「足らないぼくら」(木村哲雄 LOVE CITY シリーズ 新宿5丁目東周辺」)

「足らないぼくら」(木村哲雄 LOVE CITY シリーズ 新宿5丁目東周辺」)

今日自室の壁に新たな絵がピンナップされた。木村哲雄の「LOVE CITY シリーズ 新宿5丁目東周辺」。昨日昼酒にへべれけになりながらヤツと美術談義をした。おれは木村の表情や目線の動き、言動に注視しながら、彼の美に対する姿勢の確かさを探り、そして彼は真っ直ぐに歪んでいると確信した。

ヤツの絵は満遍なく歪み、極彩色で彩られている。正中でシンメトリーな人間は無く、歪んでいない人間など居ない。どうも日本人は建前でそれを否定している人が多い。このフィルターをアイツはスポンと外しているんだ。それは勇気のいることだろう。大したヤツだ。以前この色調をメキシコのアートシーンで観たような気がする。彼の視野には陳ねこびた日本が、ない。

聞けばヤツはガキの頃から親の仕事で海外に暮らし、暇があれば美術館に入り浸っていたんだそうだ。幼い眼裏に名画の数々がインプリントされているのだ。涙が出るほど羨ましい。塾や習い事で幼い頃から目の艶ないテンプレート人間に成形され、モラルとかいう嘘っぱちの価値観の繭の中、翅を伸ばす事なく腐れていくおれら日本人。それが幸せならそれで良い。しかし木村はその埒外の淡いに生きているんだ。ヤツの絵には人が、人影が、生活感が、ない。ヤツには新宿という街に人は居ないのと一緒なんだよ。

この絵が叫ぶ声を聴き逃してはならない。

木村は気づいてる。おれらが足らない大切なものを。

叶裕

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