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RRRの感想メモ(ネタバレあり)

2か月前にRRRを観た。

感想としてはこれに尽きるし、すばらしい映画なのでみんな観てほしいけど、若干もやもやしたので感想を書き残しておく。まだ観てない、という人は、おれのこの駄文を読むより前にまず逆噴射先生の檄文を読み、今すぐ観に行く(あるいは、1月20日からドルビーシネマ上映らしいので、それを待つ)とよいと思う。

RRRの舞台は、1920年、大英帝国の過酷な植民地支配にあるインドだ。1920年というと、第一次世界大戦の2年後。第一次世界大戦でイギリスは、戦争に協力する見返りにインドの自治を認めるという約束をしていた。しかし、その約束は守られず、インドの人々の怒りは頂点に達する。頻発する暴動やテロ。そして、1919年には、インド人を裁判なしで投獄できるようにする治安維持法・ローラット法ができ、それに反対した人々が大量虐殺されるというアムリットサル事件が起こる。映画自体はフィクションだが、この「過酷な植民地支配」という歴史的事実を書き割りとして物語は構成されている。主人公ふたりは、違う時代だけど実在していた人物で、どちらもイギリスへの抵抗運動を率いていた革命家だ。

そんなわけなので、エンタメ映画らしく最後はハッピーエンドだけど、それは不可避的に、イギリス人にとってはアンハッピーなエンドになる。具体的に言うと、主人公と恋仲になるヒロイン以外のイギリス人は皆殺しにされる(いや、あのパーティーでダンスバトルしてたイギリス人とか、軍人以外はわりと生きてる…?)。

なんかちょっともやもやするのは、前半では、この憎しみと人間性の葛藤、みたいなものを描こうとしていた形跡があったのに、後半それが回収されていないことだ。前半のクライマックス、ダブル主人公の片方・ビームが宮殿?に攻め入ってイギリス人を殺しまくるシーンで、ビームといい感じになっていたヒロインのイギリス人女性が「なぜあの優しかった人がこんなに残虐なことを…?」という困惑の表情をする。いや、わかる。普通に考えると、自分の親類友人を殺しまくる人間とまた笑って話せる日なんてもう来ないですよね。でも、こういうカットを挟むからには、きっと落涙必至の人間ドラマを経てビームとまたいい感じに戻るんだろうなあ、みたい展開を予感させる。

が、蓋を開けてみれば、そんな人間ドラマはない。といって、ではビームといい感じにならなかったかというとそんなことはなく、いい感じになる。なぜか、人間ドラマはないままに、いつの間にかビームといい感じに戻っていたらしく、砦?に侵入する手伝いをする回想シーンで突然登場する。しかし、さらっとそんな流れになってるけど、その侵入の手伝いをすればまた多くのイギリス人が死ぬし、なんならイギリスの支配が崩壊して自分の身も危ういかもしれない。そんな相当な決断なので、

私の家族は、イギリスで小さな工場を経営していたの。あの軍人たちから、第一次世界大戦に協力する代わりに借金を帳消しにしてやる、と言われ、それを鵜呑みに非人道兵器を製造してたけど、戦争が終わったら非人道兵器を作っていた罪で一族郎党は投獄され、私は借金のカタに売られた。だけど私は諦めなかった。そう、あなた達インド人がそうであるように。私の境遇は、第一次世界大戦の約束を反故にされたインドと同じだ。私は復讐のために心を殺してあの軍人たちとインドまで来た。私もあいつらを皆殺しにしたいと思っていたの…!

くらいの設定は欲しい。なんとか辻褄を合わせてほしい。

ただまあ、そういうのをちゃんと回収しようと思うと、3時間では到底終わらないというのはわかる。たぶん、監督も前半のプロットを考え終わったあたりで「あ、これは入らねえな…」と気付いて、だいぶ省エネなストーリー展開にしたんじゃないのかな、と思う。メインはダブル主人公同士の関係の話なので、そこにフォーカスして残りは省略していくのは、まあ正しい判断だと思う。

そもそも、圧政を敷いているイギリスはどうがんばっても悪役、という設定は尊重しつつ、この前半からみんなハッピーな結末に持っていくのは無理だ。あの悪役が「私は間違っていた…。これからは心を入れ替えてインド人が幸せになるような植民地支配にしていくぜ。気付かせてくれてほんとサンキューな!」みたいなことを言い出したとして、イギリスがこれまでしてきた酷いことが帳消しになるわけではない。どうがんばっても、平和な結末はなさそうなので、悪役は死なないとみんな納得しないですよね。

それくらいに、100年経っても、植民地時代の記憶というのは、その憎しみというのは、乗り越えがたいものなんだろうなあ、と思う。エンドロールではインド映画らしく登場人物が踊るけど、そこで踊るのは、ダブル主人公であるビームとラーマ、ラーマの恋人の3人がメインで、ビームの恋人のイギリス人はあまり入ってこない。ダンス力の差とかもあるんだろうけど、やっぱり、イギリスの植民地時代を描いたインド映画でのイギリス人の扱いはセンシティブにならざるをえないのかもしれない、と邪推した。あのエンドロールで背景に映し出される顔は、インドの革命家たちらしく(パンフレットに解説があるらしいけど買いそびれた)、それを背景にインド人とイギリス人が仲良く踊るというのもなんか収まりが悪いというか。

総じて言うと、収まりが悪い、という感想に集約されるかもしれない。それはこの破天荒なアクションもそうだし、うまく回収されていないストーリーもそうだし、語るべきことがありすぎるのもそう。人と語り合いたくなる映画なので、みんな一度は観てほしい。

(カバー画像:https://flic.kr/p/kccdAr

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