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靴下に穴があいている。

家に帰ってきて靴を脱ぐ。玄関に踏み入れた左足の床の感触がなにか違和感があって、なんだろうと足を見ると靴下に穴があいている。ぽっかりと。

靴下は穴があく。人はいずれ死ぬ。何事にも終わりがあり、靴下も俺も避けられぬ滅びの運命を生きているのでそれはそれで仕方ない。仕方ないけど、靴下の穴にも気付かないほどぼーっと生きているつもりはなかった。反省した。

しかし、その次の日も、次の次の日、次の次の次の日も、靴下には同じ場所に穴があいていて、何かがおかしい。ここまでくると、何らかの天変地異の前兆かもしれない。前世でどんな悪行を犯せばこんな仕打ちを受けるんだろう。

みたいな妄想に、オカルト耐性が低い人間であれば囚われてしまうところだが、俺は科学的に思考する。靴下を買うときは同じものをまとめて買う。靴下のローテーションが平等に回っていたとすると同じように擦り減っていくはずで、ということは同じ時期に穴が空くというのは自然なことだ。科学的に考えて俺はそろそろ新しい靴下を買わなくてはいけない。

はたして俺は靴下を買った。買った靴下に一日で穴が空いた。

空はどんよりと曇っている。

その可能性は頭をよぎりつつ考えないようにしていたが、ひょっとするとこれは陰湿なイジメなのかもしれない。人間関係のほつれが靴下の糸のほつれに。そういうことなんじゃないだろうか。しかしどうやって俺が気付かないうちに俺の靴下に穴をあけるというのだろう。そうだ、上履きに画びょうを仕掛けるみたいな感じで靴に何か細工が...??

と、靴の内側を見ると答えがあった。親指の付け根あたりの靴底のクッションが擦り減って、紙やすりのような凶悪な下地が剥き出しになっている。靴下はこれに削り取られていたのだ。俺の足の身代わりとなって。俺の足が削り取られて靴が血の色に染まるという惨事を防ぐために。

しかし、じゃあ靴が悪かったかのというと、順序が逆なのかもしれない。靴底のクッションが親指の付け根だけピンポイントに擦り減っていたのは、あの位置に穴が空いた靴下を履いたせいなんじゃないだろうか。靴下は俺を靴から守るだけでなく、靴を俺の汗や摩擦から守ってくれてもいる。そこに穴があると、吸ってくれるはずの汗が通り抜け、靴底を湿らせ、摩擦を増す。

穴により穴が穿たれ、その穴がまた別の穴を、という悲しい穴の連鎖があった、のかもしれない。真相は闇の中ならぬ靴の中、人間には知りえない物語。

みたいな妄想をしながら衣装ケースの靴下を確認すると、ほとんどに穴が空いていて途方に暮れている。もういっそサンダルで暮らすかな...

(カバー画像:https://flic.kr/p/of2m5L

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Hiroaki Yutani

読んだ本のこととか聴いた音楽のことを書きます。

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