更に将来的にも株価の下落や社会的信用の失墜等の著しい損害をもたらしている。当該不正事案を会計監査人が見過ごしていた(発見していたかもしれないが)可能性を十分重く受け止め、会計監査人の職業的懐疑心を十分に発揮するために今後も会計監査人は知識の累積に努めなければいけないと考えられる。

第2節 感想

今回、同様の業種で過去に不正が行われた会社の監査を行うにあたり、不正に対する会計監査人の責任や行動の限界を大きく感じた。しかし会計監査人として行動し続ける限り、不正に遭遇することは十分に考えられる。今後も第三者委員会報告書の研究を通じ、不正に関する知見を広め、よりよい監査を行うことができるよう努めていきたい。

第5章 参考文献

1.JICPA 経営研究調査会研究資料第9号 上場会社等における会計不正の動向(2022年版)
2-3-5-2-20220627.pdf (jicpa.or.jp)
2.東海リース株式会社外部調査委員会 調査報告書
irnews_20221111.pdf (tokai-lease.co.jp)

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