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#2-13 白髪ロン毛の人

 ──2023年4月16日。この頃写真を撮るのが億劫になっていた。写真を撮ると決意してから3年間、おじいちゃんとプラスチックとずっと同じものを撮ってきた。いわゆるマンネリというやつかもしれない。じゃあ他の写真を撮ればどうなんだと考えて外に出てみても、やはり同じようなものに惹かれて最終的には同じモチーフに辿り着いてしまう──
 写真を撮らない間、写真集でも買ってみることにした。僕は基本的に日本の写真が好きだ。なぜなら海外の写真はファンタジーに見えるから。ネットで色々見てみて、アラーキーの「東京色情日記」と「SEXUAL DESIRE」という写真集を買った。どちらもポジのカラーフィルムで撮ったヌードとストリートスナップの組み合わせで構成されている。この組み合わせは既に持っている同作家の写真集「色景」と一緒だ。つまるところ、この3冊はタイトルは違えど、やっていることは同じなのだ。あれこれ考えず、とりあえず自分の好きなものを撮って本だしちゃえよというようなアラーキーのその姿勢に少し救われた気がした。現代アートのように頭で考えて個を消す写真も面白いけれど、僕が好きなのはやっぱり、しつこいくらいに自分の中のフェティシズムをアピールする写真だ。その方が「写真」と「人」で2回興味を持ってもらえるからお得である。
 そういう写真家になるためには、何を撮るかより何を撮らないかだと、心の中のリトルホンダが言っている気がした。一旦、自分のフェティシズムを抑えつけることは辞めにして、この日は久々にカメラを持って外に出た。



 ──春の訪れを感じさせる暖かさであった。天気は快晴。
最寄りの練馬駅に向かう途中、パチンコ屋に並ぶ行列が見えた。50mは並んでいるであろうか。駅前の「オーシャン」は毎日開店の10時に向けて多くの人が並んでいる。
 その中で一人、列を外れて飲み屋街の方へ歩いていく老人が目に入った。白髪のロン毛で毛先は金色がかっている。一時期のTohjiのような毛量だ。異質な風貌に心惹かれて僕は後を追ってみた。
 するとそのおじいちゃんは自動販売機の前にたちポケットを弄っている。どうやら飲み物を買うらしい。ゆっくりと近づき声をかけてみた。

YT「すみませーん、僕カメラマンしてまして〜、服装とか髪型すごいかっこいいなって思ったんですけどよかったら写真1枚撮らせてもらえないですか?」

OJ「ぁあ、いいですよ。」

 枯れた声でおじいさんは了承してくれた。

YT「ありがとうございます!このダウンジャケットかっこいいですね!このテープは何ですか?」

OJ「これは破れところに貼ってる。」

YT「そなんですねー!じゃあ結構長いこと着られてるんですか?」

OJ「いやまだ買って1年くらい。」

 左腕と前面下あたりにテープが貼ってあった。買ってまだ1年だが夏以外は毎日のように着ているから破れてしまったらしい。ギャンブルが好きでこの日も朝イチのパチンコに並んでいたおじいちゃんだが、店内は寒いのでパチンコの時はいつもこのジャケットを着ているらしい。競馬もするので、シャツのポケットには予想書き込み用のボールペンが刺さっていた。僕が中学生のころ上下プージャ(プーマのジャージ)のヤンキーがしていた3割ほどしか閉めないチャックの閉め方「ヤンキーチャック」(通称:ヤンチャ)をこのおじいちゃんがしているのも、すぐにペンを取り出せるためであろうか。実にギャンブルに特化したスタイリングである。

YT「この帽子もかっこいいですね!」

OJ「これはー、長いこと着てるねぇ」

 ブルーのコンバースのメッシュキャップはお気に入りらしい。街中ではちょくちょくコンバースのアパレルを着用しているおじいちゃんを目にする。コンバースの名作「チャックテイラー」を前面に押し出したデザインは、いなたいアイテムの一つに数えられるが、おじいちゃん御用達ブランドなのだろうか。もしくはおじいちゃんがよく行くお店、つまり地元の洋服屋であったり紳士服売り場があるスーパーなどに置いてあるのだろうか。リサーチが必要だ。
 靴は駅の近くにある「東京靴流通センター練馬点」で購入したらしい。最近購入したのだろうか、きれいだ。


例:コンバースのジャケット


例:コンバースのナップサック


 撮影後、おじいちゃんはそのままパチンコ屋のほうへ歩いて行った。去っていく後ろ姿を見てなんとなく、このおじいちゃんはお金のためにギャンブルをしているのでは無いなと思った──


白髪ロン毛の人


テープで補修したダウンジャケット(前面下部)


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