Yutaka Kano
あまり公言しないが、ぼくにはひそかに信頼している俳人がいる。「喪字男」もそのうちの一人だ。初めて彼の名を目にしたのは北大路翼率いる初期屍派の 寒泳の目つきがまるで人ごろし 喪字男 を目にしてからだ。以来、屍派初期メンとして、そして里俳句会の古株として辛気臭さとは無縁の句を作り続けている彼を常に意識し続けている。そんな彼の句集『モジオロジー』が上梓されたというから、早速注文したのだった。 『モジオロジー』とはいわば「喪字男学」と云うべきだろうか。巻頭に書く「この本を誰
大井恒行さんより句集『水月伝』を拝受。 俳句を知らぬ者は十七文字の壺中より仰ぐ月がどれほど美しいかを知らない。その美を知らずとも生きてはゆけるが、一度でもそれに魅入られるとそこから抜けられなくなる。俳人とはそう云う因果な生き物だ。このフレンチブルーのエレガントな句集を編まれた大井恒行さんもそのうちのお一人なのだろう。 尽忠のついに半ばや水の月 恒行 掲句には多くの俳友を失くした作者の正直な心境が飾る事なく込められている。「鏡花水月」とは見えていながら触れ得ないものの例